永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(46)この人は車中で誰を待つ 永瀬正敏が撮ったカンヌ

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、フランスはカンヌの街角で見かけた、車の中で本を読む人。この分厚い本は――。

(46)この人は車中で誰を待つ 永瀬正敏が撮ったカンヌ

©Masatoshi Nagase

国際映画祭開催中にフランス・カンヌの街を夜歩いていたら、レストランの前に車が止まっていた。車内のライトが点灯していて、座っているドライバーさんの姿が浮かび上がって見えた。彼はただ、じっと本を読んでいた。乗せてきたセレブなお客さんをここで待っているのだろう。

きちんとスーツを着てネクタイをし、車内の明かりを頼りに分厚い本を読む。その姿がとても知的に感じられた。どんな本を読んでおられるのだろう。ひとり車内でゲストを待つこの時間を、楽しんでおられるようにも思える。

役者も映画の撮影をする場合は、待ち時間も仕事のうち、と言われる。待っている間に心や体を保つのは結構大変なのだ。

飲み食いをしているわけでも、車外でたばこを吸っているわけでもない。こういうプロフェッショナルとしての意識を感じさせる方を、僕はとてもリスペクトする。ただ、僕としては、この方が本を読み終わる前に、お客さんには戻ってきてほしいな、と思ったけれど。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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