京都ゆるり休日さんぽ

海鮮丼やお造りがアートに。一風変わった京都の予約制鮮魚店「ototojet」

海から遠い土地柄、生命力の強いハモの料理や、しめサバ、サバずしなどの保存の利く魚料理が好まれてきた京都。そんな古都で、天然ものの鮮魚を売りにする一風変わったお魚屋さんがあります。観光地から少し離れたエリアにもかかわらず、日本中から予約が入る鮮魚店「ototojet(オトトジェット)」を訪ねました。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

アートのような盛り付けで、魚の美しさを再発見

どんぶりいっぱいに、みずみずしい海鮮がこぼれんばかり。大葉、ディル、クレージーピーといった和洋を織り交ぜたハーブが、彩りあざやかに魚介を引き立てます。伏見桃山の予約制鮮魚店「ototojet(オトトジェット)」が、鮮魚販売のかたわら、完全予約制でふるまう海鮮ランチは、1カ月先まで満席になるほどの人気。街なかでも観光地の近くでもない住宅街の一角ながら、全国から「食べてみたい」と訪れる人があとを絶ちません。

「海鮮丼セット」(1500円)。他に「刺(さし)身定食」(1780円)、「手毬寿司(てまりずし)セット」(1800円)もある。いずれも一品料理・あら汁付き、税込み

「海鮮丼セット」(1500円)。他に「刺(さし)身定食」(1780円)、「手毬寿司(てまりずし)セット」(1800円)もある。いずれも一品料理・あら汁付き、税込み

海鮮丼やお造りといえば、漆器や染め付けのうつわに行儀よく並んだ鮮魚のビジュアルが浮かびます。しかし「ototojet」のそれはまるで生け花やアートのよう。魚介の一番美しい面を見せつつ、立体的に、ハーブやうつわを自由に使った盛り付けは、海鮮料理のイメージをくつがえされます。

うろこ状の壁やモダンなテーブルセットは、鮮魚店とは思えぬカフェのような店内

うろこ状の壁やモダンなテーブルセットは、鮮魚店とは思えぬカフェのような店内

「前職を辞めて行商の鮮魚屋を手伝っていたとき、『魚の色や質感ってなんてきれいなんやろう』と感動したんです。原則からは外れますが、僕はきれいやと思ったら魚のウラでも見せて盛り付ける。魚離れしている人も多いから、見た目から食べる楽しみを感じてもらうのがスタートやと思うんです」

店主の辻井さん。魚のさばき方も競りの仕方もわからない状態から、教えてくれる人を見つけては学び、魚屋を開業した

店主の辻井さん。魚のさばき方も競りの仕方もわからない状態から、教えてくれる人を見つけては学び、魚屋を開業した

そう話すのは、店主の辻井智貴さん。グラフィックデザインのアシスタントから、15年前鮮魚店に転身。鮮魚の食文化が薄く、献立や盛り付けが定型化している京都だからこそ、可能性を感じてこの世界に飛び込みました。

天然の魚を、余すことなくおいしくいただくために

天然魚にこだわり、切り身やサクでの販売から、お造りにして大皿でケータリングするなどのスタイルで、自然食やフードデザインに関心の高い層にファンを増やしてきました。5年前、現在の店舗に移転したことをきっかけに、「ここで食べられたら……」というリクエストに応えて予約制ランチをスタート。連日予約で埋まる盛況ぶりで、さらにはお弁当やおせち、テーブル全体を使ったインスタレーションのような料理のケータリングなど、活動の幅を広げています。

「ototojet」のインスタグラム(@ototojet)より。予算や人数を伝えて大皿でお造りを用意してもらうことなども可能

「ototojet」のインスタグラム(@ototojet)より。予算や人数を伝えて大皿でお造りを用意してもらうことなども可能

「販売も予約制なので、ふらっと来てその場で買って帰ることはできません。お客様には手間になって申し訳ないんですが、その方が新鮮なものを提供できるし『魚っておいしい』って実感してもらえる。鮮魚が“ハレの日”の料理になりつつあるから、大切な記念日や行事に使ってもらえたら。もちろん、普段用に一切れからでも予約できますよ」

切り身やサクの販売のほか、テイクアウトの魚介の総菜も。こちらは「牡蠣(カキ)のオイル漬け」(690円/100g)。シャーレを小皿に見立てて盛り付けてくれた

切り身やサクの販売のほか、テイクアウトの魚介の総菜も。こちらは「牡蠣(カキ)のオイル漬け」(690円/100g)。シャーレを小皿に見立てて盛り付けてくれた

おいしい時間が短い鮮魚だからこそ、予約のひと手間で、食べる側にも販売する側にも喜びが生まれ、フードロスも減らすことができる。アートのように美しい海鮮の一皿が、お祝いのテーブルの主役になり、魚のおいしさを再確認するきっかけになる。京都の小さな鮮魚店が取り組む商いのかたちには、未来の食文化を作るヒントがたくさん詰まっています。

食べ方を伝えてさばいてもらったり、おいしい調理法を教えてもらったりと、専門店ならではのやりとりも楽しい

食べ方を伝えてさばいてもらったり、おいしい調理法を教えてもらったりと、専門店ならではのやりとりも楽しい

プリッと締まった身の弾力、舌の上でとろける脂や、じんわりあとを引く濃厚なうまみ。美しい盛り付けに見とれつつ、多彩な味わいを一つひとつ堪能すれば、魚を食すことの喜びと豊かさを実感します。自由で新しい「ototojet」の海鮮料理に心を奪われたら、特別な日や普段の食卓に、もっと魚を食べたくなるに違いありません。

住宅街の一角にたたずむ。ランチ、ケータリング、テイクアウトともに完全予約制

住宅街の一角にたたずむ。ランチ、ケータリング、テイクアウトともに完全予約制

ototojet
https://www.instagram.com/ototojet

■「京都ゆるり休日さんぽ」のバックナンバーはこちら

BOOK

海鮮丼やお造りがアートに。一風変わった京都の予約制鮮魚店「ototojet」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

京都、クラシカルな洋館の建築美に迎えられる「デザートカフェ長楽館」

一覧へ戻る

京都のクリエーターや店主が愛用する、「木印」の家具と日用品

RECOMMENDおすすめの記事