城旅へようこそ

明知城でビギナーも「戦国の山城」体験! 落合砦・明知城・仲深山砦②

日本の城を知り尽くした城郭ライター萩原さちこさんが、各地の城をめぐり、見どころや最新情報、ときにはグルメ情報もお伝えする連載「城旅へようこそ」。今回は、岐阜県恵那市の明知城です。前回紹介した落合砦(とりで)のすぐ近くにあるこの城は、山城ビギナーにもおすすめの歩きやすい戦国の城です。(トップ写真は落合砦から見た明知城)

【動画】明知城にのぼってみた

<武田vs.織田の東美濃争奪戦! 落合砦・明知城・仲深山砦①>から続く

明知城は戦国時代、明知遠山氏の居城に


明知城(岐阜県恵那市)は、明智川と明智の盆地を西に見下ろす標高約530メートルの城山に築かれている。「東濃雑録」によれば、1247(宝治元)年に明知遠山氏の祖・遠山景重が築城したとされる。東美濃は鎌倉時代から遠山一族が支配していたが、南北朝の動乱期に緊張が高まって明知城が築かれたという。はっきりしたことはわからないが、戦国時代には明知遠山氏の居城として機能していた。

<武田vs.織田の東美濃争奪戦! 落合砦・明知城・仲深山砦①>で述べたように、戦国時代の東美濃は甲斐・信濃の武田信玄・勝頼と三河の徳川家康の板挟みとなった。美濃へ勢力を広げた尾張の織田信長は家康と同盟を結んでいるため、信長と信玄・勝頼の間で争奪戦が繰り広げられた。

明知城でビギナーも「戦国の山城」体験! 落合砦・明知城・仲深山砦②

明知城。整備されてかなり遺構が見やすくなった

東美濃を東西に走る中山道と中馬街道は、東美濃を挟み込むようにして南北に平行して通り、信濃と尾張をつなぐ。有力な国衆の城の配置をみると、北側の中山道沿いには苗木遠山氏の苗木城(岐阜県中津川市)、中馬街道沿いには明知城、小里氏の小里城(岐阜県瑞浪市)、妻木氏の妻木城(岐阜県土岐市)がある。戦国時代には中山道より中馬街道が使われたようで、明知城の重要性がうかがえる。その立地ゆえに幾度も攻防の舞台となり、それに伴って改変されたと考えられる。

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苗木城。木曽川北岸の岩山に築かれている

たびたび争奪戦 関ケ原後遠山氏が返り咲く

明知遠山氏にとってとくに大きな敗戦は、1570(元亀元)年の上村合戦だ。信長の命令により出陣した東美濃の諸将は、上村(岐阜県恵那市)で武田軍に大敗。総大将を務めた明知城主の遠山景行も討ち死にした。

明知城は、籠城戦(ろうじょうせん)の末に落城もしている。明知遠山氏にとって最大の負け戦といえる、1574(天正2)年の明知城の戦いだ。東美濃奪還を狙う武田勝頼が、明知城、串原遠山氏の串原城(岐阜県恵那市)、阿寺遠山氏の阿寺城(岐阜県中津川市)などに一斉攻撃を仕掛けてきた。

明知城には、城主の遠山一行のほか飯羽間(いいばま)城主の遠山友信ら東美濃の諸将が集まり、籠城体制を整えて信長の援軍を待っていた。ところが、城内で友信の謀反が起き、明知城は10日も経たずに落城。信長は嫡男の信忠とともに鶴岡山陣城(諏訪ケ峰砦)に陣城を築いて入り、一夜城に陣を置いた勝頼との決戦に備えたといわれているが、なすすべもなく岐阜城(岐阜市)へと陣を引いたようだ。以後、東美濃は1575(天正3)年まで、岩村城を拠点として武田が支配した。この戦いは「十八砦の攻防」とも呼ばれ、詳細は不明ながら、遠山一族の18の砦が陥落したとみられている。

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信長が陣を置いたとされる、鶴岡山陣城(諏訪ケ峰砦)

その後、1575(天正3)年に織田方が岩村城を攻略して東美濃を奪還すると、明知城も明知遠山氏のもとに戻った。しかし、1582(天正10)年に武田氏が滅亡し、本能寺の変で信長が横死すると、東美濃三郡は森長可の領地となり、1583(天正11)年に明知城主の遠山利景は家康の元へ去った。1584(天正12)年の小牧・長久手の戦いで利景は明知城を攻略するも、戦いが終息すると明知城は森氏に還付された。

明知遠山氏は再び家康を頼って三河へ逃げたが、1600(慶長5)年の関ヶ原の戦いで再び明知城を攻略し、1603(慶長8)年に恵那・土岐郡内で6,530石を拝領。明知城主の座に返り咲いたのだった。やがて支配拠点は明知城から西のふもとの明知陣屋へ移り、明知城は廃城となったとみられている。

遊歩道でも実感できる防衛の工夫

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明知城にある貯水池跡

明知城は、歩きやすい遊歩道が整備されている一方で山全体に城の遺構がよく残る、見ごたえある城だ。初級者、中級者、上級者それぞれが楽しめることが魅力といえる。標高は約530メートルだが比高は70メートルほどしかなく、さほど登ることなく戦国の山城を気軽に楽しめる。その上、ダイナミックな横堀や竪堀が状態よく残り、それらが見えやすいようにしっかり整備されたのがありがたい。山城に目が慣れていない初心者でも、すぐに堀切や横堀などを見つけることができるだろう。

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ざっくりと断ち切られた堀切、曲輪もよく見える

必見は、主郭(本丸)などをめぐる長大な横堀と、横堀から派生するおびただしい数の畝状竪堀群(うねじょうたてぼりぐん)だ。このパーツを目にするだけで、山城に削り込まれた防御の意図が理解できるはずだ。三の丸と南側の曲輪(くるわ)を分断する堀切は遊歩道になっている。意識せず歩くとただの遊歩道だが、両側を見上げれば、頭上から挟撃されるしくみが想像できる。主郭で曲輪の側面をのぞき込めば、かなり人工的に削り込んで急崖にしているうえに、要所に折れをつけて、容赦なく側面攻撃を浴びせられるよう設計されていることも理解できるだろう。尾根先には堡塁(ほるい=陣地)が無数に設けられ、堅固な構えが感じられる。コンパクトながら、戦国の戦い方の工夫が詰まった山城だ。

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主郭北側の畝状竪堀群。最も高い所が主郭


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遊歩道になっている横堀と、そこから派生する畝状竪堀群

城域が広範囲に残るため、城の全体設計を考える楽しみもある。明知城はおもに、山頂に主郭を置き、東側の曲輪と西側の曲輪が主郭を取り巻き、この二つをつなぐようにして腰曲輪がめぐる構造だ。さらに出曲輪、水の手などで主郭部が構成されている。曲輪には土塁がまわっておらず、虎口(出入口)の構造もはっきりしない。曲輪同士の連携もよくわからず、曲輪が独立している印象ではある。

それに反して、畝状竪堀群はかなりつくり込んである。比高がさほどないため長さはそれほどではないが、思わず歓声をあげてしまうほど圧巻で、突出部の設け方や高低差の使い方も緻密(ちみつ)だ。畝状竪堀群は、この地域においては一般的ではなく、恵那市内では明知城と仲深山砦(なかのみやまとりで)でしか確認されていないという。かなり緊迫した情勢下で増設された証なのだろう。技法から判断すると戦国時代の構築と推察されるが、1574年以降の武田支配下の時期か、それとも織田が奪還した後かは、目の前に見える姿だけで判断するのは難しい。それぞれの転機にどの程度の改変がされたのか、周辺の城はどうなのだろうかなどと、曲輪の独立性との兼ね合いも考えつつ想像しながら歩くのが楽しい。

明知城でビギナーも「戦国の山城」体験! 落合砦・明知城・仲深山砦②

三の丸と南側の曲輪との間にある堀切

上級者向けの仲深山砦

明知城から直線距離にして200メートルほどのところにある仲深山砦は、上級者向けだが見応えがあり、明知城とセットで訪れるとおもしろい。明知城と設計に類似性があり、同じように改変が推察される。大きく違うのは、明知城よりも増改築の末に完成した痕跡が明確であることだ。明知城の改変時期を考える上でも、ヒントになろう。西側にある巨大な竪堀は、明知城の東側にある巨大な竪堀と連動して谷筋の中馬街道を封鎖しているとも考えられる。城と城とで連携して、どちらの方向を警戒しているのだろうか……などと、考察は尽きない。

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仲深山砦の二重の堀切

(この項おわり。次回は2月10日に掲載予定です)

#交通・問い合わせ・参考サイト

■明知城
https://akechi-mitsuhide.jp/higashimino-castles/akechi-jo-castle/(恵那市)

■岩村城
http://hot-iwamura.com/pickup/%E5%B2%A9%E6%9D%91%E5%9F%8E%E8%B7%A1(城下町ホットいわむら)

■苗木城
http://www.city.nakatsugawa.gifu.jp/kankou/spot/2018/03/100-432m-360-93017001630122715-320.html(中津川市)

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PROFILE

萩原さちこ

小学2年生のとき城に魅了される。執筆業を中心に、メディア・イベント出演、講演、講座などをこなす。著書に『わくわく城めぐり』(山と渓谷社)、『戦国大名の城を読む』(SB新書)、『日本100名城めぐりの旅』(学研プラス)、『お城へ行こう!』(岩波ジュニア新書)、『図説・戦う城の科学』(サイエンス・アイ新書)など。webや雑誌の連載多数。

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