京都ゆるり休日さんぽ

読んで楽しむ空想京都さんぽ。自然の心地よい京都のカルチャーエリア「岡崎」へ

旅行やお出かけが難しい今、これまで連載でご紹介してきたスポットをエリア別にピックアップし、空想の京都さんぽにお連れします。心おきなく京都に出かけられるようになったら、気になるエリアをどんなコースで巡ろうか、考えるのにぜひ参考にしてみてください。第5回は、美術館や文化施設が集中する「岡崎」エリア。桜、新緑、紅葉と四季の移ろいも美しく、自然と文化が共生する地域です。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

読んで楽しむ空想京都さんぽ。第1~4回はこちら
(1)センスの良い個人店が集まる「御所南」エリアへ
(2)旅の起点にも終点にもなる「京都駅」エリアへ
(3)「北野」エリアで甘いもの巡り
(4)「四条・烏丸御池」街なかごはん朝昼晩

※新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、営業状況が変更されている場合があります。ご注意ください。

近代日本庭園の傑作「無鄰菴」で自然の調和を感じて

東山を借景とし、里山の風景や小川のせせらぎなどありのままの自然の姿を表現した近代日本庭園「無鄰菴(むりんあん)」。明治・大正時代の政治家・山縣有朋の別荘としてつくられ、日本庭園と母屋・洋館・茶室の三つの建物を擁する敷地は、近代日本の建築様式と庭園観を体感することのできる場所です。

母屋

母屋は1、2階とも庭に向けて大きな窓がしつらえてあり、庭園を観賞するための設計とわかる (©植彌加藤造園 撮影:相模友士郎)

日本庭園に造詣(ぞうけい)の深かった山縣は、施主として作庭家・七代目小川治兵衛に、当時としては斬新な庭園のデザインを具体的に指示し、実現しました。池ではなく川を、コケではなく芝生を、四季折々の東山の風景や自生する野花を生かし、池や岩を風景に見立てる象徴主義的な日本庭園から、躍動感ある自然主義的な庭園の可能性を示唆したのです。

庭園

初夏は特に、新緑や青々とした芝生がすがすがしい。木々の向こうには東山の借景が広がる(©植彌加藤造園 撮影:相模友士郎)

散策しながら、あるいは母屋や洋館の窓辺から、自然の音や動きによって生き生きと輝く庭園を眺めると、時間を忘れるかのような多幸感に包まれます。コンパクトながら和洋の建築と日本庭園を網羅でき、参加型のイベントも多く開催されているので、観光のメインにもサブにもなれるスポットです。縁側で庭を眺めながらドリンクやスイーツを楽しめる庭園カフェも営業しているので、休憩を兼ねて立ち寄るのもおすすめです。

無鄰菴セット

「無鄰菴セット」(800円・税込み)は、オリジナルの焼き印が入ったどら焼き、または村上開新堂のロシアケーキ、ドリンクはコーヒーかほうじ茶を選べる(©植彌加藤造園 撮影:相模友士郎)

無鄰菴
https://murin-an.jp

■紹介記事はこちら
歩く、学ぶ、育む 新しい日本庭園とのかかわり「無鄰菴」

日本の作家のうつわに宿る、繊細な美意識を伝えるギャラリー

店内

取り扱い作家は、赤木明登氏、小野哲平氏、服部竜也氏など。現在、赤木明登氏のオンラインエキシビションを開催中

岡崎エリアのランドマークでもある琵琶湖疏水は、初夏には川沿いの木々が若葉をきらめかせる、気持ちがいい場所。新緑や平安神宮の大鳥居を眺めつつ、無鄰菴から疏水に沿って西に向かうとすぐに、うつわのギャラリー「essence kyoto(エッセンス キョウト)」があります。見晴らしのよい2階のギャラリーは、一面の窓から光が降り注ぐコンテンポラリーな空間。店主の荒谷啓一さん、里恵さん夫妻が選んだ、手仕事ならではの質感や表情を宿すうつわが並びます。

お茶

国産のシングルオリジンの茶葉で作るオリジナルのお茶は、店内で試飲可能。美しいパッケージはギフトにもおすすめ

「日本のうつわは“使う”ことを前提としているので、料理や花が引き立つよう、シンプルなデザインが多い。そのぶん、テクスチャーやディテールに美意識が宿っていて、海外の方は驚かれます」と啓一さん。前職で海外で仕事をしてきた経験から、日本の現代作家のうつわの魅力を国際的に伝えることに喜びを見いだしています。また、希少なシングルオリジンの茶葉で作るessenceオリジナルの日本茶も、うつわとともにギフトやおうち時間に重宝するものの一つ。現在は、オンラインでの展覧会や各作家の通販にも力を入れているので、店を訪ねるような気持ちでWEBをのぞいてみてください。

essence kyoto(エッセンス キョウト)
https://essencekyoto.com

■紹介記事はこちら
京都で現代工芸作家のうつわとシングルオリジンの日本茶を

受け継がれるタルトタタン

改装前の店

4月に店内の改装を終え、再スタートを切ったばかり。写真は改装前のもの

疏水沿いを今度は北に向かいます。平安神宮の西側に店を構える「ラ・ヴァチュール」は、来年50周年を迎える岡崎の名店喫茶。先代の松永ユリさんがフランスで出会い、店の名物となったタルトタタンを、孫娘の若林麻耶さんが受け継いで作り続けています。

タルトタタン

「タルトタタン」(794円・税込み)は持ち帰りも可能。りんごの豊かな風味に焦がしたカラメルがほのかな苦みを添える

1ホールに20個ものりんごを使い、バターと砂糖だけで煮詰めるシンプルなタルトタタンは、1度食べたら忘れられなくなる味。詳しいレシピはなく、季節によって変わるりんごの状態を見極めながら若林さん自身の記憶を頼りに、変わらぬ味を守り続けています。

この春、「ラ・ヴァチュール」は改装を終え、リニューアルオープンを控えていたところ。一口いただけば「そうそう、これ」と甘酸っぱい記憶がよみがえる、タルトタタンにまた会えるのが楽しみです。

ラ・ヴァチュール
https://www.facebook.com/lavoiture.kyoto

■紹介記事はこちら
祖母から孫娘へ。絶品タルトタタンの「ラ・ヴァチュール」の物語

自然の循環を五感で味わう。物語のあるレストラン

鹿肉のカツレツ

「鹿(しか)肉のカツレツ」(1600円/100g〜・税別)。取れる季節によって鹿肉の風味も変わる

ディナーには、自然に寄り添う料理とワインに心満たされる「DUPREE(デュプリー)」を訪ねてみましょう。京都の自然派ワインショップの先駆けである「エーテルヴァイン」が手がけるレストランは、ワインと同じく料理にも、自然や生命の循環が表現されています。ぶどうの栽培から醸造工程まで、自然の力を引き出すことに心血を注ぎつくられる自然派ワインと共に、テーブルに並ぶのは、近郊の猟師から仕入れるジビエや有機野菜を使った料理。それらを育んだ大地の記憶を宿しているかのような、野性味と滋味あふれる一皿には、命の物語を想像させる力があります。

ワイン

ワインはグラス900円~、ボトル4500円~(税別)。好みや料理に合わせてセレクトしてもらうことも、ワインリストから自身で選ぶこともできる

「ワインの味わいはつくり手の人柄に似ています」と語るのは、店長の佐々木ポールさん。フランスやイタリアだけでなく、チェコやスロベニアなどのマイナーな産地にも足を運び、ワインが土地の風土や生産者の人柄を映し出していることを実感したといいます。「好みだな」という味わいのワインに出合ったら、その産地やつくり手と自分の感性に、どこか共通点があるという証しなのかもしれません。

自然の営みを感じるように、世界を旅するように、料理とワインを味わう。そんな体験をぜひ、五感で確かめてみてください。

DUPREE(デュプリー)
http://www.dupree.jp

■紹介記事はこちら
大地の記憶を宿すワインと料理の物語。京都のレストラン「DUPREE」

入り組んだ路地に建物がぎゅっと詰まった街並みが多い京都ですが、平安神宮を中心とする岡崎エリアは広々と開放的で、家族連れで散歩を楽しむ人々も多く見られます。広場や公園、テラス席のカフェやベンチもたくさんあるので、のびのびと散策を楽しんでみてください。

このエリアの他のスポットはこちら(営業状況は各所にお問い合わせください)

街に開かれ、人が行き交う。岡崎の新名所「京都市京セラ美術館」
京都の新しいマーケット「平安蚤の市」が自由で多様でおもしろい
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6月末、京都人にかかせない「水無月」と夏の和菓子を求めて
人気ブロガーの愛用品が並ぶ「器と暮らしの道具店 おうち」

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BOOK

読んで楽しむ空想京都さんぽ。自然の心地よい京都のカルチャーエリア「岡崎」へ

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

読んで楽しむ空想京都さんぽ。「四条・烏丸御池」街なかごはん朝昼晩

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読んで楽しむ空想京都さんぽ。納涼床が並ぶ眺めも京都らしい「三条大橋」エリアへ

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