海の見える駅 徒歩0分の絶景

幸せの黄色いハンカチが揺れる、日本一海に近い駅  長崎県・大三東駅

「あっ、海だ!」。初めて訪れる旅先。小気味よく揺れる列車の車窓から、ふと海が見える。胸が高鳴り、水平線に目を奪われ、カメラを構えてしまう―――。そんな経験はないだろうか。

私も、旅先で出会う海の魅力にとりつかれた一人。しかし、車窓に流れる海では飽き足らず、心ゆくまで海を眺めていられる「駅」に降り立つことにした。旅のテーマはずばり「海の見える駅」。学業や仕事のかたわら、このテーマで15年間、一人旅を続けている。

これまでに訪れた駅は日本全国で300駅以上。島国である日本は、実は世界で6番目に海岸線の長い国であり、海の見える駅にあふれている。本連載では、数ある海の見える駅の中から特に印象深い駅を、訪問当時を回想しつつご紹介していきたい。

■連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

誰もいないホームから見る、有明海の朝焼け

2016年11月のある日、午前6時。朝食も食べぬまま、ほぼ空っぽの列車に揺られ、ひとり長崎県の小さな駅に降り立った。うっすらと明るんできた空の下、周りを見渡すが、人の姿は見えない。

なぜ早朝から人影もない無人駅にひとり降り立ったのか。なぜなら、どうしても「日本一海に近い駅」で朝焼けを見たかったからだ。この駅の名は、大三東(おおみさき)。長崎県の島原半島を走る「島鉄」こと島原鉄道の無人駅だ。

幸せの黄色いハンカチが揺れる、日本一海に近い駅  長崎県・大三東駅

日の出前の大三東駅

大三東駅には線路を挟んで、海側と山側にひとつずつホームがあり、海側のホームは、有明海にぴたりと隣接している。海とホームが隣接する駅は国内にもいくつかあるが、大三東駅の特徴は、柵がないことだ。

明かりをともしたベンチ、ミラー、そして駅名標。柵がないことで、ごく限られた構造物だけが、紫色ともだいだい色とも言えない夜明けのグラデーションに、シルエットとなって浮かび上がる。訪れたときは干潮。海を目の前にしているのに、風もほとんどない。足元まで迫る干潟にかろうじて残った水面の模様が、刻一刻と変わる空の色を、鏡のように映していた。

まるで絵画じゃないか。ファインダー越しに見るのがもったいないほどの景色だったが、この瞬間を逃すまいと、シャッターを切り続けた。

幸せの黄色いハンカチが揺れる、日本一海に近い駅  長崎県・大三東駅

「島鉄」への愛があふれる、幸せの黄色いハンカチ

もう一つ、視界に気になるものが見えた。

ホームの電柱の間に架かる、万国旗のような布たち。よく見ると、手書きの文字が書かれた黄色いハンカチだ。後から知ったが、このハンカチは「幸せの黄色いハンカチ」というそうだ。島原鉄道では車体の黄色にちなみ、「幸せの黄色い列車王国」と名付けた町おこしプロジェクトを2016年から展開。その一環で、沿線のイベントで地元の人々が願い事を記したハンカチを、大三東駅のホームに掲げたのだという。

幸せの黄色いハンカチが揺れる、日本一海に近い駅  長崎県・大三東駅

黄色いハンカチに目を凝らしてみる。

「電車ができてありがとう」
「島原鉄道いつまでも」

100年以上の歴史を誇る島原鉄道だが、近年はマイカーの普及や少子化によって、乗客は伸び悩んできた。2008年には、現在の終点・島原港から南の区間が廃止された。しかし、ハンカチに記された言葉には、たしかに地元の人々の「島鉄」への愛があふれていた。

すべてのハンカチをじっくり眺めたいとも思ったが、もう乗るべき列車の時刻だ。日の出を迎え、空はすっかり爽やかな青みを帯びている。

大三東駅への再訪を誓って、「幸せの黄色い列車」に乗り込んだ。車窓を振り返ると、夜明け前には見えなかった雲仙岳が、朝もやにかすんでいた。

幸せの黄色いハンカチが揺れる、日本一海に近い駅  長崎県・大三東駅

「幸せの黄色い列車」と雲仙岳・眉山。日の出を迎えた大三東駅のホームにて

再訪した大三東駅で出会った、満潮の青い有明海

それから2年が経った、2018年10月。私はまたしても大三東駅のホームにいた。

しかし、前回とはうって変わって、まぶしいくらいの青が、足元から頭上まで視界いっぱいに広がっている。満潮の有明海が見たくて、昼間に再訪したのだ。天気も幸い、雲ひとつない快晴。

幸せの黄色いハンカチが揺れる、日本一海に近い駅  長崎県・大三東駅

満潮時の大三東駅。ときおり、目と鼻の先を漁船が横切っていく

思わず海面をのぞき込むと、もう手が届きそうな距離に海水が迫る。目測で、ざっと大人1人分の身長といったところ。いくつもの海の見える駅を訪れてきたが、ホームにいながら、海面にここまで近づいたのは初めてだ。

幸せの黄色いハンカチが揺れる、日本一海に近い駅  長崎県・大三東駅

今にも海面に手が届きそうだが、意外に届かない

前回見た干潟が幻のようだが、有明海は干満の差が日本一大きな海。その差は最大で6mに上るというから、幻ではない。黄色いハンカチたちもホーム端のフェンスに居を移し、2年前には感じなかった有明海の潮風を浴びて、心地よさそうに揺れていた。

幸せの黄色いハンカチが揺れる、日本一海に近い駅  長崎県・大三東駅

以前も訪れた駅なのに、まったく異なる、海の表情、肌に感じる風の心地。その新鮮な感覚をかみしめながら、「また来てよかった」と心から思った。

季節を変えて、あるいは、時間を変えて。海の見える駅は、訪れるたびに新しい絶景を見せてくれる。次に訪れるときには、どんな景色が待っているのだろうか。

■島原鉄道
https://www.shimatetsu.co.jp/

BOOK

幸せの黄色いハンカチが揺れる、日本一海に近い駅  長崎県・大三東駅
海の見える駅
海の見える駅を巡る村松拓さんの旅をまとめたガイドブックです。これまでに訪問した約300駅の中から70カ所を選び、駅の写真、簡単な説明とともに紹介しています。
雷鳥社 
定価:1500円(税別)

PROFILE

村松拓

アマチュア写真家
1991年1月生まれ。川崎市出身。
2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れられず、2005年に末続駅(福島県いわき市)を訪問。それから海の見える駅の旅を始め、これまでに約300駅を取材。2006年にWebサイト「海の見える駅」を開設。現在は東京・新橋で会社員として働く傍ら、余暇で旅を続ける。著書に『海の見える駅』(雷鳥社・2017年)。

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日本海の白波が打ち寄せる、大迫力の無人駅 新潟県・青海川駅

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