永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(47)女の子がぐるぐる幸せな瞬間 永瀬正敏が撮った南仏

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、南フランスの街角で見かけた、ポールにつかまり遊ぶ女の子。ぐるぐる回る彼女を見つめながら、永瀬さんは幸せに浸っていました。

(47)女の子がぐるぐる幸せな瞬間 永瀬正敏が撮った南仏

©Masatoshi Nagase

ある少女に出会った。

海沿いにある小さな小さな公園。いや、小さな遊園地と言うべきか。きらびやかな回転木馬などもそこにはあったから。でもその少女は、その回転木馬などには目もくれず、ただ地面に刺さった何でもないポールに片手でつかまり、まるで時間を忘れたかのように、夢中で回転していた。

その姿がなんともいとおしかった。
子供の頃、意味もない遊びを勝手に考案して、ひたすら繰り返して遊んでいたことを、懐かしく思い出した。

南フランスに位置するこの街には毎年5月、世界中の映画関係者が押し寄せ、眠らぬ街と化す。分刻みのスケジュールの中、唯一ほっとできる時間をいただいた際に撮ったことを思い出す。子供のお母さんは、僕と同じベンチに並んで座っていて、シャッターを切る僕の姿をほほえみながら見つめていた。最初に、撮影していいか?とジェスチャーで聞いた僕に、お母さんは、ほほえみながらうなずいてくれていた。

欲望を含めた様々な思いが渦巻いているこの街に、ひっそりとたたずんでいる小さな公園。たくさんの子供たちがのびのびと遊んでいて、みんなかわいらしかった。日々の喧騒(けんそう)から心が浄化されていくような、そんな気持ちになっていた。僕は子供がいないから、というのもあるんだろうけれど、子供を撮っていると、いつも、とても幸せな気分になる。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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