宇賀なつみ わたしには旅をさせよ

皆生、名建築のホテルを訪ねて 宇賀なつみがつづる旅(6)

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。今回は、鳥取県の皆生(かいけ)温泉へ。宇賀さんが「なるべく内緒にしておこう」と思っていた場所を紹介してくれました。

(文・写真:宇賀なつみ)

「独り占めしたい 皆生」

皆、生きると書いて、皆生。
まず、その地名に惹(ひ)かれた。

たまたま読んでいた小説に出てきたからとか、
たまたまお仕事で一緒になった人の出身地だったからとか、
旅先は、直感で決めることが多い。

今回は、まず地名に惹かれた。
鳥取県はまだ1回しか訪れたことがないし、
海もあるし、温泉もあるし、
泊まってみたかったホテルもあるし。
それじゃあ、行ってみようということになった。

戦後の日本建築を代表する名建築、東光園。
建築家・菊竹清訓氏の設計で、
昭和天皇がお泊まりになったこともあるこのホテルに、
2019年末、私はついに宿泊した。

  

  

静かな温泉街に、突然現れる変わった建物。
巨大な6本の柱が梁(はり)を支え、上層階2層は空中に浮いているように見える。

鮮やかな紫色のカーペット上に、特徴的なイスが並べられ、
存在感のある柱とのバランスが美しいロビー。
朝も夜も凜(りん)とした空気が漂っていて、
なぜか、どんな時でもきれいにしていた祖母のことを思い出した。

  

  

1964年、東京五輪の年に完成したこのホテルは、
ひっそりと力強く、立派に存在し続けていた。

今年もまた次々と新しいホテルがオープンするが、
半世紀後も愛されているホテルは、どのくらいあるんだろう。
ふと、そんなことを考えてしまった。

夜、外を歩いてみた。
閉まっている店が多く、人通りも少なかった。
年末なのに? 年末だから?
なんだか、街全体が「昔は良かったなぁ」と、嘆いているようだった。

温泉の泉質は素晴らしく、海の幸は豊富で、
有名なホテルもあるこの街が、
寂しそうにしているのが、また堪(たま)らなかった。

暗闇の中で、ひときわ目立つお店があった。
「お好み焼き」と書かれた赤ちょうちんに導かれ入ってみると、
地元の人たちで賑(にぎ)わっていた。

新鮮な魚を鉄板で焼いてくれたり、
クタクタに煮込んだおでんの鍋があったり、
お好み焼き以外のメニューも充実していたが、
ほとんど豚肉!の、迫力あるとん平焼きが、
とてもおいしくて、感動してしまった。

皆生、名建築のホテルを訪ねて 宇賀なつみがつづる旅(6)

年末年始も休まず営業。
「独りもんが来るからね」と言い放つクールなおかみさんは、
鉄板の前でいくつもの注文をテキパキとさばいていく。
すっかり彼女のファンになってしまい、2日連続でお邪魔した。

2回目に行った時は「あら、まだいたの?」って聞いてきたのに、
帰る時には「もう帰っちゃうの?」と言われて、参ってしまった。

本当に好きになると、独り占めしたくなる。
こんなに静かで居心地が良い街なら、また来たい。

なるべく内緒にしておこう。
そう思ったのに、書いてしまった。

連載「宇賀なつみ わたしには旅をさせよ」バックナンバーはこちら

PROFILE

宇賀なつみ

東京都出身。テレビ朝日「報道ステーション」の気象キャスターとしてデビュー。同番組スポーツキャスターとして、トップアスリートへのインタビューやスポーツ中継等を務めた後、「グッド!モーニング」「羽鳥慎一モーニングショー」など、情報・バラエティー番組を幅広く担当。2019年にフリーランスとなり、現在はテレビ朝日「池上彰のニュースそうだったのか!!」や、自身初の冠番組「川柳居酒屋なつみ」を担当。TBSラジオ「テンカイズ」やTOKYO FM「SUNDAYʼS POST」など、ラジオパーソナリティーにも挑戦している。

親友とふたり、年末年始ドバイ弾丸旅行 宇賀なつみがつづる旅(5)

一覧へ戻る

大学時代のロサンゼルスひとり旅 宇賀なつみがつづる旅(7)

RECOMMENDおすすめの記事