あの街の素顔

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

「日本からいちばん近いヨーロッパ」とも呼ばれる、約9時間半の直行便で行けるフィンランドの首都ヘルシンキ。「マリメッコ」や「イッタラ」など日本でも人気のブランドを生んだノルディックデザインの本場フィンランドでは、人々がインテリアや家づくりに手間とお金を惜しまないとか。在宅ワークに巣ごもりと、日本でも「おうち時間」への関心が高まるいま。ヘルシンキを歩いて発見した「小さくて快適な生活」をつくるヒントをお届けします。
(トップ写真は老舗レストラン「サヴォイ」のテラスから眺めたヘルシンキ)

北欧最大級のインテリア見本市「ハビターレ」

東京23区のおよそ3分の1ほどのコンパクトな都市ヘルシンキは、歩いて回るのが楽しい街です。路地裏を散歩して小さなショップやカフェに入れば、レジ袋なし、過剰包装なし、フードロス削減、レシートは紙ではなく電子化など、環境先進国かつIT先進国という、ふたつの顔を併せ持つ国の首都らしさを感じることができます。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

フィンランドといえば、日本でも最近大人気のサウナの本場。サウナグッズも洗練されている

そんなヘルシンキを舞台に毎秋開催されているのが、インテリアとハウジングの見本市「ハビターレ」。2020年に50周年を迎えるスカンジナビア最大級の展示会です。昨年(2019年)は、家具、テキスタイル、テーブルウェア、マテリアルなどインテリア関連のメーカーが約400社も集結して、世界中からインテリア・デザインファンおよそ6万人が集まりました。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

クリムトの名作「接吻(せっぷん)」を壁紙に使った遊び心のあるインテリアの一例。壁紙の色使いも新鮮

こういった展示会は、ビジネス仕様のプロ向けになることも多いのですが、印象的だったのは、ベビーカーを押したり、小さな子どもと手をつないだりしたファミリーの来場者が多かったこと。
フィンランドでは、ライフスタイル(=生活の営み方)は、すなわち生き方そのものだと考え、子どものうちからさまざまなデザインに触れ、自分らしいライフスタイルのつくり方を学んでいくそうです。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

円や球、曲線を、いくつも重ね使いしてリズムをつくります

インテリア初心者の私が、「ハビターレ」の会場を回って目からウロコだったのは、次の三つです。
一つは「好きなアートは堂々と、自由に飾る」。アートは額に入れるものと思い込んでいました。二つめは「円や球、曲線を取り入れる」。機能優先で、積み重ねできる直線的なものばかりを選んでいました。三つめは「花やグリーンを身近に感じる」。旅に出てばかりで留守がちな私は、植物を育てるのは苦手。でもデザインで取り入れる方法があったのですね。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

花や植物を華やかにデザイン。文房具のほかタオルなどキッチン雑貨も充実。小物で取り入れるのも楽しい

とはいえ、こんな大胆な色の組み合わせ(紫に黄緑とか。難しいですよね)なんてとても思いつかないし、これは生まれ持ったセンスが問われるのでは。そう思ったらなんと、モデルルームの横にはパントンのカラーチップを使った組み合わせの見本例が。「初めからうまくできる人はいません。誰でも最初は模倣から。慣れたら自分好みに変えていけばいいんです」。そんなデザイナーの言葉に、大いに励まされた私。フィンランドでは、子どものうちからこんな体験ができるのですね。うらやましいぞ。

「ヘルシンキデザインウィーク」は偶然の発見が楽しい

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

「デザインディストリクト」のショップ。女性のオーナーデザイナーが「ヘルシンキの美しさ」を写真で切り取り、それをファブリックにデザインしていました

「ハビターレ」と同じ時期に、ヘルシンキ市中央部に位置する「デザインディストリクト(デザイン地区)」では、「ヘルシンキデザインウィーク」が開催されていました。世界的に有名なブランドから個人経営の小さなショップまで、ファッション、インテリア、ギャラリーなど200あまりのお店などが集まったこのエリアは、新しい発見がたくさん詰まったデザインの宝庫。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

日用品こそ楽しく美しく。こんなセットがあったら「うち飲み」が楽しくなりそう

期間中は、オーナーやデザイナー自身が店に立ち、ものづくりへの思いや使い方のヒント、アレンジやお手入れの方法などを教えてもらえます。
気になるお店をちょこちょことのぞいていたら、フィンランドを代表するプロダクト・デザイナーのハッリ・コスキネンさんにばったり。久しぶりの再会となりました。こんな巡り合いがあるのも、ヘルシンキデザインウィークならではですね。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

岩手県の南部鉄器とコラボした製品を発表したハッリ・コスキネンさん。昨年12月に京都にオープンしたカプセルホテル「MAJA HOTEL KYOTO」(マヤ・ホテル・キョウト)も手がけています

女性アーティストが提案する「これからの生き方と住まい方」

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

気のおけない仲間たちで楽しむホームパーティのテーブルセッティングは、カジュアルな器を中心に

「デザインディストリクト」でギャラリーを営む女性オーナー、カティア・ハゲルスタムさんが、次の時代のライフスタイルを求めて仲間たちと手がけるモデルハウスで開いたホームパーティーにおじゃましました。
プロの写真家として審美眼に磨きをかけ、「本質的なものづくりをしている若手アーティストにスポットライトを当てたい」と、セレクトショップ兼ギャラリーをオープンした彼女が次に取り組んでいるのが、小さなコミュニティーづくりです。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

必要最低限のものだけが置かれた部屋。すっきりしたデザインのキャビネットは、サイドに引き出しが隠されているなど機能的


フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

コンパクトなバスルーム。この空間にサウナがあるのがフィンランドらしい

隣接する家8軒ほどがぴったりくっついている建物は、まるで日本の長屋みたい。ゴージャスではないけれど、ほんとうに好きなものだけで構成されたコンパクトな空間は、ロフトをベッドルームにしたり、バスルームと洗濯室を兼用したり、ミニマルにくらすための工夫が詰まっています。
ここで価値観を共有する仲間たちと、お互いにできることをしながら協力しあって暮らす。同世代の女性ばかりが集まったホームパーティはとても和やか。高齢化が進む日本でも、こんな生き方ができたらいいなと願います。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

仲間同士の会食は料理自慢の友人の手料理で。市販品も上手に使いながら、手をかけすぎない料理を楽しみます

サステナブルな食卓は、ローカルな食材をシンプルに

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

世界のガストロノミー最前線に向けて情報発信に積極的に取り組むミシュラン一ツ星店「Ora(オラ)」の料理。現在は「スシ」のテイクアウトをしています

一世を風靡(ふうび)した「ノルディックキュイジーヌ」の世界的なムーブメントの中、北欧において乗り遅れた感のあったフィンランド。ヘルシンキのレストランやカフェにおいても、「環境に負荷をかけず、フードロスを出さず、無理をせず心地よく味わえる」、そんな料理が人気を集めています。

ベジタリアンメニューや食材の制限にもフレキシブルに対応して、昆虫食や代替ミートにも積極的。ヘルシンキ市は「2030年までに二酸化炭素の排出量を60%削減、2035年には実質ゼロを目指す」という戦略を打ち出していて、飲食業界も足並みをそろえているそう。ヘルシンキでも指折りの革新的なファインダイニングでも、自家菜園で栽培したオーガニックの野菜やハーブを使った、ナチュラルな料理を提供していました。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

フィンランドでよく食べられる白身魚。グリルやソテーなどシンプルな調理法で、付け合わせやプレゼンテーションも素朴

フィンランドの人たちが、子どもの頃から自然と身につけていく「自分らしいくらしの整え方」。私は初心者らしく、トライ&エラーを繰り返しながら、自分に合ったものをゆっくりと見つけていきたい。
そして「日本からいちばん近いヨーロッパ」の街を再び訪れることができる日を、気長に待ちたいと思います。

フィンランドの旅で見つけた「心地よいくらし」のつくり方

ケーキなどスイーツもシンプルなものが多い。森の多いフィンランドでは、摘みたてのベリーをよく食べます

【取材協力】
ハビターレ
https://habitare.messukeskus.com/?lang=ja

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 江藤詩文

    トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。

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