ダンさんと東海道ちょっと自転車旅

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

見知らぬアメリカ人からメールをもらい、川崎から静岡までともに自転車旅をすることに――。ライター中村洋太さんの自転車旅紀行第2弾「ダンさんと東海道ちょっと自転車旅」は、2017年に体験した、そんな不思議な旅の記録です。一日のサイクリングを終えた夜には、ご当地のクラフトビールを飲むというおまけつき。第2回は、神奈川県茅ケ崎市から、2泊目の宿をとった沼津まで。(トップ写真は国道1号最高地点で笑顔を見せるダンさん)

箱根を余裕で駆け上がるダンさんにあぜん

2日目の朝。ダンさんがプレゼントしてくれたサイクリングジャージに袖を通し、ホテルをチェックアウトした。快晴だ。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

よく晴れた2日目の朝。121キロ先の静岡が翌日のゴール

茅ヶ崎をスタートし、平塚、二宮、小田原を順調に通過。いよいよ箱根の山登りに差し掛かる。箱根湯本のあたりで、「国道1号ルートと旧東海道ルート、どちらから登りたい?」とダンさんに尋ねた。

ぼくはどちらも自転車で走ったことがあるので、違いを説明した。旧東海道の方が楽ではある。しかし、よりハードな国道1号は箱根駅伝のコースにもなっていて、日本人にとっては「おなじみの道」だと伝えると、「そっち(国道1号)がいい」とダンさんは答えた。

「キツかったら無理せず歩いていいからね」と言おうとしたが、英語が出てこない。だが、いざ山登りが始まると、言えなくて良かった、と思った。

ダンさんの軽快な走りに、ぼくは全くついていけなかったからだ。そのつい数ヶ月前にアメリカ西海岸2500kmを自転車で縦断したばかりだったし、体力には割と自信があった。それなのに……。

「いったい、彼の身体はどうなっているんだ!?」

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

宮の下交差点で待っていてくれたダンさんに、またすぐ引き離されてしまった

中腹の宮の下のあたりでもう倒れそうなくらいキツいのだが、そこを過ぎるとさらにきつい上り坂が待っている。これが地獄だ。

それでもフラフラと少しずつ登り続け、あと数kmで峠というところで、なんと彼が向こうから坂を下りてくるではないか。きっとぼくがあまりに遅いから、心配になって様子を見に来たのだろう。

そしてぼくの姿を確認すると、安心したように方向転換し、また軽々と登っていった。恐ろしい体力だ……。

それにしても、この難所を1時間ちょっとで登っていく駅伝選手たちの足腰に改めて驚かされる。自転車で登るのは3度目だったが、「もう二度と登るものか」と毎回思ってしまう。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

国道1号線の最高地点。標高874メートル

長い格闘の末、最高地点の標識が見えてきた。ここで記念撮影し、芦ノ湖まで一気に坂を下った。

芦ノ湖を望む人気のベーカリーレストランでランチにした。ダンさんはそのお店で買ったホップ入りの炭酸水を、「日本にはこんな水があるのか、面白いな」と興味深そうに飲んでいた。外国人から見る日本の視点を、ぼくも楽しんでいた。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

「芦ノ湖は美しい」とダンさんは語った

クラフトビール会社からの特別ゲスト

箱根駅伝の往路のゴール地点を目にすれば、大抵の日本人は「おお〜、ここが!」と喜ぶところだが、ダンさんの反応は淡白だ。それはそうだよな、と思いながら少し坂を登ると、箱根峠に達した。神奈川県と静岡県の県境である。

ここからは三島まで、長い長い下り坂。爽快そのものだ。気持ちの良い風を受けていると、数十分で三島に着いた。

東海道沿いにある三嶋大社が有名なのは知っていたが、早く宿に入ってひと休みしたいという気持ちがあった。「あれが広重の浮世絵にも描かれている三嶋大社だよ」と指を差しただけで、とくに寄り道はせず沼津に到着した。沼津は、日本橋から数えて、東海道五十三次の12番目の宿場町である。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

沼津に到着し、駅前で記念撮影

この夜ぼくが招いたゲストは、伊豆の国市が誇るクラフトビール「反射炉ビヤ」の製造会社に勤める久保山智史さん。以前東海道を歩いて旅した時に応援してくださった方で、このエリアのクラフトビールには特に詳しいから適任だと思ったのだ。

お声をかけると、その日わざわざ仕事を休んで会いに来てくださった。夕方、ホテルのロビーで久保山さんと再会すると、早速「ダンさんにプレゼントです」と、反射炉ビヤのステッカーに加え、なんとさっき通り過ぎた三嶋大社のお守りが! 

沼津での1軒目は、「aiai」へ。反射炉ビヤのクラフトビールも飲みながら夕食を楽しんだ。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

「aiai」で飲んだ反射炉ビヤのクラフトビール

この時、「東海道五十三次」の意味や歴史、駅伝という言葉の由来を、ダンさんに紹介した。彼は目を輝かせて「おもしろい」と言ってくれた。

2軒目は、オープンしたばかりのビール工場兼飲食店の「リパブリュー」へ。常時20種類のクラフトビールを生で飲める、このエリアでは貴重なお店。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

その日飲めるビールがボードに書かれている

久保山さんがスタッフと知り合いなので、貯蔵タンクを見せてもらえた。特別な体験にダンさんはうれしそうだった。

久保山さんも英語が苦手と話しながらも、身振り手振りを交えながら一生懸命コミュニケーションを取っていた。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

積極的に話をしてくれた久保山さん

「本当に素晴らしい。美しい景色、おいしいクラフトビール、親切な人々。日本での自転車旅が大好きになった。絶対また日本を走りに来るよ」

気持ち良さそうに話しながら、ホテルへの帰り道を歩いた。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

ビールの貯蔵タンクをバックに記念撮影

親切なお父さんに感謝!

あっという間に3日目だ。楽しい旅も今日で終わる。富士山が間近にそびえる宿場町の原(沼津市)では、旅行会社時代の同期である植松祐太くんのご実家を訪問した。実は以前、東海道五十三次を歩いて旅した際にも、このお宅を訪問し、おまけに泊まらせていただいたのだった。

今回は突然の訪問となりご両親を驚かせてしまったが、ダンさんを交えて束の間の会話を楽しんだ。さらにお父さんがダンさんに日本酒をプレゼントしてくださった。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

植松くんのご両親から日本酒をいただいた

「近くの松林を抜けると、海沿いにサイクリングにおすすめの遊歩道があるから、そこを走るといいよ」

「それは楽しみです。行ってみます!」

と言うと、「そこまでの道がちょっとわかりづらいから」と、お父さんが庭から自転車を出して、遊歩道の入り口まで先導してくれた。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

温かいお父さんとここでお別れ

沼津から田子の浦まで続く千本松原は、「白砂青松100選」に選ばれる景勝地。その松原と海岸との間に、遊歩道が伸びていた。その眺望に「おーー!」と驚くダンさんと私。これは良い道を案内してもらえた。ご主人とお別れし、再スタートを切る。

「親切な人だったでしょう」

ぼくはダンさんに、そう声をかけた。

「ああ、本当にそうだね」

打ち寄せる波の音を聴きながら、ダンさんはにこやかに言った。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅(2) 茅ケ崎~沼津

いつまでも走っていたい道だった

(つづく)

PROFILE

中村洋太

1987年、神奈川県横須賀市出身。2011年、早稲田大学創造理工学部卒業。旅行情報誌の編集とツアーコンダクターとしての経験を経て、2017年1月よりフリーランスのライターとして活動。これまでに自転車で世界1万キロ以上を旅しており、西日本一周(2009)、西ヨーロッパ12カ国一周(2010)、アメリカ西海岸縦断(2017)、台湾一周(2017)のほか、徒歩で東京から大阪へ「東海道五十三次600kmの旅」(2017)も。

ダンさんと東海道ちょっと自転車旅 (1)川崎~茅ケ崎

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