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涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

スイスで5つ星ホテルを泊まり歩き、鉄道の1等車で国をぐるり1周する――。&TRAVEL副編集長が2019年8月から9月にかけて、そんな旅を体験しました。写真家の猪俣博史さんと二人三脚で巡った9日間の珍道中、第4回はリッフェルアルプから登山電車で、スイスアルプスの高峰をぐるり望む標高3100mの展望台へ。驚きの絶景を堪能するはずが、思わぬトラブルに見舞われたのです。
(文・動画:&TRAVEL副編集長・星野学 写真・猪俣博史、トップ写真は宿から見たマッターホルン)

【動画】どこを向いてもアルプス! ゴルナーグラート展望台ぐるり360°です。映像がふらふら揺れているのは……

<1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅(3)から続く。
<1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅(2)はこちら。
<1等車と5つ星ホテルで巡るスイス1周鉄道旅 (1)はこちら。

マッターホルンの声が聞こえた……

2019年8月27日午前6時。山岳ホテル「リッフェルアルプ・リゾート 2222m」で目覚めた私は、落ち着かない気持ちで部屋のデッキに出ました。宿の真正面にあるマッターホルンが見えるのかどうか、気になって仕方がなかったのです。

前日に宿に着いた際、ホテルのスタッフに、「マッターホルンを見るなら朝ですよ」と教えてもらったのでした。外はまだ真っ暗。マッターホルンはまだ闇に溶けています。でも、空には星が。これは、期待できるかもしれません。

空が次第に白んできました。マッターホルンが、次第に輪郭を現してきます。

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

マッターホルンが見えてきた


涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

朝日に照らされて……


涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

全容を現した!

がくっ、とひざが折れ、両手をついてしばし。頭の中に、リヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」が大音量で響いています。振り仰げば、空に突き出た荒々しい岩肌が、圧倒的な存在感でそこにある。昨日山頂にまとわりついていた雲もない。目と鼻から熱いものが流れ出します。

すべてを凌駕(りょうが)する神々しさを前にした、ちっぽけな我が身。ああ。マッターホルンの声が聞こえた気がしました。

――悔いなく生きておるか?
「酒ばかり食らっています」

あまりの返答にあきれたのか、山の問いかけはそれっきりでした。

ゴルナーグラート鉄道で展望台へ

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

朝食を済ませ、宿から徒歩10分ほどのリッフェルアルプ駅に歩いて向かいます。ここから登山電車「ゴルナーグラート鉄道」に乗り、終点のゴルナーグラートにある展望台を目指すのです。
前日に会ったツェルマット観光局のヴァレリー・ビナーさんから、「9時51分にリッフェルアルプを出る電車に乗りますよ」と念を押されていたので、ホームで待ちます。やがて、電車の到着です。

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

リッフェルアルプ駅に到着した電車

先頭車両で手を振っているヴァレリーさんとは、すぐ合流できました。研修生のミシェル・ユングさんと2人で案内してくれます。気温は12℃です。

ゴルナーグラート駅は標高3100m。リッフェルアルプ駅からわずか18分で、900m近く高い場所へ移動することになります。大丈夫だろうか……。高地になれていない私は不安になります。
というのも、この旅に出るまで私が体験した陸地の最も高い場所は、富士山の新五合目(1440m)でした。昨夜泊まったホテルの2222mですら、自分史上最も高い場所。3000mを超えるような場所で何が起きるのか、まったく想像がつかないのです。電車に乗って5分もすると、耳がつーんとして、少し息苦しくなってきました。空気が薄いのでしょう。

ゴルナーグラート駅に着きました。電車を降りると、冷気が体を包む一方で、日差しは強烈なので、寒さはあまり感じません。小高い丘の上にある展望台を目指します。

体が思うように動かない!

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

ゴルナーグラート展望台から望むマッターホルン

……あれ、どうもおかしい。普通に歩いているつもりなのに、手足が思うように前にでない。体が鉛になったかのように、のろのろとした動きです。息苦しさも増してきた。
ああ、これが未知の高所か。いま、全力疾走するか絶叫するかしたら、たぶん死ぬな……。ぼんやりした意識の中で、そんなことを考えます。

だめだ、少し休もう。歩道脇の壁に手を突いて、呼吸を整えます。ヴァレリーさんが気づいて「大丈夫ですか? 無理したり、急いだりしないでくださいね」と声をかけてくれます。「こんな高い所に来たのは初めてで。体が慣れないだけですから」と答え、先に行ってもらいます。

のろのろ、のろのろ。ようやくたどりついた展望台は、重い体を引きずってくる価値のある景観でした。目に飛び込んでくるアルプスの峰々のまばゆさ! 陽光にきらめく氷河の重厚さ! 目から入る情報は鮮烈なのに、肝心の頭がぼんやりしているので、感動が半減しているような、妙な気分です。

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

スイス最高峰モンテ・ローザ(左)と、ゴルナー氷河(中央)

「この展望台からは、4000m級の29峰が見えます。イタリアとの境にあるモンテ・ローザ(4634m)は、モンブランに次いでアルプスで2番目に高い山です。スイス国内だけにある山としては、アルプスで3番目に高いドーム山(4545m)が最高峰です」と、ヴァレリーさんが教えてくれます。

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

白色と茶色のまだら模様の氷河も

「あちらの氷河を見てください。茶色い部分もありますよね」。岩肌が透けている部分もありそうですが、たしかに部分的に茶ばんでいます。「アフリカのサハラ砂漠から飛んできた砂だと言われています」。ええっ、そんな遠くから? 中国の黄河流域から日本に「黄砂」が飛んでくるようなものか。

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

方角によって景観の趣はまったく違う

体は相変わらず重いですが、この景観を映像に残そう、と、にわかに仕事モードに。展望台の中でもっとも高い場所にある岩によじのぼり、自撮り棒に取り付けたスマホで動画を撮ることにしました。

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

こちらの方角はほとんど岩肌

岩はでこぼこしているので、足元が安定しません。体は重いし息苦しいし、ころげ落ちたらただでは済まないでしょう。両手で自撮り棒をもって、少しずつ、少しずつ体を回転させ、360°ぐるりを撮ります。動画は記事冒頭をご覧ください。映像がふらふら揺れるのは、そんな状況で撮影していたからなのでした。

絶景カフェでお茶して一息

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

どーんとパノラマ写真

ひととおり撮影したので、下山前に水分補給です。展望台に隣接するクルムホテル・ゴルナーグラートのテラスでお茶をいただきます。これが何とも絶景!

涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

マッターホルンを眺められるクルムホテル・ゴルナーグラートのテラス


涙して見上げたマッターホルン 一等車と五つ星ホテルで巡るスイス旅(4)ゴルナーグラート~ツェルマット

案内をして下さったヴァレリー・ビナーさん(左)とミシェル・ユングさん

ゆるキャラ「ウォーリー」突然現る

体が高所に慣れてきたのか、だいぶ意識もはっきりしてきました。落ち着いたところで登山電車に乗り、一駅先のローテンボーデン駅へ向かいます。そこからはハイキングなのですが……、あれ、大勢の観光客に交じって不思議な乗客が現れた。ヒツジのゆるキャラです。「ツェルマットのマスコット、ウォーリーです」と、ヴァレリーさん。

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突然現れたゆるキャラ「ウォーリー」


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駅は自動改札


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ローテンボーデン駅の表示と時計

午前11時12分。ウォーリー君も我々と一緒にローテンボーデン駅で降りました。彼もハイキングをする気配です。ここは標高2815m。ゴルナーグラートより300mほど低いだけですが、体も呼吸もだいぶ楽です。私にとっては、3000mが一つの壁だったのかもしれません。

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絶景ハイキングへいざ出発!

さあ、一駅先のリッフェルベルクにあるホテル「リッフェルハウス」にたどりつくまで、およそ1時間のハイキングです。運動靴を履いてはいますが、かなり急な坂道を歩いて下るのは、かなり足にきます。転ばないように、慎重に、慎重に。先頭をいくヴァレリーさんが踏みしめた跡なら大丈夫だろうと、彼女の足跡をなぞっていきます。

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逆さマッターホルンは見られるか?

15分ほどで、トレッキング最大のヤマ場に到着。標高2757mのリッフェル湖です。マッターホルンの姿が湖水に写る「ミラーレイク」として有名です。出発前、スイス政府観光局の押尾雅代さんから「運が良ければご覧いただけます」と聞いていました。よく晴れた日でないと湖にマッターホルンが映えないからです。

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リッフェル湖


幸い、いい天気です。待望の「逆さマッターホルン」は……。

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湖に写るマッターホルン

頂上付近にかかる雲が残念でした。朝一番だと、雲の無い鏡映しが見られそうです。

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逆さマッターホルンを背にウォーリーもポーズ

近くではウォーリー君が観光客に愛敬をふりまいていました。お願いして、私たちもパチリ!

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太陽が高くなり、山もますます輝きを増す


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道しるべのようにそびえるマッターホルン

途中で、お年寄りが立ち止まってマッターホルンを仰いでいました。その後ろ姿がすてきで、しばし見とれてしまいます。

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スケールの大きな起伏が

それにしても、天と地の遠さといったら。山に囲まれた途方もない空間の中にぽんと放り込まれた感じです。山登りをしない私には、初めての感覚です。

地元のチーズもワインも、うまいうまい

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リッフェルベルク駅が見えてきた

やがて、リッフェルベルク駅と、近くにあるリッフェルハウスが見えてきました。広大な空間を味わい尽くすハイキングももうじき終わり。足はガタガタですが、何だか名残惜しいです。リッフェルハウスにつくとヴァレリーさんが「お疲れ様でした! よく頑張りましたね」と、ハイタッチをしてくれます。その勢いに少し照れくさくて、「山登りなんてしたことないから、くたびれ果てましたよ」と、情けない返事をしてしまいます。

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リッフェルハウスに到着。ようやく昼食にありつける

昼食は屋外のパラソルの下で、スイス名物チーズフォンデュと、この地域でつくられたハムやチーズを。ヴァレリーさんに地元の白ワインをボトルで選んでもらいましたが、これがチーズと恐ろしく相性がよく、ハイキングでのどが渇いていたこともあって、水のようにがぶ飲みしてしまいます。食べ物は地産地消だなあ、と、妙に納得しました。

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恐ろしく酒が進んだ地元産のおつまみ


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チーズフォンデュの食べ方を、ヴァレリーさん(右)から教わる

食事を終えて一息ついたら、ゴルナーグラート鉄道に乗ってツェルマット駅へ。14時39分、駅に着き、地図を受け取って街の簡単な説明を受け、ヴァレリーさんとミシェルさんとはお別れです。猪俣さんとふたり、ツェルマットの街を探索することにしました。

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ツェルマットのメインストリート

商店やレストランが並ぶメインストリートから、古民家が保存されている通りを散策。500年以上前のものもあるそうです。ネズミの侵入を防ぐ造りになっている高床倉庫もありました。

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古民家が立ち並ぶ通り

駅前を、ちょっと変わったタクシーが走っていました。電気自動車です。ツェルマットはアルプスの環境保全のためガソリン車の立ち入りが禁じられているのです。街の交通機関は、電気自動車、もしくは馬車!

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ツェルマットのタクシー

1時間ほどで一回りできたので、カフェで一服して、ツェルマット駅へ。16時13分発の列車で、次の訪問地モントルーへ向かいます。
(つづく)

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【取材協力】

スイス政府観光局

スイス インターナショナル エアラインズ

スイストラベルシステム

スイス・デラックス・ホテルズ

スイス1周鉄道旅

PROFILE

&編集部員

国内で、海外で。&編集部員が話題の旅先の新たな魅力を「発見」し最新情報をリポートします。

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