クリックディープ旅

洪水酒場、無人のイミグレ……アジアの国境を訪ねて

これまで世界各地を旅してきた旅行作家・下川裕治さん。今回は、長年続く連載の中から、アジア各地の国境を越える旅を振り返ります。音声付きの長編動画では、下川さんの驚きの国境体験も飛び出します。

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

(写真:阿部稔哉)

アジアの国境旅

取材を進めていた「沖縄の離島の路線バス旅」は、新型コロナウイルスの影響で掲載が延期。そこで長年続いているクリックディープ旅の連載のなかから、もう一度見たいシーンや未掲載シーンを、エリアや取材時期を問わずにピックアップしたシリーズを。

今回はアジアの国境。40年以上前、タイとビルマ(現ミャンマー)の国境を訪ねた。生まれてはじめて、陸でつながった国境を目にした。それ以来、西に国境が開いたと聞けば出向き、東に通過できる国境があると耳にするとバスで向かう日々。国境オタクのような旅を続けてきた。そのなかから選んだアジアの国境を。

※新型コロナウイルスの影響で、4月末現在、紹介する国境のほとんどは閉鎖されています。

長編動画


以前の取材で撮影したバングラデシュとミャンマーの国境に面したチョドリパラの村。その光景をバックに、阿部稔哉カメラマンとアジアの国境話を。

音声はテレワークでよく使われるアプリZoomを利用して録音しました。

Scene01

チョンチョム国境
タイとカンボジアの間にはいくつかの越境可能な国境がある。ここはタイのスリン県からシェムリアップに向かうチョンチョム国境。朝、国境のバーが開くと、それを待っていたカンボジア人がタイ側に荷物を運びはじめる。国境はアジア人の小商いポイント。にぎやかだが、そこには裏取引もちょっと、いやたくさんある。(2013年)

Scene02

洪水
この年、カンボジアやタイは洪水に見舞われ、多くの被害が出た。チョンチョム国境からシェムリアップに行く道も、川の水が村に流れ込みはじめていた。ところが村の男たちは、道端で洪水酒場を開いていた。水につかって心地いいってこと? 洪水をものともしないカンボジアの村の暮らし。すごい人たちだ。(2013年)

Scene03

イミグレーション
カンボジアからベトナムへ。首都のプノンペンからメコン川を船でくだっていくと、ベトナムとの国境に。ここはカンボジア側の寺……いやイミグレーションです。メコン川に沿ってつくられた寺の境内にイミグレーションがあった。前には野良犬が寝ころび、ゆるゆるの国境。出国審査を受けるという緊張がどこかに飛んでいってしまう。(2013年)

Scene04

サマットの国境
ベトナムからカンボジアに抜けるサマットの国境。カンボジアの到着ビザをとるために小屋のようなこのオフィスへ。ビザ代は30ドル。「申請用紙は?」と聞くと、「OK、OK」。パスポートにビザシールを貼ってくれた。「35ドルです」。「えッ?」。「申請用紙は私が書くのでその手数料が5ドル」。こうして彼らはこづかいを稼ぐ。(2017年)

Scene05

カンボジアの村
サマットの国境を越えてカンボジアの村へ。そこにあったのがカジノ。5軒もあった。カンボジアの国境カジノは中国人御用達。周囲には中国人向けの食堂が並び、看板も中国語。いったいどこの国にいるのかわからなくなる。周囲は家もまばらなカンボジアの農村。この一画だけが異様な光を放っていた。(2017年)

Scene06

ディエンビエンフー
ベトナムからラオスに抜ける国境も通過できる。ベトナム側のディエンビエンフーからラオスのムアンクアまで山道が続いている。ディエンビエンフーはインドシナ戦争の激戦地。ここでの戦いでの勝利はベトナムではあまりに有名。街は人気の観光地に。当時の戦車や防空壕(ごう)も残されている。(2013年)

Scene07

ラオス
ディエンビエンフーからムアンクアまでは山越えの峠道。ムアンクアは山に囲まれた静かな街だ。市場では女性がリスのような動物を売っていた。海のない国、ラオス。山のなかでは貴重なたんぱく源。しかし1匹をこう置かれると、なんと反応したらいいのかわからなくなる。値段も聞けなかった。(2013年)

Scene08

タイへ続く坂道
ラオスのホンサーからタイのナーンに抜ける国境を越える。ラオス側のイミグレーションで出国スタンプを押してもらい、タイへ続く坂道を歩く。この先にあるのがタイのイミグレーションのはず。歩いて国境を越える……これが陸路国境の醍醐(だいご)味。しかしどのくらい遠いのかがわからない。はたして無事に入国できるのかも。(2013年)

Scene09

カプチーノ
ラオスからタイへ。無事、タイに入国することができた。少し歩くと、店の前にテーブルを出した食堂があった。コーヒーを頼むと、ちゃんと豆からひいたカプチーノ。ラオスより進んだタイ文化が国境まで迫っていた。顔つきや言葉はあまり変わらないが、食べ物や習慣は国境を越えると劇的に変わる。国境旅はやめられない。(2013年)

Scene10

小型船
ミャンマー南部のコータウンとタイのラノーン間の国境。越境の足は小型船。陸路を通るより早いからだ。となると、イミグレーションの建物も船に対応。乗客は、海岸の高床式建物にあるイミグレーションオフィスでスタンプをもらい、船に戻って港に向かう。このほうがスムーズらしい。(2013年)

Scene11

並木道
国境への道──。僕のベストスリーに入ってくるのが、バングラデシュ東部のアカウラからインドのアガルタラに向かう道。こんな並木道が続く。そこを自転車リキシャでごとごとと揺られること小1時間。周囲の水田は濃い緑のじゅうたんのよう。うっとりしてしまう。最近はトラックが増えたというが。(2004年、連載開始前に撮影)

Scene12

国境
バングラデシュからインドに向かう道。自転車リキシャの終点はバングラデシュのイミグレーション前。その先に国境の道標。さらに進むとインドのイミグレーション。この国境は通過する人が少ないためだろうか。オフィスに誰もいなかった。国境で係官を探す……。国境通過のためのひと仕事。珍しいことではありません。(2004年、連載開始前に撮影)

Scene13

チョドリパラ
ここはバングラデシュ南部。動画で流れるチョドリパラという村。目の前のナフ川がミャンマーとの国境だ。この時期、ミャンマーからの難民はこの川を渡ってくる。そんな密入国が繰り返されていた。兵士が警備にあたっていた。国境……。そこは難民と少数民族問題を抱えたポイントでもある。難民のキャンプは次の写真で。(2019年)

Scene14

難民キャンプ
バングラデシュとミャンマーの国境近くにある難民キャンプ。ミャンマーから逃れたロヒンギャの人々が収容されている。バングラデシュ軍の発表では、その数は100万人を超えている。「テントのなかで密集して暮らす難民たち。新型コロナウイルスの感染が心配」と現地の援助団体スタッフからの最近の連絡。世界の難民キャンプは同様の不安を抱えている。(2019年)

Scene15

シンガポール
シンガポールの中心街。地下鉄ブギス駅近くに、隣国マレーシアのジョホールバル行きのバス乗り場がある。頻繁にバスは出るが、いつもこれだけの人。香港・マカオと中国の間に並び、アジアのなかで、人の往来が多い国境のひとつだ。越境手続きも簡素化されている。僕も気軽に行ったり来たり。(2015年)

※価格等はすべて取材時のものです。

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【次号予告】次回はアジアの線路を歩く旅。

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BOOK

洪水酒場、無人のイミグレ……アジアの国境を訪ねて
12万円で世界を歩くリターンズ
[タイ・北極圏・長江・サハリン編] (朝日文庫)
リターンズ第二弾では、タイと隣国の国境をめぐり、北極圏を北上し、長江をさかのぼる旅へ、予算12万円で約30年前に旅したルートをたどる。さらに「12万円でサハリンに暮らす」ことにも挑戦。旅は、世界はどう変わったか?
朝日文庫
3月6日発売
定価:770円(税込み)

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【タイ・北極圏・長江・サハリン編】」 (朝日文庫)。

  • 阿部稔哉

    1965年岩手県生まれ。「週刊朝日」嘱託カメラマンを経てフリーランス。旅、人物、料理、など雑誌、新聞、広告等で幅広く活動中。最近は自らの頭皮で育毛剤を臨床試験中。

ここはどこ? アジアの国で出合う「日本」の数々

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