魅せられて 必見のヨーロッパ

バイカル湖上を疾走 無形文化遺産の村タルバガタイへ ロシアの旅(3)

ツアーの行き先としてはあまりメジャーでないけれど、足を運べばとりこになる。ヨーロッパを知り尽くした作家・写真家の相原恭子さんがそんな街を訪ねる「魅せられて 必見のヨーロッパ」。今回は、2月に出かけたロシア旅の3回目。リストヴャンカからホーバークラフトで氷結したバイカル湖上を疾走して、対岸のブリヤート共和国へ向かいます。

【動画】ホーバークラフトでリストヴャンカからタンホイに

<-27℃ ガラスのように凍ったバイカル湖を歩く ロシアの旅(1)>はこちら
<金色に輝く夕暮れのバイカル湖 リストヴャンカ ロシアの旅(2)>から続く

氷を蹴散らして走るホーバークラフト

宿泊したリストヴャンカの「マヤーク・ホテル」の目の前から、対岸にあるブリヤート共和国のタンホイへ、ホーバークラフトが出発します。
私もホーバークラフトに乗り、いざ出発。氷結したバイカル湖上をガンガン走ります。かなり揺れますが、ダイナミックに突き進むので、氷上を走る気分が盛り上がります。外を見ると、窓ガラスにホーバークラフトが砕いた氷や積もった雪が跳ね返り、嵐の中を疾走しているような感じです。

45分ほどでタンホイに到着。ここからブリヤート共和国の首都ウラン・ウデへ車で移動。短い休憩を何回か含み、4時間ほどのドライブです。移動距離の長さに、ロシアの広大な大地を実感します。

ひっそり「古儀式派」の人々が暮らすタルバガタイ

翌日、タルバガタイへ。首都ウラン・ウデから南へ60㎞あまり。人口4300人ほどの小さな村です。

バイカル湖上を疾走 無形文化遺産の村タルバガタイへ ロシアの旅(3)

タルバガタイ村

17世紀のロシア正教の典礼改革の際に迫害され、現在のポーランドの地域(当時はロシア領内)へ逃れた人々が、18世紀前半にさらに遠くシベリアへ流され、この村に行き着きました。以来250年以上もの間、ここタルバガタイで古くからの信仰(ロシア正教会の古儀式派)、文化、生活様式を守り続けて生活しています。

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タルバガタイの民家で

タルバガタイに暮らす古儀式派の人々はセメイスキエ(家族として生きる人々という意味)と呼ばれ、その名の通り家族の絆を大切に、助け合いながら過酷な自然の中で今も自給自足の生活を続けています。

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自家製のウォッカで乾杯

自給自足の郷土料理に舌鼓 歌と踊りのおもてなし

タルバガタイの民家で、まずは郷土料理を頂き、その後、歌、踊りを楽しみます。

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写真手前からパンケーキ、ジャムを挟んだパン、豚肉の脂身の燻製(くんせい)、豚肉のローストとハム

肉、野菜、穀類、乳製品など素材から調理まですべてが自家製。自然の味わいがおいしくて、体にも、心にもしみわたるような気がします。素朴なもてなしに癒やされます。

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写真右はピクルス。左は揚げパン

厳寒の地ですから、夏の間に収穫できたキュウリなどの野菜を酢漬けにして一年中食べます。ピクルスの酸味が豚肉に合っておいしい。

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セメイスキエの歌

セメイスキエの歌を聞かせていただきました。結婚式や宗教行事の日の歌、日々の生活の歌など、歌詞は理解できなくても、不思議なことにその心情が伝わってきます。たとえば、結婚式の歌。おめでたい、うれしい、幸せに満ちてはいるものの、やはり娘を手放すのはつらい両親。そんな心が、私にも感じ取れます。

ガイドのタチアナさんによれば、戦前のころまでは小さな村の閉ざされた生活でしたから、結婚する場合は血が濃くならないように、三世代、できれば五世代前までさかのぼって血縁がない相手を親が探して、結婚させたと言います。
今ではウラン・ウデなどの大学へ進学して自由に相手を見つけて結婚し、村へ戻ってくる若者もいるので、状況は違ってきました。

太って見えるように装う花嫁

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村の教会

こちらは古儀式派の小さな教会ですが、門の前に立つと、存在感のある美しさを感じます。

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歴史民俗博物館

教会の向かいには歴史民俗博物館。農耕具、家具、食器、衣類、靴などを展示しています。

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博物館の内部

展示品を見ていると、この地の風俗が伝わってきます。日本でいう「かんじき」や、赤ちゃん用のゆりかご、お菓子の焼き型、サモワール、素朴な食器、結婚式の衣装などが展示されています。

面白いのは、太っていて働き者で丈夫な女性が理想的とされていたこと。確かに、過酷な極寒の地で自給自足をするには労働力が必要ですから、どの家も大家族。今でも、女性は花嫁衣装の下に少しでも太って見えるよう詰め物をして、結婚式を挙げるそうです。

タルバガタイの人々のそんな生活や文化は「セメイスキエの文化的空間と口承文化」としてユネスコ無形文化遺産に登録されました。

タルバガタイの伝統と風俗を今も守り続ける生活は、どこか神秘的で魅力があります。昔の落人の村のようで、また旅したい場所です。

Metropol-Express
http://metropol-express.ru/eng/index.wbp

S7航空
https://www.s7.ru/

日本旅行業協会
https://www.jata-net.or.jp/

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PROFILE

相原恭子(文・写真)

慶應大学卒業。ドイツ政府観光局勤務を経て、作家&写真家。「ドイツ地ビール夢の旅」(東京書籍)、「ドイツビールの愉しみ」(岩波書店)、「ベルギー美味しい旅」(小学館)、「京都 舞妓と芸妓の奥座敷」(文春新書)、「京都 花街ファッションの美と心」(淡交社)、英語の著書「Geisha – A living tradition」(フランス語、ハンガリー語、ポーランド語版も各国で刊行)など著書多数。国内はもちろん、国際交流基金・日本大使館の主催でスペイン、ハンガリー、エストニアで講演会や写真展多数。NHK「知る楽」「美の壺」、ラジオ深夜便「明日へのことば」「ないとエッセー」、ハンガリーTV2、エストニア国営放送など出演多数。
https://blog.goo.ne.jp/goethekyoko

金色に輝く夕暮れのバイカル湖 リストヴャンカ ロシアの旅(2)

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