クリックディープ旅

列車の居ぬ間に……道に、市場に アジアの線路の使い方

これまで世界各地を旅してきた旅行作家・下川裕治さん。長年続く連載の中から、今回はアジア各地の線路に注目。ヒヤヒヤする写真が続きますが、所変われば線路の使い方も様々なようです。

本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。

(写真:中田浩資)

アジアの線路活用術

沖縄の離島路線バスの旅は、新型コロナウイルスの影響で掲載が延期。これまでのクリックディープ旅の連載のなかから、別のテーマで写真をピックアップ。未掲載シーンも加えたシリーズを紹介している。

今回はアジアの線路上の人々。アジアでは、日本の鉄道関係者が天を仰いでしまうような線路活用術がぞろぞろ。アジアの多くの国の人々にとって、線路上は憩いの場? いや生活の場? とにかく感覚が違います。そんなシーンを集めてみました。

長編動画


インドネシアの列車の車窓風景を眺めながら、中田浩資カメラマンとアジアの鉄道、いや線路上で繰り広げられる世界の話を。

音声はテレワークでよく使われるアプリZoomを利用して録音しました。

Scene01

ブルメントリット駅近く
フィリピンのマニラでは、線路の上は調理場にもなります。屋台を営む女性が、線路の間で下ごしらえ。ここは下町のブルメントリット駅近く。線路をまたぐようにつくられた立体交差の下。南国のスコールに見舞われても大丈夫という好立地だ。「線路の間だから、列車来ても心配ない」と得意げに話してくれた。(2010年)

Scene02

水売り
マニラの鉄道の拠点、タユマン駅周辺にはスラムが広がっている。スラムは不法占拠の家が多く、水道はない。水売りはスラムでは欠かせない仕事だ。それを助けているのが線路。水売りたちは勝手に車輪付きの台車をつくり、水を運ぶ。この線路を走る列車は1日数本。水売りたちのために線路をつくったわけではないのだが。(2010年)

Scene03

トロリー
マニラ近郊のアラバン駅。ここにはトロリーと呼ばれる竹製の手押しトロッコのような乗り物が線路上に。近くのショッピングモールや住宅街までの交通手段になっていた。動力はない。運転手は線路を蹴って進む。運賃は5円ほど。線路は単線なので、上りと下りは当然、こうなる。で、どうするかというと……次の写真で。(2010年)

Scene04

トロリー
トロリーは竹製という意味がよくわかった。軽いのだ。男ひとりでひょいともちあげることができる。上りと下りが出合ってもなにも問題はない。いったい誰がこういう優れものを考案したのだろう。この線路を走る列車は1時間に1本ほど。そのときはトロリーが何台も線路脇に避難する。なんの問題もない。(2010年)

Scene05

ヤンゴンの環状線
列車の本数が少ないと、線路脇の市場も線路を占拠してしまうのがアジア。タイのメークローン駅の市場は、いまや線路上市場が観光名所になっている。ここはミャンマー。ヤンゴンの環状線です。写真の奥の方をみてください。線路の上を市場で売られる野菜や魚が占拠しはじめている。(2012年)

Scene06

線路上会議
走る列車は1時間に1本ほど。と、線路は井戸端会議ならぬ線路上会議の場になっていく。線路が座るのにちょうどいい高さ。ミャンマーの市場の人たちは、線路の上で商売をして、線路の上でひと休み。アジアですなぁ。だから列車はスピードを出せず、警笛を鳴らし続けて走る。もとは列車のための線路なのだが。(2012年)

Scene07

ミャンマーの線路
ミャンマーの田舎では、駅で列車を降り、改札で切符を渡して、道を歩いて家に帰る発想はない。地方の駅には改札がない。家が線路に近かったら、ホームから線路に降り、枕木の上を歩いて家に帰ることになんの疑問も抱いていない。駅員も注意はしない。なにしろ列車は1日に1本という路線が多いですから。(2017年)

Scene08

ミャンマーの線路
ミャンマーのバガンからパコックまで列車に乗った。降る雨に、線路脇の土手から土砂が流れ込み、線路を覆ってしまった。そこにさしかかった列車は、ゆっくりと停車。運転手は車内にあった鍬(くわ)を手に列車を降り、線路上の土をどけて戻ってきた。そして、なにごともなかったかのように出発。これでいいんだろうか。(2016年)

Scene09

3人乗りバイク
ミャンマーのローカル線。メンテナンスもしないため、線路は波打っている。そこをボロボロの老朽車両が、時速20キロにも達しない速度で走る。それ以上のスピードを出すと脱線してしまうのだ。と、線路脇の狭い道を若者3人乗りのバイクが、簡単に追い抜いていった。涙が出そうになった。(2016年)

Scene10

僧侶
タイの人たちも、線路は道の別バージョンと思っている節がある。だから托鉢(たくはつ)僧たちも、こんなふうに。おそらく托鉢をする街までの近道なのだろう。ここはバンコクから南タイに向かう幹線。列車本数は1時間に1~2本だが、そこそこのスピードを出す。僧侶の頭のなかには、列車の時刻表が入っているのだろうか。(2015年)

Scene11

ジャカルタの線路
インドネシアの貧しい人々にとって線路周辺が居住空間。ジャカルタ市内の線路の周りは、そんな人たちの不法占拠地帯が広がっている。洗濯物は線路の間に干す。それがジャカルタの車窓風景? 人によっては、線路わきにソファを置いて昼寝をする。子供たちは駅のホームで物売りに励む。職住近接の暮らしだ。(2012年)

Scene12

子供たちの遊び場
インドネシアのスラバヤ市内。この街の鉄道は、一部が高架式になっている。しかし線路脇の住宅に話をつけ、屋上部分にバラックを建てる人々がかなりいる。家に入るときは、いったん線路までのぼらなくてはならない。出入り口は線路に面しているのだ。子供たちの遊び場は線路の上。(2017年)

Scene13

ハノイ駅近く
ベトナムの人々も、線路の意味をはき違えている。ここはハノイ。ハノイ駅近くは住宅が線路ぎりぎりまで立ち、ご近所さん同士の世間話は、もっぱら線路の上で繰り広げられる。夕飯を線路の上でつくる人もいる。ここを走る列車は、住宅の雨どいすれすれを通過していく。(2010年)

Scene14

テンダンあげ
台湾の平渓線の沿線にある十分(シーフェン)。人気の観光地だ。訪ねた人の多くが、天燈(テンダン)あげ。これは小型の熱気球で、いろいろな願いごとを書いて空にあげる。その場所が線路の上。平渓線は1時間に2~4本の列車が運行される頻度なのだが、十分駅付近は最徐行。列車より天燈です。(2017年)

Scene15

廃線観光
台湾では鉄道の廃線観光が人気だ。ここは西部幹線の旧山線区間。廃駅になった勝興(ションシン)駅から線路に降り、トンネル見学。しかしこの線路に観光列車を走らせる計画があるようで、ときおり、保守点検用の機関車が前触れもなく走る。そのときトンネルのなかにいたら……。ちょっと危ない廃線観光だ。(2012年)

※価格等はすべて取材時のものです。

■関連記事はこちら
バリ島へのフェリーが発着するバニュワンギへ インドネシアの鉄道制覇旅(3)
東海道新幹線のような看板列車でジャカルタへ戻る インドネシアの鉄道制覇旅(4)
バガンからモンユワへーミャンマー終着駅をめざす旅2
モンユワからマンダレーへーミャンマー終着駅をめざす旅3

【次号予告】次回は世界の終着駅への旅。

■「玄奘三蔵の旅」バックナンバーはこちら
■ 再び「12万円で世界を歩く」バックナンバーはこちら

BOOK

列車の居ぬ間に……道に、市場に アジアの線路の使い方
12万円で世界を歩くリターンズ
[タイ・北極圏・長江・サハリン編] (朝日文庫)
リターンズ第二弾では、タイと隣国の国境をめぐり、北極圏を北上し、長江をさかのぼる旅へ、予算12万円で約30年前に旅したルートをたどる。さらに「12万円でサハリンに暮らす」ことにも挑戦。旅は、世界はどう変わったか?
朝日文庫
3月6日発売
定価:770円(税込み)

PROFILE

  • 下川裕治

    1954年生まれ。「12万円で世界を歩く」(朝日新聞社)でデビュー。おもにアジア、沖縄をフィールドに著書多数。近著に「一両列車のゆるり旅」(双葉社)、「週末ちょっとディープなベトナム旅」(朝日新聞出版)、「ディープすぎるシルクロード中央アジアの旅」(中経の文庫)など。最新刊は、「12万円で世界を歩くリターンズ 【タイ・北極圏・長江・サハリン編】」 (朝日文庫)。

  • 中田浩資

    1975年、徳島県徳島市生まれ。フォトグラファー。大学休学中の1997年に渡中。1999年までの北京滞在中、通信社にて報道写真に携わる。帰国後、会社員を経て2004年よりフリー。旅写真を中心に雑誌、書籍等で活動中。

洪水酒場、無人のイミグレ……アジアの国境を訪ねて

一覧へ戻る

海峡、国境、大陸の東西南北 終着駅を巡る旅

RECOMMENDおすすめの記事