ダンさんと東海道ちょっと自転車旅

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

見知らぬアメリカ人からメールをもらい、川崎から静岡までともに自転車旅をすることに――。ライター中村洋太さんの自転車旅紀行第2弾「ダンさんと東海道ちょっと自転車旅」は、2017年に体験した、そんな不思議な旅の記録です。一日のサイクリングを終えた夜には、ご当地のクラフトビールを飲むというおまけつき。初回は、出発地の川崎市から、神奈川県茅ケ崎市まで。(トップ写真は鎌倉の大仏前)

一通のメールから始まった旅

「ハァ、ハァ……。一体、どうなっているんだ……」

箱根駅伝の選手たちが駆け上がっていく「五区・山登り」のコースを、ぼくは自転車で登っていた。この道を走るのはもう3度目だから、キツいのはわかっている。だが、想定外だったのは「彼」の速さだ。ぼくは全くついて行けず、ひとりでゆっくりと登ることになった。

それにしても不思議だ。一緒に自転車旅をすることになった「彼」は、自分より20歳も年上の、アメリカ人。それも、前日に初めて会ったばかりの——。

東海道五十三次とクラフトビールが縁に

「こんにちは! 私は今年の秋、日本の様々な土地のクラフトビールを味わいながら、自転車で旅する計画を立てています。そこで、いくつかアドバイスをもらえないでしょうか? あなたが東京から大阪まで歩いたのと、同じようなルートで旅しようと計画しています」

ジョージア州在住のアメリカ人、ダン・ミーゾゥさん(当時52歳)からメールが届いたのは、2017年5月8日。ぼくはこの時、アメリカ西海岸のサンディエゴに語学留学していた。

彼はこれまで自転車で様々な国を旅してきたらしい。そしてクラフトビールが大好きで、毎回その国のブルワリーを巡りながら走っているのだという。日本を自転車で旅する計画を立てていた時に、彼の奥様(日本人)がたまたまぼくのブログを発見したそうだ。

ぼくは以前、3週間かけて東海道五十三次を徒歩で旅した。ただ歩いただけではない。日本橋から京都・三条大橋まで歩く間に、クラフトビールを53杯注ぐと決めたのだ。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

2017年1月、20日間かけて東京〜京都間を歩いた

「クラフトビール 東海道五十三注ぎ」と題して、各地で味わったクラフトビールの写真とともに、旅の出来事をブログに書きつづった。そのブログとぼくの存在を奥さんから聞きつけたダンさんは、「彼ならルートや道中のクラフトビールに関する情報を持っているはずだ」と思ったのだろう。

一方のぼくも、このメールをもらった瞬間、何か運命のようなものを感じた。

同じルートの自転車旅の経験も、クラフトビール屋さんを巡った経験もある。前職は旅行会社の海外添乗員だったし、語学留学後に英語実践の場を持ちたかった。加えて、いつか外国人と一緒に日本を旅してみたい、と何年も前から思っていたからだ。

「もし迷惑じゃなければ、数日間だけ一緒に同行させてもらえないでしょうか?」

思い切って聞いてみると、承諾してくれた。川崎市から静岡市まで、こうして3日間一緒に旅することになった。

鎌倉へ寄り道し、茅ヶ崎へ

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

川崎駅前でダンさんと合流した

スタート地点が川崎になったのは、彼が川崎駅前の自転車屋さんでロードバイクを注文していたからだ。受け取ったばかりの「新車」を携えて、彼は待ち合わせ場所にやってきた。

旅の初日というのに、かなりの豪雨だったが、止むのを待っていては計画が崩れてしまう。埼玉からやってきた彼の親戚やぼくの友人に見送られて、この自転車旅をスタートさせた。

初日は茅ヶ崎に宿を取った。川崎、横浜、戸塚までは箱根駅伝のコース通りに走ってきたが、やはり鎌倉は見せたいと思い、寄り道をした。鶴岡八幡宮と大仏。それなりに喜んでもらえた。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

鎌倉で鶴岡八幡宮の写真を撮るダンさん

江の島を左手に、時々走る江ノ電を右手に眺めながら海沿いを走っていくと吉野家があったので、ここでランチにした。日本人が普段食べているものを、食べさせたいと思った。牛丼は口に合うようだった。

走行中は縦に並んでいるから、会話はほとんどできない。信号待ちのとき、「あと何kmだよ」とか「あれは江の島だよ」とか「アメリカは自転車専用道が行き届いていていいよね」とか、簡単な説明や会話をする。そして青になればまた進む。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

江の島を眺めながら湘南を走った

茅ヶ崎に着く頃には、雨は止んでいた。ダンさんが予約したビジネスホテルに、ぼくも後から予約していた。ぼくが2人分のチェックインをして、部屋を近くにしてもらった。朝食の時間や注意事項をスタッフから聞き、それをダンさんに伝える。海外添乗員だった時にいつもやっていたことだから、身体が動作を覚えている。経験は思わぬところで生きるものだ。

エレベーターで上層階に上がると、通路の窓から美しい夕日と富士山が見えた。

「明日は箱根を越えて、あの富士山の手前まで行くんだよ」と、ダンさんに伝えた。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

ホテルから見えた美しい夕日と富士山

友人も誘い、その土地ならではのビールを

夜はお待ちかねのクラフトビール屋さん巡り。ぼくの知っている2店舗を訪ねることにした。
1軒目は「GOLD’N BUB」。小さなお店だけど、ガラス越しに醸造タンクが見えてカッコいい。

店内で作っているオリジナルのクラフトビールを飲める。「うまい!」とダンさん。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

オリジナルのクラフトビールがおいしかった

外国人との交流が好きな大学時代の友人・伊東達也くんに声をかけたら、鎌倉から来てくれた。英語が堪能で、話題も豊富だからダンさんも楽しそうに盛り上がっていた。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

「GOLD’N BUB」にて、ぼくの大学時代の友人・伊東達也くんも交えて

とんかつラーメン?ではありません

一度お店を出て、友人お勧めのお店で「とんこつラーメン」を食べた。ダンさんがお店に行くまで怪訝(けげん)そうな顔をしていたのは、どうやら「とんかつラーメン」と聞き間違えていたからだったと後でわかった。ラーメンを目の前にして疑問が晴れたようだ。「大丈夫、ラーメンにとんかつは載らないよ」と、ぼくは笑った。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

ダンさんは「今度は博多でとんこつラーメンを食べたい」とも話していた

2軒目は「Beer cafe HOPMAN」。常時30種類近くのクラフトビールを生で飲めるお店は関東でも珍しいそう。国内外の様々なビールを楽しめた。


ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

再び3人で記念撮影。ダンさんはTシャツまで自転車柄だ

オーナーにあいさつしたら、ぼくが以前立ち寄ったことを覚えていてくれて、みんなにTシャツをプレゼントしてくれた。

ダンさんは大喜びで、「オー、ありがとうございます!」と日本語でお礼を言った。

(つづく)

PROFILE

中村洋太

1987年、神奈川県横須賀市出身。2011年、早稲田大学創造理工学部卒業。旅行情報誌の編集とツアーコンダクターとしての経験を経て、2017年1月よりフリーランスのライターとして活動。これまでに自転車で世界1万キロ以上を旅しており、西日本一周(2009)、西ヨーロッパ12カ国一周(2010)、アメリカ西海岸縦断(2017)、台湾一周(2017)のほか、徒歩で東京から大阪へ「東海道五十三次600kmの旅」(2017)も。

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ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (2)茅ケ崎~沼津

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