カメラと静岡さとがえり

どうしようもなくウナギが食べたい! ひと味違う、静岡の個性派ウナギ店

スリランカと日本を拠点に活躍する写真家の石野明子さんが故郷を撮り歩く連載、「カメラと静岡さとがえり」。第11回は、浜名湖といえばの、ウナギ! 浜松市民として、子どもの頃からウナギに親しんでいる石野さん。個性的なウナギ料理が食べられる2店舗を見つけてきてくれました。味だけではなく、それぞれのウナギにまつわるストーリーもご紹介します。写真を見ているだけで、香ばしい香りが漂ってきそうです。
(トップ写真は皮を強めに焼く、石橋うなぎ店の名物「一本焼き」)

ウナギのつかみ取りをした、小さな頃の思い出

私の地元、浜松市はウナギ養殖発祥の地といわれている。そのためなのか、静岡県は他の都道府県よりウナギを食べる機会が格段に多いと思う。小さい頃、地域の公園にひょうたん池という、ひょうたん型の小さな人工の池(水は濁っている)があった。そこにウナギの成魚を放流!し、素手でつかみとったウナギは持って帰ってよし、という「つかみとり大会」なるものもあった。なんとか捕まえて持ち帰ったウナギ、母が調理に困っていたな……。それくらい、浜松市民にとってウナギは身近な存在だった。あのタレをかけたウナギの焼けるにおい。たまらない……。今回はいつものうな重とは違う個性的なメニューを持つお店を2軒ご紹介したい。

「一本焼き」の一品で勝負の「石橋うなぎ店」

のれん

ウナギの威勢が良いのれん

1軒目は静岡市にある「石橋うなぎ店」。サイドメニューこそあるものの、メインは「ウナギの一本焼き定食」のみという潔さ。驚くのはその見た目。潔しを通り越して豪快だ。

ウナギの一本焼き

大迫力の「一本焼き定食」

ウナギの尾びれがお皿からはみ出しちゃっている。頭から尾びれまで一本筋の通った蒸さない地焼き。

飛び出す

ウナギがお皿に載りきらない!

皮は固めに仕上がるように強めに火を入れている。タレは濃厚で甘みが強め。かなり個性的な一品なので好き嫌いは分かれるところかもしれないが、ウナギを食べた!という満足感は非常に強い。自家製のお漬物も味わい深く、タレをまとうごはんもツヤツヤと輝いている。

「一本焼き」を生んだ、先代の「家」への想い

この「一本焼き」が生まれた経緯には、あるドラマがある。店を始めた先代の実家は養鰻(ようまん)業を営んでいた。しかし先代は家業を継ぐことに反発。駆け落ちして別の仕事を始めてしまった。しかし不運なけがで廃業に追い込まれてしまう。そして再起をかけて始めたのが、ウナギ店だったのだ。先代の実家では売れ残ったウナギを一本焼きにして食べていたという。家の味を店の味に。先代の抱えていた「家」への様々な想いが、ウナギの一本焼き定食を生んだのだ。

焼き場を守るのは、代々おかみ

「石橋うなぎ店」の焼き場は、代々おかみの仕事となっている。お店を始めて数年で、先代は病に倒れてしまう。そして大おかみが先代の代わりに焼き場に立つようになった。今は2代目がウナギを捌(さば)き、焼き場は若おかみが引き継いでいる。

焼き場

焼き場に立つ若おかみの石橋悦子さん。一本焼きは頭も一緒に焼き上げていく

「夏のピーク時、焼き場はものすごい暑さ。体重が数キロはストーンと落ちちゃいますよ」と若おかみの石橋悦子さん(54)は笑うが、相当過酷な仕事だと思う。「ウナギは一匹一匹個性があって、身のしまりかたやベストな焼き方が違う。それは仕事の難しさでもあるけれど、やりがいでもあります」と話す。

女将ふたり

一緒にいろんなことを乗り越えてきた、大おかみの石橋幸子さん(左)と悦子さん

最初は自分が焼き場に立つなんてとんでもないと思ったそうだが、大おかみに「お魚が焼けるならウナギも焼けるわよ」とのせられて、修業の日々に突入。そして今では悦子さんがメインで焼いている。「義母とはなんでも話せる仲です。というのもお互い言うこと遠慮せず言い合いますからね」と2人で「いろいろあったわね、ふふふ」と笑いあっている。

ウナギを「楽しく」食べる、「八百徳」のお櫃

2軒目は、浜松駅からすぐそばの「八百徳」。1909(明治42)年創業の老舗だ。名物は「お櫃(ひつ)うなぎ茶漬」。

盛り付け

ふっくらとした身を崩さないように優しく盛り付ける

ごはんとウナギが気前よくみちっと詰められたお櫃。それと薬味、昆布茶が一緒に提供される。

お櫃のウナギ

お櫃のフタをあけると……

このメニューが生まれたのは35年ほど前、「ウナギは高価だ」とウナギ離れが進む中、食べながら楽しくて会話が弾むようなメニューを出せないかと考案された。ふわっと蒸したあと創業当時から受け継ぐタレで炭焼きにする。

蒲焼き

タレをまとうウナギの蒲焼き

最初は茶わんにごはんとウナギを盛ってうな重のように、次はお好みの薬味とともに、最後は土瓶に入った昆布茶をかけてサラサラといただく。

お茶漬け

土瓶に入れられた温かい昆布茶でお茶漬けに

キリッとしたしょうゆの風味が強いタレは、ふわっとしたウナギの脂と白いごはんを引き立てる。2杯目の薬味のネギとも好相性だ。昆布茶とのバランスは店主が何度も試作を重ねて生まれたものだけにおいしい、そして楽しい! 楽しみ方を行きつ戻りつしながら、肝吸までしっかり味わった。

ウナギの食文化を残したい

稚魚の不漁による価格高騰に、資源保護の問題など、厳しい状況に置かれてしまっているウナギ。八百徳の高橋徳一社長は、国内外の養鰻場に足しげく通いウナギの養殖の研究に力を入れている。石橋うなぎ店はウナギの仕入れ価格に合わせて、値下げできるときはちゃんと値下げをする。どちらも「ウナギという日本の食文化を失いたくない」、「多くの人にウナギという素晴らしい食材を味わってほしい」という思いがあるから。

タレの確認

受け継いだタレの確認を怠らない石橋うなぎ店の大おかみ・幸子さん

万葉集にも登場するウナギ。「土用の丑(うし)の日」という季節を大事にする日本人の心、何よりあんなにおいしいウナギがなくなってしまうなんて寂しすぎる! 今は遠いスリランカでウナギのタレだけで我慢しているが、帰国の際には炭の煙に鼻をくすぐられながら、のれんをくぐってウナギに会いに行こう。

◆石橋うなぎ店
webサイトはありません
TEL:054-281-5432

◆八百徳
https://www.unagiyaotoku.com/

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PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。2019年4月にイカロス出版よりガイドブック「五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ」(税込み1760円)が出版された。
http://akikoishino.com/
http://studio-fort.com/

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