にっぽんの逸品を訪ねて

鳥取市の「民芸コーナー」で“暮らしの友”となる上質なうつわを探す

お気に入りのうつわや家具は毎日の暮らしを心豊かにしてくれます。そこで、今回は上質な工芸品に出会える鳥取市の通称「民芸コーナー」へ。美術館、工芸店、割烹(かっぽう)店が並び、陶器などを見て、知って、使う体験ができます。3軒そろって“体験型ミュージアム”ともいわれています。

前回ご紹介したように、JR鳥取駅前には温泉が湧いています。源泉かけ流しの温泉宿に泊まって訪ねてみてはいかがでしょう。

“鳥取民芸の父”吉田璋也がつくった「民芸コーナー」

鳥取駅北口から5分ほど歩いた民藝(げい)館通りには「民芸コーナー」とよばれる一角があり、「鳥取民藝美術館」「鳥取たくみ工芸店」「たくみ割烹店」が並んでいます。土蔵風の建物が連なる光景は、そこだけ時間が止まったよう。この3軒は、鳥取市出身の耳鼻科医で“鳥取民芸の父”といわれる吉田璋也(しょうや)が開設しました。

ところで「民芸って?」……と思いながら、まずは「鳥取民藝美術館」へ。

「鳥取民藝(げい)美術館」。建物は国の登録有形文化財

「鳥取民藝美術館」。建物は国の登録有形文化財

一歩入ると昭和レトロな趣

一歩入ると昭和レトロな趣

館内には、実用的で美しいうつわや家具などが並んでいます。

民芸」は「民衆的工芸」の略です。無名の職人が作った工芸の美を「民芸」と名付けたのは柳宗悦(やなぎむねよし)でした。吉田璋也は柳に共感し、「高価な美術品だけに美があるのではなく、実用品のなかにこそ健康的な美が宿っている」と考え、鳥取で民芸運動を広めました。この美術館は鳥取の民芸運動の拠点として1949(昭和24)年に創設されています。

吉田璋也の写真も飾られていました

吉田璋也の写真も飾られていました

館内には、吉田璋也が国内外で集めた民芸のコレクションや、自身がデザインを提案した新作民芸が並びます。決して派手ではないけれど、丁寧に作った作者の思いがぬくもりとなって表れ、心ひかれる作品ばかり。使いやすく、毎日見ても飽きのこない“用の美”を感じます。収蔵品数は5000点以上に及び、約半年ごとに展示が変わるそうです。

うつわや調度品が見やすく配置された館内

うつわや調度品が見やすく配置された館内

使い心地のよさそうな作品が並びます

使い心地のよさそうな作品が並びます

“暮らし”を意識したディスプレーで、建物と展示品がみごとに調和しています。美術館の建物は2012(平成24)年に国の登録有形文化財となりました。障子の桟(さん)やコンセントカバーなど細部まで吉田璋也自身によるデザインを取り入れた凝った造りです。

暮らしのヒントになりそうな展示がいっぱい。障子の組子細工が作品を引き立てます

暮らしのヒントになりそうな展示がいっぱい。障子の組子細工が作品を引き立てます

テーブルを置いて“暮らし”をイメージ

テーブルを置いて“暮らし”をイメージ

受付の回りもどこか懐かしい風景

受付の回りもどこか懐かしい風景

新作民芸運動の足跡を伝える牛ノ戸焼の作品は必見

見逃せないのは牛ノ戸焼の作品です。吉田璋也は、当時の日常生活に民芸の美を取り入れたいと、1931(昭和6)年に新作民芸運動を興しました。生活雑器を作っていた牛ノ戸窯に出かけ、伝統の製法を生かしつつ自らデザインした民芸作品を提案。その時に生まれた染め分けのデザインは、今見てもモダンです。

吉田璋也がデザインの指導をして誕生した牛ノ戸焼の染め分け陶器

吉田璋也がデザインの指導をして誕生した牛ノ戸焼の染め分け陶器

その後、3色の染め分けデザインに発展していった

その後、3色の染め分けデザインに発展していった

吉田璋也は陶芸だけでなく、木工や金工、染織など多くの職人を指導し、デザインから生産、流通、販売にいたる組織を作り上げました。のちに「民芸のプロデューサー」を自認しています。

2階には吉田璋也がデザインしたイスもあります

2階には吉田璋也がデザインしたイスもあります

この日は2階に中国の古民芸が飾られていました

この日は2階に中国の古民芸が飾られていました

館内は、どこを見ても“用の美”に満ちた民芸が並び、目に映る一つひとつの光景に心が安らぎました。

使いやすさを追求した手作りの作品がそろう「鳥取たくみ工芸店」

鳥取民藝美術館のとなりには「鳥取たくみ工芸店」があります。職人たちが作った商品を広く流通させるため、1932(昭和7)年に開店しました。

「たくみ工藝店」

「鳥取たくみ工芸店」

店内では陶器を中心に民芸を販売

店内では陶器を中心に民芸を販売

「この店は日本で初めての民芸店だといわれています」と話すのは主任の田中司さん。
この日は、因州中井窯や山根窯、延興寺窯など鳥取の窯元を中心とした陶器、ガラスの器、布小物などの民芸品が並んでいました。

鳥取の窯元をはじめ、多くの陶器が並びます

鳥取の窯元をはじめ、多くの陶器が並びます

干支にちなんだかわいらしい作品も

干支にちなんだかわいらしい作品も

田中さんに品ぞろえについてうかがうと、「吉田璋也の『使いやすさを追求すると健康的な美にいきつく』という考えに基づいた作品をそろえています。奇をてらわず、丁寧に作られたものばかり。1点1点違うので、“暮らしの友”になるうつわをぜひ見つけてください」とのこと。

“暮らしの友”を見つけてみましょう

“暮らしの友”を見つけてみましょう

2階のギャラリーは必見です。期間によってさまざまな窯元の展示販売を行っているそうですが、さりげなく凝った造りの建物が作品を引き立てます。テーブルが置いてあるので、実際に使うことをイメージしやすくなっています。

2階のギャラリーは心地のよい空間です

2階のギャラリーは心地のよい空間です

鳥取の食材を民芸のうつわで味わう「たくみ割烹店」は“生活的美術館”

さらにとなりには1962(昭和37)年に開店した「たくみ割烹店」があります。実際に民芸のうつわを使って鳥取の食材が味わえるこの店を、吉田氏は「生活的鑑賞をする美術館」と称しました。

「たくみ割烹店」

「たくみ割烹店」

アメ色に輝く店内は心が安らぎます

アメ色に輝く店内は心が安らぎます

地元客にも愛される人気店で、ランチタイムはにぎわっていました。ランチの名物メニューの一つが「鳥取和牛みそ煮込カレー」。鳥取和牛を玉ネギと煮込み、さらにみそを加えているそう。鳥取和牛を玉ネギとトマトで煮込んだ「鳥取和牛ハヤシライス」も人気だとのことで、カレーとハヤシの両方が味わえる「鳥取和牛ハーフアンドハーフ」(1200円)を注文しました。

ライスでカレーとハヤシを区切った「鳥取和牛ハーフアンドハーフ」

ライスでカレーとハヤシを区切った「鳥取和牛ハーフアンドハーフ」

カレーはコクがあり、深いうまみ。ハヤシライスは牛肉やトマトの甘みを、酸味が引き立て、食が進みます。どちらも牛肉がやわらか。お米は県産のコシヒカリだとか。

小鉢も民芸だとよりおいしそう

小鉢も民芸だとよりおいしそう

食後のコーヒーも民芸でいただきます

食後のコーヒーも民芸でいただきます

ランチメニューには、食後のコーヒーまたはフルーツかヨーグルトが付いています。コーヒーももちろん民芸のうつわです。旅先で、ほっこりとくつろげる食事になりました。

【問い合わせ】
・鳥取民藝美術館/鳥取たくみ工芸店
https://mingei.exblog.jp/i0/

・たくみ割烹店
鳥取県鳥取市栄町652
電話0857-26-6355
11:30~14:30(L.O.14:00)
17:00~22:00(L.O.21:00)、日曜と祝日は17:00~21:00(L.O.20:00)
第3月曜休(8・12月は無休)

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PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

鳥取の「松葉ガニ」と「駅近の源泉かけ流し温泉」を楽しむ冬の極上グルメ旅

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