楽園ビーチ探訪

ヤブの先に待つ「ここはどこ? 時代はいつ?」 三浦半島・黒崎の鼻

三浦半島にある「黒崎の鼻」のことを知ったのは、学生時代のこと。友人から「秘密のビーチに行かない?」と、誘われました。まるで、アメリカみたいなところなんだ、と。
(トップ写真は「黒崎の鼻」)

連載「楽園ビーチ探訪」は、リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信するビーチライターの古関千恵子さんが訪れた、世界各地の美しいビーチや、海のある街や島を紹介いたします。

見渡す限りの野菜畑と富士山

東京から2時間足らず。京浜急行の三崎口駅から歩いて約20分。国道134号を海の方向へと左折すると、パッと目の前に広がる、見渡す限りの野菜畑。その真ん中にまっすぐな小道が2本、およそ1キロも続いています。

ヤブの先に待つ「ここはどこ? 時代はいつ?」 三浦半島・黒崎の鼻

地元の人が“飛行場”と呼ぶ一面の野菜畑の向こうに、富士山 ©一般社団法人三浦市観光協会

その壮大なスケールは、都心でせせこましい建物群ばかり見ていた目玉が、びっくりするほど。友人はこのスケール感を、アメリカのようだと伝えたかったようです。しかもこの道からは、日によっては富士山まで見える、スペシャルなおまけ付きです。

ヤブの先に待つ「ここはどこ? 時代はいつ?」 三浦半島・黒崎の鼻

こんなのどかな光景が、東京から2時間足らずの場所で見られるとは ©一般社団法人三浦市観光協会

けもの道のような坂を抜け、突然開ける視界

まっすぐに伸びた小道の突き当たりからは、さらなる冒険が待っています。

背の高さほどに茂るササやススキの間に走る、けもの道のような細い坂道を下っていきます。この道は知らないと、踏み入ろうとは思わないだろうし、連れていってもらっていても「この先に海があるの?」と不安になるはず。ややもすれば、ササで手を切り、急こう配の道につんのめることも。周囲のヤブで視界が閉ざされているので、ますます不安になります。

ヤブの先に待つ「ここはどこ? 時代はいつ?」 三浦半島・黒崎の鼻

黒崎の鼻へ下りる坂道。まるで、けもの道です

そこでまた、いきなりヤブが開けて、目の前に大海原が広がるのです。遠くに三戸浜や長浜海岸、さらには伊豆半島までも見渡せます。驚きと感動に思わず、歓声をあげてしまいます。

坂道を下り切った海辺は、背後に小高い丘が控え、波打ち際は岩畳が発達しています。人工物は見えません。一体、ここはどこで、いつの時代か、わからなくなる錯覚がしてきます。

ヤブの先に待つ「ここはどこ? 時代はいつ?」 三浦半島・黒崎の鼻

この日は海が荒れていましたが、岩畳の潮だまりでは海の生物ウォッチングができます

黒崎の鼻は映画やドラマ、CMなどのロケ地としてたびたび利用されています。設定はイタリアの浜辺だったり、幕末だったり。あまり現実と結びついていないような風景だからか、いろんな場面に登場しています。きっと多くの人が、それと知らずに見ていることでしょう。

入り組んだ海岸線を持つ三浦半島の岬という立地から、黒崎の鼻には第2次世界大戦にまつわる物や話が残されています。

今はヤブで覆われている背後の丘には、沖に向かって建てられた砲台の跡があります。また、国道から入ってすぐの一面の野菜畑も、地元の人から“飛行場”と呼ばれ、終戦間際に飛行場として整備されたのだとか。けれど、そのまま終戦を迎え、野菜畑になったそうです。今は、夏はスイカ、冬は大根やキャベツなど、季節ごとにおいしい作物を生み出しています。

横須賀の米軍住宅跡地、今は……

黒崎の鼻を教えてくれた友人が、もう1カ所連れていってくれたアメリカ的な場所が、今はもう取り壊されてしまった横須賀市の「長井ハイツ」(米軍長井住宅地区)。1985年に返還されたかつての米軍住宅地で、広大な平原に主のいない空き家がぽつん、ぽつんと点在していました。電信柱がいかにもアメリカの幹線道路沿いに並んでいそうな形状で、道路脇にサイロが立っていたことを覚えています。ここも、戦時中は飛行場として利用される予定だったとか。

ヤブの先に待つ「ここはどこ? 時代はいつ?」 三浦半島・黒崎の鼻

1983年9月、日本に返還される前の長井ハイツ ©横須賀市中央図書館郷土資料室

長井ハイツのあった場所は現在、市の体験型施設・長井海の手公園「ソレイユの丘」となっています。

アメリカに行ったことがなかった学生の頃、何かにアメリカを感じた二つの場所。その頃、戦争と結びついている歴史は知らず、ただ単純にあこがれていました。

今も黒崎の鼻は、たまに訪れてぼーっと海を眺めています。東京から思い立ったらすぐ行ける、秘密の場所を教えてくれた友人に感謝です。ただし、駐車場はないので、お出かけができるようになったら、公共交通機関の利用を。

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PROFILE

古関千恵子

ビーチライター。リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信する。ダイビング雑誌の編集者を経てフリーとなり、“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”を繰り返すこと四半世紀以上。『世界のビーチ BEST100』(ダイヤモンド・ビッグ社)の企画・執筆、『奇跡のリゾート 星のや 竹富島』(河出書房新社)の共著のほか、ファッション誌(『Safari』『ELLE Japon』など)やウェブサイトに寄稿。ブログも配信中。

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