カメラと静岡さとがえり

物語のあるお茶を飲む 菊川市「san grams green tea&garden cafe」

スリランカと日本を拠点に活躍する写真家の石野明子さんが故郷を撮り歩く連載、「カメラと静岡さとがえり」。第12回は、お茶の産地・静岡ならではのカフェのご紹介です。「シングルオリジン」と呼ばれる茶葉をご存じですか? 日本茶の茶葉のほとんどは、安定した味を出すためにブレンドされているのですが、「シングルオリジン」の茶葉は生産家の個性を大切にするため、単一農園・単一品種で製茶します。まさに生きて、物語のあるお茶を飲む。そんな体験ができるカフェです。
(トップ写真は1人分のお茶を淹れるのに必要な3グラムの茶葉)

たかがお茶、されどお茶

静岡県人がお茶にうるさいのは本当だ。例えば食堂に行くと、無料で提供されるお茶も評価の対象になる。「あそこはちゃんといい温度のお茶が出てくる」「あそこのお茶は薄い」などなど。私が小学生の時、うがい用の緑茶を持参する冬の決まりがあったのだが、私の水筒の中身は我が祖母指定茶園の深蒸し茶だった。たかがお茶、されどお茶なのだ。

ペットボトル入りのお茶のように、安定していつも同じ味、同じ価格で楽しめることももちろん大事。これはプロのブレンダーが様々な茶園の茶葉をブレンドして均一の味をつくりだしているから。

生産家の個性を引き出す「シングルオリジン」のお茶を楽しもう

サングラム店内

自然光がたっぷりと降り注ぐ開放的な店内

しかしお茶は農産物、茶園やその年の気候によってびっくりするほど味は個性的でバラエティー豊かなのである。これが楽しめるのが「シングルオリジン」と呼ばれる茶葉。単一の茶園で摘み取られた茶葉を、ブレンドすることなく茶葉ごとに製茶方法を変え、その生産家の個性をより引き出す、「単一農園・単一品種」にこだわったものだ。

個人で茶園を巡ってお気に入りのシングルオリジンを見つけるのはなかなかむずかしいこと。でもお茶の産地、静岡県菊川市・JR菊川駅そばの「san grams green tea&garden cafe(サングラム グリーンティー&ガーデンカフェ)」では様々な茶園のシングルオリジンティーが楽しめる。

母体は120年以上続くお茶問屋。おいしいお茶を知ってほしいと始めたカフェなのだ。店名の「サングラム」、1人分のお茶に必要な茶葉は3g(玉露は5g)だといい、店名の由来になっている。

白磁の器

白磁の器がいっそうお茶をひきたてる

ひとくちにお茶と言っても種類や製茶方法は様々で、お茶の世界は想像以上に奥深い。ぜひ世界のお茶に詳しいスタッフにどんなことでも聞いてもらいたい。そのお茶が生まれた物語を知るとワクワクするし、なんだか親しみさえ湧いてくる。

試飲カウンター

試飲カウンターでは驚きの声がよく上がる

説明書

茶葉のもつ背景が分かりやすく説明されているうえに、作り手の名前も分かる

試飲も可能で、その茶葉に合わせた温度で丁寧に淹(い)れてくれる。その手際はキレが良くて見ていて気持ちがいい! これがさらにお茶をおいしくしてくれる。また味わう前にそれぞれの茶葉のもつ香りも体験できる。少しずつ少しずつ大事に味わいたくなる。

所作

お茶を淹れる所作を見るのも楽しい

カフェでももちろんシングルオリジンティーが楽しめる。希望のお茶を目の前で急須で淹れてくれるので、淹れ方もぜひ学びたい。

お茶

目の前でお茶を淹れてもらう

お茶に合わせたオリジナルのお菓子は和菓子もあれば洋菓子もある。店長の渡辺明日風さんいわく「時代とともにライフスタイルも変わってきて『緑茶には和食』というだけでは可能性が狭まってしまいます。お茶と相性がバッチリの洋食もある。お菓子でもお食事でも、ご自身で緑茶とのマリアージュを探すのはとても楽しいと思います」。

お茶請け

お茶請けの盛り合わせは税抜き470円

続けて「歴史ある飲み物ということもあって気づかないうちにこうでなきゃ、と考えが凝り固まってしまうときもあります。でもそんなときお客様から斬新なアイデアをいただくこともあります。フレンチプレス(コーヒー抽出器具)で淹れてみたよ、とか!」と話してくれた。淹れ方次第でお茶の可能性は無限大。私が訪れた時はサイホン式ドリップの緑茶を試飲させてもらった。

渡辺店長

「その日の気分に合わせてお茶を楽しんでください」と渡辺店長

一滴一滴抽出されたお茶はカップに注いだ瞬間ふわっと香りがたち、口に含むと濃厚かつまろやかなうまみ。最後にフレッシュな残り香がのどの奥にとどまっていた。初めての経験に驚きを伝えると「生産家の方に驚かれることもありますが、どんな飲み方でもそのお茶が一番おいしくお客様に届くのが一番です」と渡辺さんは笑顔になった。

笑顔の渡辺店長

世界中のお茶に興味を持つ渡辺店長

店内の雰囲気もプロダクトデザインもとても現代的で洗練されている。でもスタッフとお客の距離がすごく近く、質問が次々と飛ぶ。淹れ方を動画で記録しているお客さんもいる。「問屋業のかたわら、もともと対面販売もしていました。お客様とのコミュニケーションは絶対に欠かさないようにしています。それが私たちとお客様の歴史でもあります」と渡辺店長。

カフェスペース

庭にもカフェスペースがある

カフェの窓の外には庭が広がる。季節の花が風にゆらゆら揺れていた。物語を持つお茶を飲みながらのんびり庭を眺めて……。お茶に癒やされて肩の力が抜けていく。もう取材メモやカメラを投げ出したくなる。

茶畑の中で…… 最大のお茶の産地ならではの取り組み

さて。シングルオリジンに興味を持ったらきっと茶畑にも出かけたくなるはず。さらに生産家と消費者を近づける試みが静岡で始まっている。なんと茶畑の中で、生産者にシングルオリジンを淹れてもらえる「CHA NO MA」というアクティビティーがあるのだ。

ちゃのま

茶畑に囲まれて作り手が淹れる特別な一杯(するが企画観光局提供)

私はお茶のシーズンと取材日程が合わず悔しいことに未経験なのだが、こんな面白い試みがあるなんてやっぱり静岡県が大好きだ。

◆san grams green tea&garden cafe
http://www.san-grams.jp/

◆するが企画観光局 /茶事変『CHA NO MA』
https://chajihen.com/contents/chanoma/

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PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。2019年4月にイカロス出版よりガイドブック「五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ」(税込み1760円)が出版された。
http://akikoishino.com/
http://studio-fort.com/

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