カメラと静岡さとがえり

とれたてのカニ、クロダイにサヨリ……浜名湖の「たきや漁」体験で気分は漁師!

スリランカと日本を拠点に活躍する写真家の石野明子さんが故郷を撮り歩く連載、「カメラと静岡さとがえり」。第15回は、浜名湖で楽しめる「たきや漁」の体験記です。「たきや漁」は、唯一浜松市の雄踏(ゆうとう)地区で行われているめずらしい漁なのだとか。獲物を“もり”でつく体験から、なんとも大盤振る舞いの食事まで! こんなエンターテインメントが浜名湖にあったとは、驚きです。
(トップ写真は、うまみがたっぷり溶け込んだカニ汁)

※情報は取材した2019年9月当時。今年の体験は新型コロナウイルスの感染拡大によって、変更になる可能性があります。

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浜名湖だけにしかない漁

浜名湖のほとり、浜松市雄踏地区には「たきや漁」と呼ばれる世界でここだけにしかない漁法がある。

始まりは明治時代の初期、夜の浅瀬で松明(たいまつ)を燃やしその光に集まってきた魚介を“もり”でついていたこと。「たきや」は火を「焚(た)いて」いることに由来して名付けられた。

ここだけにしかないのは、浜名湖の地形による。雄踏地区の付近は水深が数十センチから1メートルの浅瀬が広がっている。そして水質は海水と淡水が混じる汽水湖。魚の種類も多様性に富んでいるのだ。

そして限られた季節だけ、観光客もたきや漁を楽しむことができる。現在は松明ではなく、船底から水の中を照らすようにライトがつけられている。

とれたてのカニ、クロダイにサヨリ……浜名湖の「たきや漁」体験で気分は漁師!

一隻4名調理付きで3万3千円、漁のみ3万円(獲物は持ち帰り)

私も2019年9月、たきや漁を体験してきた。観光客は、風が穏やかになる5月から9月にかけて体験できる。1隻4人まで乗船でき、船頭と一緒に夜の浜名湖の漁場を回るのだ。そして最後はとれた獲物を目の前で料理してくれる。しかも浜名湖に浮かぶ筏(いかだ)の上で!

漁が開始されるのは日が沈んだころ。船底は水深20センチの浅瀬にも入っていけるように平らになっている。漁に使う道具は4メートルから5メートルある“もり”のみ。漁は船底についているライトの明かりを頼りに、もりで獲物を付いていく、という原始的な手法で行われる。

いざ、闇に溶け込み浜名湖へ

最初にレクチャーを受けてさっそく漁に出発。

私たちの船頭はお父様もたきや漁の漁師だったという、ベテランの金原勝二さん(71)。船で暗くなった浜名湖を駆ける。海風が髪の毛をかきあげて、波を乗り越えながら船が跳ねる。非日常感があふれてワクワクしてくる。

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長年の経験がいかされる漁師の仕事

船頭がその日の潮や風を読み、最善の漁場に連れて行ってくれる。

私たちが最初に向かったのは、ワタリガニが多く生息する場所。到着し、ライトをオン。すると「いたー!」。湖の底でうごめく影を見て、思わず声が上がる。ふな先に立った金原さんが狙いを定め、次の瞬間、もりでザッとついた。くし形のもりの先に片手サイズのワタリガニがジタバタ。

金原さんがとるところをみていると簡単に見えるのだが、浅いと言っても水の抵抗と水面の屈折で、まっすぐもりを獲物に刺すことができない。私たち観光客も挑戦したが、カニがカサカサと逃げて行く。悔しい。がぜん、燃えてくる。金原さんはテンポよくもりをついていく。カニが十分とれたところで次の漁場に向かう。

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最初に訪れたカニの漁場

浜名湖では海苔(のり)や牡蠣(かき)の養殖が盛んだ。その海苔棚や牡蠣棚にも魚が集まる。じっと水中を見つめていると細長い黒い影が瞬間姿を見せる。クロダイだ! 魚は横から見れば魚とすぐわかるが、上から見ると細長い線のようで、これは難易度かなり大。魚を追いながら船頭の金原さんは巧みにもりで船を操り、クロダイもゲット! たきや漁ではいかりを下ろすことはない。潮をちゃんと読まなければ体力ばかり消耗してしまうそう。

とれたてのカニ、クロダイにサヨリ……浜名湖の「たきや漁」体験で気分は漁師!

サヨリもゲット

そして最後の漁場でサヨリを追う。幼い頃、祖父がよく釣ってきてくれたが、今では魚屋にもあまり流通しない高級魚だそうだ。たまにサヨリが元気よく跳ねる。ここでも船頭の金原さんは大活躍。このもりつきの楽しさにはまってリピートする人がとても多いそうだ。

お待ちかね! 大盤振る舞いの漁師メシ

人数分の獲物がとれたところで、湖に浮かぶ筏へ向かう。「余分にとるようなことはしません。生態系を守ることも私たち漁師の大切な仕事だからね」と金原さん。命をいただくことはとても大事なこと、海の中の生き生きとした魚たちを見ていると心からそう思う。

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「浜名湖の魚介のおいしさを知ってもらいたい」と語る金原さん

筏に着くやいなや、船頭さんたちの動きはとてつもなく素早い。獲物をより分け、調理法を決め、どんどんさばいていく。その華麗な手さばきは、見ていて圧巻。ワタリガニは大鍋へ、サヨリは天ぷら鍋へ、クロダイはから揚げに。

とれたてのカニ、クロダイにサヨリ……浜名湖の「たきや漁」体験で気分は漁師!

新鮮な魚介が目の前で調理される

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さっくり揚げられていく天ぷら

漁のあとのすきっ腹で待ちきれない! ちなみにお酒やごはん類は持ち込み可能だ。「かんぱーい!」、夜の湖上で始まる宴会は格別。そして幻想的だ。

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ふんわり揚がったサヨリの天ぷら

最初の一品はサヨリの天ぷら。ふわっとした全く臭みのない純白の身がサクサクした薄衣をまとってうなってしまう。塩をぱらっと振っただけで十分だ。次にクロダイの竜田揚げ、そしてソフトシェルクラブのから揚げ! イタリア料理でも人気の一品だが、脱皮したてのカニがとれた日には必ず味わえる。金原さんもおすすめの逸品だ。

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「これは絶対撮らなくちゃ!」

そしてどどーんとゆであがったワタリガニが運ばれる。「わー!」と歓声が上がりしばし撮影タイムの後、必死で身をつつくため言葉少なになる“カニタイム”。締めには温かいワタリガニのみそ汁。カニはその殻にうまみが凝縮するそうで、カニ汁で海のうまみも存分に味わい尽くす。特別な体験とおいしい食事で会話も止まらない。

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締めが温かい汁物というのもうれしい

体力的にも厳しい仕事のたきや漁。年々後継者が減ってしまっている。実は金原さん、会社勤めをやめて漁師になった異色の経歴を持つ。その理由を聞くと「浜名湖の景色は本当に美しいし、魚を見ることも食べることも大好きだもんでね。それに自分の体を動かして仕事をするというのがとても楽しいんですよ。いろんなお客様にも会えるしね。外国からのお客様も本当に喜んでくれる。たまに体の大きな方もいてその時は本当に操縦がえらいんだけどね!(えらい=方言で大変の意)」と笑う金原さんの、日に焼けた笑顔がかっこいい。

とれたてのカニ、クロダイにサヨリ……浜名湖の「たきや漁」体験で気分は漁師!

「漁師は海の素晴らしい景色を独り占めできます」と船頭の金原さん

今回の獲物以外では、シーズンにもよるがスズキ、ヒラメ、コチ、舌平目、タコ、そして高級ガニのドウマンが狙える。さて、あなたは何を狙いたい?

公式サイト
https://takiyaryou.jp/
当初は予約開始5/1〜、漁開始5/15〜9月末の予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大により変更があります。
詳しくは上記ホームページをご確認ください。

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PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。2019年4月にイカロス出版よりガイドブック「五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ」(税込み1760円)が出版された。
http://akikoishino.com/
http://studio-fort.com/

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