京都ゆるり休日さんぽ

京都、クラシカルな洋館の建築美に迎えられる「デザートカフェ長楽館」

京都には、伝統的な日本建築と同様に、明治以降建てられた近代西洋建築の洋館も数多く残ります。今回訪ねた「デザートカフェ長楽館」もその一つ。円山公園に隣接し、ステンドグラスや階段など華麗な建築美があちこちにちりばめられた空間は、洋館好きなら一度は訪れたい一軒です。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

明治の富豪の迎賓館をカフェとして開かれた場に

一部屋ずつコンセプトの異なる洋室。こちらは美術品がコレクションされていたという「美術の間」

一部屋ずつコンセプトの異なる洋室。こちらは美術品がコレクションされていたという「美術の間」

ステンドグラスの扉、モザイクタイルの床、レリーフの施された柱や調度品……。扉を開けた瞬間、100年以上前にトリップしたかのような空間に迎えられる「デザートカフェ長楽館」は、「煙草(たばこ)王」と称された明治の実業家・村井吉兵衛の別邸。1909(明治42)年に竣工(しゅんこう)し、迎賓館として時の政治家や海外からの来賓を迎えた館は今も、祇園・円山公園の隣で静かに時を刻んでいます。

西洋建築を模して、日本の職人が彫り上げたという欄干が見事な階段

西洋建築を模して、日本の職人が彫り上げたという欄干が見事な階段

「村井氏の没後何人かの手に渡り、先代のオーナーが譲り受けた際には、かなり傷んだ屋敷になっていたそうです。竣工当時の写真を手がかりに修復し、内装や家具、調度品など残せるものは現在もそのままに。一般の人に公開し、建築物として楽しんでいただくことが、迎賓館として建てられたこの館の役目だろうと、カフェという形になりました」

「喫煙の間」はアラベスク風の幾何学模様のタイルや壁が特徴的

「喫煙の間」はアラベスク風の幾何学模様のタイルや壁が特徴的

羊飼いが描かれたステンドグラスの扉。室内の窓のステンドグラスと絵柄がリンクしている

羊飼いが描かれたステンドグラスの扉。室内の窓のステンドグラスと絵柄がリンクしている

そう話すのは広報の麦谷祐佳さん。8室ある洋室は、「迎賓の間」「喫煙の間」など当時の用途に合わせたインテリアを残しつつ、レストランやカフェに。3階の書院造り風の和室階は通常非公開で、隣接するホテルの宿泊客や京都の非公開文化財の公開キャンペーン時のみ鑑賞できるようになっています。

ゲストの寝室として使われていた「鳳凰(ほうおう)の間」。自然光が降り注ぐ柔らかい雰囲気の空間

ゲストの寝室として使われていた「鳳凰(ほうおう)の間」。自然光が降り注ぐ柔らかい雰囲気の空間

ロココ、ネオ・クラシック、アールヌーボーなどの建築様式が共存する贅(ぜい)を尽くした館は、明治後期の和洋折衷の住宅様式を伝えるものとして、京都市の有形文化財に指定。喫煙やビリヤードに興じたり、ティータイムのおしゃべりに花を咲かせたり、各部屋で繰り広げられていたという映画のような一幕を想像するのも興味深いものです。

気品あふれるデザートとおもてなしで特別なひと時を

季節替わりのドレッサージュ・デザート「ヌガーグラッセ」(ドリンクとセットで2000円・税サ別)

季節替わりのドレッサージュ・デザート「ヌガーグラッセ」(ドリンクとセットで2000円・税サ別)

クラシカルなテーブルセットでいただくデザートは、優雅な空間で味わうにふさわしい、心潤す一皿。中でも、目の前でスタッフがソースをかけたりフランベしたり、といった仕上げを行う「ドレッサージュ・デザート」は、できたての香りや風味とおもてなしを体感できると人気です。季節のフルーツやイベントに合わせて専属のパティシエが考案するため、訪れるタイミングでその時の旬を楽しめるもの。ここでの豊かなティータイムは、五感に響き、心が満たされます。

オリーブオイルとフランボワーズの2層になったソースをその場でかけてくれる

オリーブオイルとフランボワーズの2層になったソースをその場でかけてくれる

バルコニー風の踊り場や手すりのレリーフが見事な階段は、村井氏こだわりの空間。階下に置かれたピアノはウィーンのベーゼンドルファー社製で、日によっては昼に4回、夜に2回、ピアニストによる生演奏が行われます。もし、運良く円山公園に面した部屋に案内いただけたら、3月には窓から枝垂れ桜が眺められるかもしれません。当時の面影を残しつつ、現代ならではのサービスでゲストを迎えるこの館はやはり、特別な時間を過ごす場所です。

かつてサンルームだった場所は、テイクアウトのスイーツを販売するブティックに。床のタイルやステンドグラスは当時のもの

かつてサンルームだった場所は、テイクアウトのスイーツを販売するブティックに。床のタイルやステンドグラスは当時のもの

ステンドグラスや鏡、建具はすべて当時のまま。家具30点を含む建物全体が有形文化財に指定されている

ステンドグラスや鏡、建具はすべて当時のまま。家具30点を含む建物全体が有形文化財に指定されている

100年以上前、館に招かれた要人たちは、どんなぜいたくな時間を過ごしたことでしょう。明治の政治家・伊藤博文が「この館に遊ばば、其(そ)の楽しみやけだし長(とこし)へなり」と詠んだことから、「長楽館」と名付けられたそうです。ハイカラで、豪華で、遊び語らう喜びを極めた館は今も、私たちを歴史と文化の薫りとともに楽しませてくれています。

長楽館本館。デザートカフェのほか、レストラン、バーなどの部屋も。隣接する新館はホテルになっている

長楽館本館。デザートカフェのほか、レストラン、バーなどの部屋も。隣接する新館はホテルになっている

デザートカフェ長楽館
https://www.chourakukan.co.jp

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BOOK

京都、クラシカルな洋館の建築美に迎えられる「デザートカフェ長楽館」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

京都の街とつながるきっかけに。「ただいま」と言いたくなる町家旅館「京旅籠むげん」

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