コロナ・ノート

僕らの世界から「旅」が消えた日 リーマントラベラー・東松寛文

新型コロナウイルス感染症が広がる中、世界は重苦しい雰囲気と混乱に包まれています。そんな状況下で変わっていったライフスタイルや価値観、あるいは見つめ直したことについて、さまざまな立場の方々がつづる、&M、&w、&TRAVELの共同リレー連載「コロナ・ノート」。今回は、自称「リーマントラベラー」として、会社員のかたわら世界中を旅していた生活が一変した東松寛文さんに寄稿してもらいました。

僕らの世界から「旅」が消えた日 リーマントラベラー・東松寛文
僕らの世界から「旅」が消えた日 リーマントラベラー・東松寛文

僕らの世界から「旅」が消えた日 リーマントラベラー・東松寛文

東松寛文(とうまつ・ひろふみ)

1987年、岐阜県生まれ。神戸大学卒業後、広告会社に就職。会社員として勤務を続けながら、週末などを使い、世界中を旅している自称「リーマントラベラー」。2016年に世界一周を達成してから、テレビや新聞、ラジオ、雑誌などのメディアに多数出演し、全国各地で講演もしている。著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)、『休み方改革』(徳間書店)。朝日新聞社が運営するオンラインサロン「リーマントラベラーサロン」も主宰し、旅好きな人たちと交流も行っている。

 

「あの日私たちは、世界の形を決定的に変えてしまったんだ」

これは昨年大ヒットした、新海誠監督の映画『天気の子』に出てきたフレーズです。近い将来、環境破壊などによって世界が大きく変わるかもしれないことを示唆しているかのようなフレーズで、僕の中ではとても印象に残っていました。

そしていま、まさに“世界の形が変わって”います。それも、未知のウイルスによって。

連日ニュースで、今まで旅してきた世界から、人だけが消えた不気味な光景が報じられています。

誰もいないニューヨークのタイムズスクエア、パリのシャンゼリゼ通り、バチカンのサン・ピエトロ広場に、常に人で埋め尽くされているイスラム教の聖地・メッカまで――。そのどれもが衝撃的すぎて、言葉が出ませんでした。

僕らの世界から「旅」が消えた日 リーマントラベラー・東松寛文

高級ブランド店などが並ぶ「五番街」。日曜にもかかわらず、車も人もまばらだった=2020年4月12日午後1時38分、米ニューヨーク、藤原学思撮影

日本では、3月25日夜、外務省が”史上初”となる全世界への不要不急の渡航自粛要請を発出しました。

僕は3月に入ってからは個人的に海外旅行を控えていたので、すでに今後の旅行に関する航空券などの払い戻しは進めており、その発出によって、実害を伴う大きな影響を受けたということはありません。

しかしながら、「好き」を政府によって、実質「禁止」される未来がやってくるなんて考えたこともなかったので、僕にとっては、非常にインパクトの大きい1日でした。

翼が折られて……

文字通り、翼を折られてしまい、旅ができない辛さを感じるわけですが、一方で、折られてみて初めて気がついたこともあります。

旅は、世界の平穏があって初めてできること。

あのとき、スヴァールバル諸島で見た美しいオーロラ、地元の人たちと一緒にパレードで踊り狂ったリオのカーニバル、飛行機の窓から見て釘付けになったエベレストの山頂、さらには、インドで野犬に追いかけられてビーチサンダルながら全速力で逃げたことさえも、そのどれもが世界が平穏だったからこその体験だったのだと。

僕らの世界から「旅」が消えた日 リーマントラベラー・東松寛文

カーニバル開幕日に、地元の人たちと一緒にパレードに参加。=2020年2月22日午前1時30分、ブラジル、リオデジャネイロ、筆者撮影

そう考えると、これまで普通に旅ができたことに対して、一気に感謝がこみ上げてきました。

ありがとう、世界。

大切なものは失って初めて気づくとよく言いますが、まさにこういうことなんだなとしみじみ感じながら。

Transit at home

だからこそ今僕がすべきことは、Stay at home。いや、Transit at home。とにかく強く、心に誓いました。

僕の大好きなこの世界が、一刻も早く、今まで通りの落ち着いた世界に戻ってほしい。そのために、できる限りの時間を自宅で過ごすことが、旅を愛している僕が今やるべき唯一のことなのです。そんな並々ならぬ使命感とともに、外出を極限まで控え、日々テレワークをし、今自宅でこの文章を書いています。

しかしながら、勝手な使命感を持っていても……やるなと言われると、ついやりたくなってしまうのが、悪しき人間のたち。大きな声では決して言えませんが、本当は……今すぐにでも旅がしたい! 気が緩むとそんな衝動がすぐに湧いて出てきてしまいます。そんな時は、優しく心を抑えてあげるために、今は、旅気分が味わえるようなドラマや映画を自宅で見て、”世界の知らない世界を知る”旅に出かけるようにしています。

”世界の知らない世界を知る”旅

映画では、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』でアメリカのマイアミからロサンゼルスまでロードトリップ、『LIFE!』でグリーンランドやアイスランド、アフガニスタンといったなかなか行けない国を一気に周り、『アルゴ』で騒乱のイランにタイムスリップ。

ドラマでは、『ナルコス』でコロンビアの麻薬王の半生を知り、『愛の不時着』で北朝鮮の暮らしと韓国のフライドチキンの美味しさを覗き、『アンオーソドックス』でユダヤ教正統派の伝統としがらみを学びました。

ついでにUber Eatsなんかを利用して、舞台の国の料理を食べながら見るのも、より旅気分が味わえるのでおすすめです。さらに作品を見終えたら、熱が冷めないうちにロケ地なんかをWebで検索して、Google Mapにピンを立てておく。そうすれば、自分だけの「世界が落ち着いたら行きたいところリスト」まで完成します。

また、”今”の世界を知るために、YouTubeを通じて、各国で暮らしている日本人に現地の様子や働き方の変化などを伺うライブ配信も始めました。撮り溜めていた旅動画も引き続き毎週新作を公開しています。ご自宅で、僕と一緒に世界の”今”を知る旅に出てくれる方が増えると嬉しいです。

僕らの世界から「旅」が消えた日 リーマントラベラー・東松寛文

自宅でトランジットしながら、YouTubeにてライブ配信を行っています=2020年4月24日午後9時50分、東京、筆者セルフタイマーにて撮影

今はもっぱら、こんな旅に夢中。

せっかく自宅にいる時間も長いのだから、何か勉強したり、インプットをしたりして、少しでも有意義な時間を過ごさなきゃ……なんて思うこともあるけれど、こんな時だって、やっぱり「好き」はやめられません。できないなら、できないなりに。できるようになる時に向けた準備も兼ねて。

これはこれで、僕にとっては今しかできないことだし、自分を満たしてくれるとても大切な時間です。

次の「本当の旅」まで

街から人が消え、リモートワークが一般的になりつつあり、飲み会はオンラインで開催されるようになって、僕らが知っていた世界の形はすっかり変わってしまったけれど、僕の「好き」はこれからもきっと変わらないはず。

そして、次の「本当の旅」が、今から楽しみで仕方がありません。

いつ行けるようになるかは、さっぱりわからないけれど、いつか世界が平穏を取り戻した時に来る「その日」に向けて、今は今を生きていきます。

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