京都ゆるり休日さんぽ

街に開かれ、人が行き交う。岡崎の新名所「京都市京セラ美術館」

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

この春、2年間の大改修を経てリニューアルオープンする「京都市京セラ美術館」。岡崎エリアのランドマーク的存在とあって、工事中の敷地の前を通るたびに「どんな美術館になるのだろう」と楽しみにしていました。今回は、生まれ変わった京都市京セラ美術館を、オープンに先駆けご紹介。歴史ある美術館建築の意匠を残しつつ、令和の再構築が加えられた空間は、街と人とを心地よくつなぐ場所でした。

※新型コロナウイルス感染予防・拡散防止のため、リニューアルオープンは当初の予定から5月26日に延期されました。

この地に親しまれてきた歴史ある建築に、現代のレイヤーを加える

東山キューブテラス

リニューアルを手がけたのは建築家の青木淳氏と西澤徹夫氏。新設された「東山キューブ」の屋上テラスから本館と東山をのぞむ景色

現存する日本の公立美術館建築としては最も古く、1933年に開館した京都市美術館。平安神宮の大鳥居をのぞむロケーションや和洋折衷の建築意匠・帝冠様式の外観は、地域のシンボルでもあります。京セラ株式会社のネーミングライツによる支援を経て「京都市京セラ美術館」としてリニューアルされても、京都人に愛されてきたそのビジュアルは一見変わらぬまま。しかし、地表からゆるやかに下降するエントランス前のスロープ状の広場が、これまでなかったガラス張りの地下空間へと導きます。

京都市京セラ美術館

既存の建物の地下にガラス張りの地下空間ができ、広場「京セラスクエア」からスロープ状につながる

建て替えるのではなく、既存の建物に新たなレイヤーを加えたようなこのファサードは、今回のリニューアルのコンセプトを物語る意匠の一つ。耐震性や利便性をアップデートしながらも、歴史的建築物として、街の一部として、親しまれてきた風景を後世に残す意図があります。一方で、人々が行き交い、楽しむ、血の通った美術館であるためには、現代にフィットした空間であることも不可欠。生まれ変わった京都市京セラ美術館には、そんなハイブリッドな知恵と感性があちこちに詰まっています。

本館

本館・西広間は、タイルやステンドグラスなど元の意匠を残した空間。展示室の順路となる。貴賓室(通常非公開)などもある

光の広間

北側の中庭にガラスの天井を冠した「光の広間」。既存の建築が残され、イベントや大型の展示などにも活用される

南北に一つずつあった中庭の空間は、設備機器に占拠されていたかつての状態から、「天の中庭」と「光の広間」という開放的な多機能空間に。敷地の東側には、東山を借景とする日本庭園が広がり、現代アートを展示する新たな展示スペース「東山キューブ」が誕生。現代美術館の少ない京都において、現代アートからアニメ、ファッション、デザインなど、同時代の文化・芸術にふれる待望のスポットになりそうです。

鑑賞券なしでも自由に利用できるオープンな空間も

東山キューブ

「東山キューブテラス」はテラスのみの利用や飲食持ち込みも可能。岡崎一帯や東山の眺望を楽しみながら自由にくつろげる。「東山キューブ」の最初の展覧会は、「杉本博司 瑠璃の浄土」を開催予定

今回のリニューアルを手がけ、同館の館長でもある建築家の青木淳氏が大切にしたのは、「美術館における新たな軸線をつくること」といいます。京都市京セラ美術館には、美術作品を鑑賞する空間だけでなく、エントランス前の広場「京セラスクエア」や日本庭園、カフェやミュージアムショップ、東山キューブの屋上庭園など、鑑賞券不要で利用できるスペースがとても多いのです。

日本庭園

京都市動物園のある東側からも入れる、散策自由の日本庭園。「硝子の茶室 聞鳥庵(モンドリアン)」も杉本博司氏の作品で、2021年1月31日まで展示されている

例えば、平安神宮の参拝帰りにカフェで休憩すること。京都市動物園を訪れた家族が、屋上庭園で東山を眺めながらお弁当を食べること。琵琶湖疏水沿いの桜を眺めた後、日本庭園を散策すること。用途を限定しない開放的な空間は、人の流れを生み、新しい岡崎の楽しみ方を教えてくれます。ふらりと立ち寄っただけの人がパブリックスペースのアートや建築のディテールに心ひかれたり、展覧会目当てに訪れた人が鑑賞の合間に庭園の心地よさを実感したり、アートと日常をつなぐきっかけにもなるでしょう。

ザ・トライアングル

「京セラスクエア」北側の三角形の建屋の地下空間「ザ・トライアングル」は新進作家のための展示スペース。「鬼頭健吾:Full Lightness」を開催予定

アートや建築が好きな人も、気軽に岡崎散策を楽しみたい人も、観光客も地元客も、誰しもが自由に行き交うことで美術館は生かされ、未来へと受け継がれていきます。開かれた空間が街とともに呼吸する、新生「京都市京セラ美術館」。その歴史の一年目をぜひ、見て、歩いて、感じてみてください。

京都市京セラ美術館 https://kyotocity-kyocera.museum ※営業状況は美術館にご確認ください。

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BOOK

街に開かれ、人が行き交う。岡崎の新名所「京都市京セラ美術館」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

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