カメラと静岡さとがえり

清流が育む、ウイスキーとわさびの里 オクシズこと奥静岡へ

スリランカと日本を拠点に活躍する写真家の石野明子さんが故郷を撮り歩く連載、「カメラと静岡さとがえり」。第10回は、政令指定都市のイメージとは違う、静岡市の新しい魅力「オクシズ」こと奥静岡の地域を紹介します。オクシズとは、清流として名高い安倍川などの上流域にあたる、静岡市内の山間地域の総称・奥静岡を略して市が定めた愛称のこと。静岡市の街中は、実は面積の20%程度。市の大半は、実は豊かな自然が残っており、昔ながらの生活が営まれています。そんな中でも石野さんが心ひかれた酒、わさび、温泉を通して、「オクシズ」の魅力をお伝えします。
(トップ写真はわさびとおかか、しょうゆで白飯をいただく究極のシンプル飯、食堂「うつろぎ」の名物「さびめし」)

オクシズの風景

オクシズには、ふと足を止めたくなる景色があちらこちらに

静岡市の中山間地域、通称「オクシズ」と呼ばれる奥静岡。この辺り一帯は、静岡市内でありながらも自然、魅力的な食材にあふれた、とっておきの観光スポットなのである。気になるスポットはあちらこちらに点在しているので、気軽にさっと立ち寄れるドライブがおすすめだ。

オクシズの自然をいかした、オール静岡産ウイスキー

ます最初にご紹介するのはオクシズの自然をいかしたクラフトウイスキー(地域に根ざしたウイスキー)を造っている「ガイアフロー静岡蒸溜所」。

蒸留器

蒸留器3器のうち1器は伝統ある軽井沢蒸留所から引き継いだもの

立ち上げたのは中村大航さん(51歳)。中村さんの祖父は、海軍で英国に駐在していたこともあり大のウイスキー愛好家だったという。そして中村さんの父も、様々なお酒を嗜(たしな)む人だった。そんな環境で育った中村さんは、職人たちの技によってつくりだされるお酒のビハインドストーリー、そしてもちろん味わいに魅せられていった。20代の時には静岡市内にある老舗のバーに足繁く通い、熟練のバーテンダーに怒られながらお酒の飲み方を教わったそうだ。

原酒

落ち着いた雰囲気の試飲室、蒸留したてや熟成中の原酒が試飲できる

中村さんが目指すのは、この静岡の自然を最高に生かしたクラフトウイスキー造りだ。富士山から流れてくる大自然に濾過(ろか)されたおいしい水、きれいな空気、そして静岡の杉で作る樽(たる)。ウイスキーの味わいは発酵、樽の材質、サイズ、貯蔵期間など気の遠くなるような様々な要素で決まっていく。そしてそこに毎年違う気候も加わってくる。それはまるで空をつかむようなもの。でもそこに面白さがあったりもするという。職人たちと一緒につくりあげていく芳醇な香りの琥珀色の液体。「ロマンがありますねぇ」と言うと「ロマンしかなくて困りますよ。」と笑う中村さんなのであった。

ガイアフローの中村さん

「原材料オール静岡産のウイスキー作りを目指します」と中村さん

そしてここではなんとプライベートカスクが購入できる。プライベートカスクとはウイスキーの樽買いのこと。ウイスキーは樽ごとに味わいが異なるため、その樽だけが持つ味わいを楽しむことができるのだ。樽のオーナーである購入者が望むタイミング(熟成3年目から5年目の間)でボトルに詰め、自分だけのウイスキーが飲めるというこのサービス。「安い買い物じゃないですし、すぐに手に入るものじゃない。だけどそれ故に大人だからこそできるかっこいい遊びだとも思います」。樽の熟成度を見に蒸留所を訪れるのも日々の楽しみにもなりそうだ。値段は小さな樽で30万円から。仲間同士で購入するのもいいかもしれない。

熟成庫

製造工程や熟成庫が見学できるツアーも実施している(要予約)

「その土地の伝統や文化に根ざしたものづくりなら、たとえ小規模でも必ず世界でも認められるものになると確信しています。故郷、静岡の魅力はまだまだ伝えるべきものがたくさんあります。私たちのウイスキー造りを通して、地元の魅力を発信していきます」。今秋には、3年間熟成されたウイスキーがついに初出荷を迎える。中村さんの挑戦はこれからどんどん熟成していく。

徳川家康が独り占めした、有東木のわさび

次は車を30分ほど走らせて、わさびの里、有東木(うとうぎ)地区へ向かう。ここ有東木は、わさび栽培発祥の地と言われている場所なのだ。

わさびの葉っぱ

静岡のわさび栽培は、「水わさび伝統栽培」として世界農業遺産にも認定されている

江戸時代に自生していたわさびの栽培を始め、駿府に隠居していた家康公にわさびを献上した。するとその香りと繊細な辛味に感動し、門外不出の品になったとか。

わさびカラートラック

わさびカラーのトラック発見

家康公が独り占めしたいほどのわさび、ぜひ味わいたい! そこで向かったのが食堂「うつろぎ」。ここは食事はもちろんお土産用のわさびも買えて、わさび漬け作りなども体験できてしまう、有東木わさびの全てが分かる場所なのだ。

うつろぎ

小川のそばにたつ「うつろぎ」

実はこの「うつろぎ」、地元の自治会で運営されている。日本の景気が落ち込み、地方が過疎化に苦しむ中、この有東木も同じだった。そんな折、自治会役員が農家の女性を集め「食堂を運営するように」との命を下したそう。地元の食文化を通じて、地域興しをしようとしたのだ。いきなりの任務に女性たちはてんやわんやの大騒ぎ! だが地元のおいしい食材を知ってもらうことが観光に繋がるという信念はみんな一緒だった。

うつろぎのお母さん

うつろぎの「お母さん」たちは、観光の相談にものってくれる

「みんなで何度も試作を繰り返して、会議して、もうねレジを覚えるのも大変でしたよ」と思い出し笑いしながら当時のことを話してくれたのは現在の「うつろぎ」委員長、西島和子さん(61歳)。できあがったメニューは昔からの郷土料理を再現した素朴なメニュー。華やかではないけれど、愛情がこもっている。新鮮な食材でおなかがいっぱいになるように、地元の「お母さん」たちの願いが込められている。

さびめし定食

デザートまですべて手作りのさびめし定食(税込1400円)

私が頼んだのはさびめし、手打ちそば、わさび葉の天ぷらなど有東木の名産がたくさん詰まったさびめし定食(1400円)。さびめしは、白いふっくらしたごはんにおろしたてわさびとおかか、醤油を垂らしていただく看板メニュー。口に含むとごはんの湯気でさらに引き立つわさびの高貴な香り、そして甘みが広がり最後にキュッと清らかな辛味が全体を引き締める。有東木わさびの最大の特徴はこの甘み。冬はとても寒くなる厳しい環境が、わさびをこんなにおいしくしているのだそうだ。農家ならではの話も聞けるなど、地元の「お母さん」たちのおもてなしに心まで温まる。しっかりと心をつかまれ、リピートを誓ったのだった。

清流のせせらぎと緑を楽しめる温泉へ

そして次はさらに車を走らせて梅ケ島温泉郷へ。この温泉郷は、安倍川最上流部に湧く「コンヤ温泉」「梅ケ島金山温泉」「梅ケ島新田温泉」「梅ケ島温泉」の総称だ。今回はもっとも奥に位置する梅ヶ島温泉を訪れた。そして一番奥まで来たのだからと一番源泉に近い「湯元屋」へお邪魔した。

湯元屋外観

安倍川沿いの急な斜面にたつ「湯元屋」

こちらは50年以上続く老舗で、食事も自慢の日帰り温泉だ。手作りの湯船は大きくはないが源泉掛け流し「虹乃湯」が自慢。じっくり温まろう。

虹乃湯

「虹乃湯」には、小さいながらも露天風呂もある

そのあとは窓に映るオクシズの深い緑がすがすがしい食事処で湯冷まし休憩を。静岡自慢の黒いおでんもあればご当地の日本酒に合うおつまみも豊富だ。

一面窓の食事処

一面窓の食事処

「さっきまで『あきちゃん』いたんだけどねぇ」と店主の小泉久巳さん。『あきちゃん』とは誰かと尋ねると、時折姿をみせる野生のカモシカの愛称だそうだ。取材したのは10月初旬だったが、鮮やかな緑の紅葉を揺らす涼しい風が、湯上がりで火照ったからだに心地よい。観光客のピークは11月の紅葉の時期だが、どの季節に来ても景色はいつだって素晴らしいそう。川の音を聞きながら、もうひと休みして帰ろう。

GAIA FLOW(※2月17日現在、「ガイアフロー静岡蒸溜所」の見学ツアーは新型コロナウイルス対応のため受付停止中)
https://shizuoka-distillery.jp/

うつろぎ
http://utougi.hiho.jp/

梅ケ島温泉 湯元屋
https://umegashima-yumotoya.blogspot.com/?m=0

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PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。2019年4月にイカロス出版よりガイドブック「五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ」(税込み1760円)が出版された。
http://akikoishino.com/
http://studio-fort.com/

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