あの街の素顔

知られざる沖縄(前編) ディープやんばるで食べたり飲んだり

沖縄県の本島北部は「やんばる(山原)」と呼ばれ、手付かずの自然が多く残っている地域。世界自然遺産の候補地として注目が集まり、大自然を存分に堪能できるアクティビティーが目白押し! しかしその辺りは今回全くノータッチ。なぜならやんばるには個性豊かなものづくりをする人々がたくさんいて、ほかでは味わえないものを食べたり飲んだり、買い物したりくつろいだりするのも楽しいのです。やんばるの素敵な人・もの・場所を訪ねました。
(文・写真=江澤香織)

まずは「ザ・やんばる」な展望台を目指す

「やんばる」と聞いて、真っ先に思い浮かべるのは、ヤンバルクイナではないでしょうか。地元の人に聞くと「見たことあるよー」という声をちらほら聞きますが、旅行者にはそう簡単に出会えるものでもない。でもやんばる地域は那覇市内から車で2時間以上かかりますし、せっかく遠いところまで来たのだから、やんばるに行ったよ!と言えるような証拠写真が撮りたい。そこで、沖縄の北の突端、辺戸岬のほうまでやってきました。展望台を上がると、眼前に広がるのは目を見張るような雄大な景色!

知られざる沖縄(前編) ディープやんばるで食べたり飲んだり

「やんばるサイコー!」と叫びたくなる。ここまで来たかいがあります

空と海! 自然を満喫! 天気の良い日は本当にすがすがしくて気持ちがいい! 心が震えるほどの素晴らしい眺めです。
そして今回上ったこの展望台は恐ろしいことに、高さ11.5mの超巨大ヤンバルクイナだったのです。

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どどーん。大き過ぎて全容がつかめない(こんな大きい鳥じゃないはず)

知られざる沖縄(前編) ディープやんばるで食べたり飲んだり

(左)後ろから見た展望台。建物の階段を上り鳥の体内に入る。(右)足元だけみるとギョッとする。恐竜か?

やんばるに行ったよ!と絶対に言える圧倒的インパクトですが、巨大過ぎて一緒に写真に写ることができません。でもここからの眺めは最高なので、わざわざでも行く価値はあると思います。ヤンバルクイナと絶景、両方が満たされる不思議な満足感を得ることができます。

知られざる沖縄(前編) ディープやんばるで食べたり飲んだり

どうにかフレームに収まるところまできたら雲行きが怪しくなり、怖い写真になってしまった

ヤンバルクイナ展望台
沖縄県国頭村字辺戸
http://kunigami-kikakukanko.com/itiran/07.html

沖縄本島最北端の酒蔵「やんばる酒造」

さて、次に訪ねたのは大宜味村(おおぎみそん)にある泡盛の蔵「やんばる酒造」。写真は看板娘の池原文子さんです。池原さんは酒蔵の仕事の傍ら、やんばるを盛り上げるために様々な活動をされています。今回の旅で、やんばるの面白い人々をたくさん紹介してくれました。

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池原さんは、やんばる生まれのやんばる育ち。やんばる愛は半端ない

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やんばる酒造は1950年に創業した沖縄本島最北端の酒蔵

やんばるの大自然に囲まれ、清涼な山の水で造る泡盛「まるた」は昔から地元の人々に愛されてきた、地域に根ざした島酒です。県外からも、どうしてもこれが飲みたいと多くの人が訪れます。酒蔵見学は随時行っており、1人からでも受け付けているそうです(要事前連絡。1回の見学は5名まで)。私は知念直・工場長の丁寧な説明を受けながら、蔵の隅々まで見てまわりました。

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やんばる酒造のお酒。「尚」は沖縄の泡盛蔵12社が共同で作った新しいブランド

やんばる酒造の最近の目玉は、池原さんが発起人となった「やんばるもあい」という取り組み。沖縄には「もあい(模合)」という風習があります。仲間同士で毎月1回集まって一定額のお金を集め、参加者のうちの1人だけが順番にもらう仕組み。例えば5人で毎月1万円ずつであれば、当月には誰か1人が5万円もらい、次の月は別の誰かが5万円、という具合。5人の間をお金がグルグル回っているだけ、と言われればそうですが、このもあいという文化のおかげで人の交流が長く続き、困ったときは助け合い、絆が深まるそうです。何十年ともあいを続け、毎月の会合を楽しみにしている沖縄人も多いといいます。

やんばるもあいは、そのもあいにインスピレーションを得た、ふるさと納税のような仕組みです。毎月一定額を支払うと、やんばる酒造から泡盛と、その土地の旬のおいしいものが届きます。さらに年に1回、全国のもあい仲間にやんばる酒造に集まってもらい、親睦会を開きます。ここでしか食べられない地元の料理が並び、この日だけの特別な泡盛やカクテルなどが振る舞われ、獅子舞や音楽ライブなど催しも盛りだくさん。旅人も地元の人も一緒に、夜遅くまで大宴会です。「ここへ来て、やんばるの魅力をより多くの人に知ってもらいたい」と熱く語る池原さん。第1回親睦会の様子を写真でご紹介します。

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料理上手な地元の人が作ったごちそうは、うりずん豆、トウガン、ハンダマ(金時草)、青パパイヤなど沖縄らしい食材がいっぱい。テーブルクロスの代わりに敷いているのはバナナや月桃の葉

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バーカウンターも登場。その名も「やんバール」。泡盛を使ったオリジナルカクテルを振る舞って大にぎわい

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地元ミュージシャンのライブも開催。最後はみんな立ち上がって踊り出す! 異様に盛り上がりました

やんばる酒造
沖縄県大宜味村字田嘉里417
https://takazato-maruta.jp

沖縄シナモンの優しく爽やかな味わい

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カラキやシークワーサーを栽培している「Kugani Kitchen」の農園へ。写真の人物は代表の宮城美和子さん。かんきつのすがすがしい香りが気持ちいい

「昔の沖縄の人は、この木の皮をおやつ代わりにしていたんですよ。かじると甘い味がします」と話すのは、「Kugani Kitchen」(クガニキッチン)の宮城美和子さん。「カラキ」とは沖縄北部の呼び方で、シナモンの一種。沖縄ニッケイ、沖縄シナモンなどとも呼ばれます。まさか沖縄にシナモンの仲間が自生していたとは! この木の葉には独特のすがすがしい香りや甘みがあり、宮城さんはその香りや味わいにどうしようもなくひかれてしまい、地域のためにできることをしたい、とカラキを収穫して、あめやお茶、ジェラートなどに加工し、販売しています。

「カラキは琉球王朝時代から守られていた木なんです。王府御用達の木として重宝され、家の建築資材や下駄にも使われていたようです」と宮城さんは語ります。

葉を乾燥させて作ったというお茶を飲んでみると、シナモン風味だけれどシナモンより柔らかい香りで、レモングラスのようなかんきつ系の爽やかさもあり、最後にピリッとコショウのような味わいもある。なんとも繊細で複雑な味が心地よくてうっとり。いずれは農園の中にカフェを作りたい、と宮城さんは夢を語ります。

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右端のツヤツヤの葉がカラキ、真ん中はシークワーサー。左は月桃の実。どれも沖縄ならではの植物

カラキの収穫は、新芽の出る春先から夏を除いた、9月から2月くらいがメイン。お茶というと新芽のイメージだけれど、カラキの場合は逆で、成熟した葉でないと良い香りが出ないそう。しかも傷だらけの方がおいしくなるというのですから味わい深い。人生の教訓のようなことを、カラキが教えてくれました。

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カラキの葉を使った「カラキハのあめ」。優しく爽やかなシナモンの香りがおいしい

Kugani Kitchen
https://kugani-kitchen.okinawa
「道の駅おおぎみ」「山原工藝店」等で購入可能

スーパーフード「タイガーナッツ」はナイジェリアのおやつ

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左がタイガーナッツ。右はタイガーナッツにオーツ麦、かぼちゃの種、ひまわりの種、ココナッツフレークなどを混ぜたグラノーラ。砂糖は使わず、甘みはハチミツを使用

ある日テレビをつけると、体にいいスーパーフードとして海外のセレブに人気だと紹介されていた「タイガーナッツ」。それを見てびっくりしたのは、やんばるに住むナイジェリア人のオグベヒ・トーチさん。

「日本に今までなかったの?と驚きました。ナイジェリアでは小さい時から普通に食べているおやつでした。早速兄に連絡して種を取り寄せ、試験的にプランターで栽培したら芽が出たんです。沖縄でもできるかもしれないと思い、自分たちで畑を改良して育て始めました」

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タイガーナッツ生産者のオグベヒ・トーチさんと妻の美登子さん。美登子さんは国頭村(くにがみそん)の出身

タイガーナッツはビタミンEや食物繊維が豊富! カルシウム、マグネシウム、鉄分なども含まれ、美肌、老化防止、便秘やむくみの解消、免疫力UP、疲労回復、など様々な効果があると言われています。トーチさんが経営する会社「ナチュラルセレクション」の加工所へ行くと、収穫したたくさんのタイガーナッツが水できれいに洗浄され、乾燥されていました。

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タイガーナッツは食用ガヤツリという植物の茎の膨らんだ部分のことで、野菜の仲間。見た目は小さいジャガイモみたい。甘くておいしいのでイノシシに食べられてしまうこともあるとか。ここでは無農薬で栽培しています

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加工所。タイガーナッツは3カ月かけてゆっくり自然乾燥させるそうです。事前に連絡すれば見学も可能。ここでタイガーナッツ商品も購入できます

乾燥したタイガーナッツを食べてみると、味は自然な甘みのあるサツマイモのような感じで、クニュッ、ホクッとした食感。食べ始めるとついつい手が伸びてやめられなくなる! アイスクリーム、豆乳、ヨーグルトなどと一緒に食べてもおいしいそうです。カレーやチリコンカンに入れるのもおすすめだとか。人によっては皮の舌触りが気になるかもしれませんが、皮なしにするには薬品で溶かす必要があるそうで、トーチさんは皮付きのまま販売しています。辺土名にある「HENTONA LOUNGE(ヘントナラウンジ)」ではドリンクのトッピングにタイガーナッツグラノーラが使われているので、食べてみたい方はそちらを訪ねてみても。

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グラノーラはプレーンとドライフルーツ入りがあり、タイガーナッツのオイルやパウダーも作っています。沖縄・国頭村の特産品として、ふるさと納税の返礼品にもなっています

ナチュラルセレクション
沖縄県国頭村奥間2040-55
https://www.natural-selection.okinawa

HENTONA LOUNGE
沖縄県国頭村辺土名119-6
https://hentona-lounge.yumbaru.jp

やんばる食材で作ったチョコレート

知られざる沖縄(前編) ディープやんばるで食べたり飲んだり

「OKINAWA CACAO Factory & Stand(オキナワカカオ ファクトリー&スタンド)」で食べられる黒糖ジェラートのチョコレートがけ。焙煎したカカオニブがトッピングされ、ドライフルーツも自家製。おいしかった!

さて、みなさんはカカオの木を見たことはありますか? 通常は南米やアフリカに生息しているカカオですが、東京から沖縄へ移住し、カカオ栽培を始めてしまった人がいる、といううわさを聞き、真相を確かめにやんばるの奥地までやって来ました。その人とは「OKINAWA CACAO」代表の川合径さん。取り組みは5年目に入り、去年はついに花が咲いたそうですが、川合さんによると「モモクリ3年、カカオ8年」! カカオを通してやんばるを盛り上げ、沖縄の文化、産業の活性化などに役立つことを目指しています。

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わしゃわしゃとカカオが茂るジャングルのような温室を案内してくれた川合さん。この中は冬でも20℃あるので越冬はできるそうですが、台風対策が大変とのこと。月1回カカオ畑の見学会も開催(要予約)

カカオ栽培の傍ら、現在は輸入したカカオ豆を焙煎(ばいせん)して、「Bean to bar」(ビーン・トゥー・バー)のチョコレートを作っています。厳選されたやんばるの食材を合わせているのがここのチョコレートの特徴。月桃やカラキ(前述のクガニキッチンのもの)、シークワーサー入り、やんばる酒造の泡盛に浸けたカカオで作るチョコレートなど、ここでしか手に入らないユニークなものばかり。シンプルに素材を生かし、甘みを抑えた大人の味わい。お酒と一緒にいただいてもおいしく、泡盛チョコは日本酒の熟成酒と合うそうです。

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店は国道58号線沿いのローソンの並び。車もとめやすい。板チョコレートを販売する他、チョコレートドリンクやジェラートもあります

OKINAWA CACAO
沖縄県国頭村字浜521-1
https://okinawacacao.com/

後編では、心が折れそうになるほど山奥のカフェ、やんばるの作り手が一堂に集まる素敵工芸店、遊び心たっぷりのインテリアが目を引くホテルなどをご紹介します。(続く)

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平蔵、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 江澤香織

    ライター。旅、食、クラフトなどを中心に執筆。
    著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド・ビッグ社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり』(マイナビ)。全国各地の酒蔵(ワイナリーやブルワリー含む)・酒場・酒文化をめぐるツアー「だめにんげん祭り」主宰。旅先での町歩きとハシゴ酒、珍スポット探し、ものづくりの現場探訪がライフワーク。チョコレート、お茶、発酵食品にのめり込む傾向あり。

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