出会った旅先は……食卓を彩る思い出いっぱいの器たち

外出自粛が続き、自宅で食事を作る機会が増えました。大好きな旅に出かけられるようになるのはあとどれくらい? そんなことを考えながらおうちご飯を食べている時、ふと「これはあの時に買ったお皿だったな」とか「これを買ったお店にまた行きたいな」と、器が以前の旅行を懐かしむきっかけになっていることに気づきました。皆さんにも旅先で買った思い出の「器」はありませんか?

(文・写真:こだまゆき)

飛驒高山 ~飛驒春慶の一方折菓子器~

3年前の初夏に訪れた岐阜県の飛驒高山で、飛驒春慶という漆器に出会いました。全国各地に産地がある春慶塗の中でも、飛驒春慶は木の風合いを生かした透漆塗りが特徴と言われています。高山観光の中心地・三町(さんまち)地区で立ち寄った「戸沢漆器」は、そんな飛驒春慶の製品を取り扱う直売店。店内には茶器やお盆、カップにお箸など、栗色につやつや光る商品がずらりと並んでいます。実際に手に取ってみると、木のぬくもりと木目の美しさにうっとりしてしまいました。

小判弁当

なんともお上品な小判弁当。おかずが映えそうですよね

カップ

漆は丈夫で長持ち。口当たりも優しいので、このようなカップもいいですね

ふと目に留まったのが長方形の板のような器でした。何に使うのだろう?と尋ねてみると菓子器なのだそう。「使い方は自由ですよ。汁物以外のおかずを載せてもいいですし、天ぷらなんかも合いますね」。だけど漆器ってお手入れが大変なのでは?と、ちょっとためらっていた私に、お店の人から「使ったらすぐ洗って乾かすことを心がければ大丈夫ですよ。ふだんの食卓にぜひお使いください」とのアドバイス。

春慶塗

こんな感じで普段使いしている春慶塗の菓子器。高山のおすし屋さんでは、このような春慶塗のプレートで握りを出すお店もあるのだそう

おかずをちょこちょこと載せてワンプレート皿として使ったら素敵かもしれない、アイデア次第でいろいろ使えそうと考えて2枚購入することに。包装紙に丁寧に包まれた飛驒春慶の菓子器を、自宅に帰って開けた時の高揚感をいまだに覚えています。以来、美しい木目の上に何かを置くたびにちょっぴり気が引き締まる気がする、そんな器です。

さんまち

飛驒高山を代表する観光スポット「さんまち」は情緒ある古い町並みが魅力

陣屋前朝市

「宮川朝市」と並ぶ人気の朝市が「陣屋前朝市」。野菜やお花などを売る地元の人との会話が楽しい

倉敷 ~寒風春木窯の飯わん~

倉敷を訪れたのは2年前の梅雨どき。取材と取材の間のぽっかりと空いた時間を利用して倉敷美観地区周辺を散策しました。倉敷出身の友人におすすめのお店を尋ねると「器とかが好きなら融(とをる)民芸店」との返信が。センスのいい彼女が言うのだからきっと間違いないはず、とGoogle Mapを頼りに向かうと、倉敷の街を見下ろす阿智神社への西参道の入り口脇にそのお店はありました。築100年以上という町家を利用した融民芸店。期待を裏切らない素敵なたたずまいでした。

融民芸店

融民芸店に着いたら、まずはウィンドーショッピングを。ガラス越しに並ぶ民芸品や器に目が釘付けになります

岡山県と言えば素朴な土の味わいが魅力の備前焼が有名です。倉敷美観地区にはそんな備前焼のギャラリーや直売店が点在していますが、「融民芸店」は地元のものに限らず、店主の小林融子さんが北海道から沖縄まで全国各地で買い付けたえりすぐりの陶器やガラス、民芸品などを取り扱う、いわばセレクトショップ。その店名は融子さんから取られています。

倉敷美観地区

江戸時代にタイムトリップしたような雰囲気の倉敷美観地区の本町通り

ご飯茶わん

食卓で大活躍の寒風春木窯のご飯茶わん。窯はたたんでしまっていて今はもう無いのだそう

おじゃました日は平日だったこともあってほぼ独り占め状態。「何かあったら呼んでくださいね」と言っていただき、心置きなく店内を物色できたのはいいのですが、心ひかれるものがありすぎなのです。選べなくて困っていた私に「ふふふ。器がお好きなのね。どうぞゆっくり選んでいって」と、店主の融子さんが奥で静かに見守ってくださったのを覚えています。そして迷いに迷った末に選んだのがこのご飯茶わん。イッチン描きという技法で作り出されたという細かいしましま模様がお気に入りです。

倉敷美観地区

美しい柳並木と白壁の町並みにアジサイが彩りを添える6月の倉敷美観地区

夕焼け

この日は燃えるような夕焼けが現れました。地元のおじさんたちと一緒にカメラを向けたのもいい思い出

読谷村 ~やちむん浅鉢~

毎年2月に開催される沖縄県内最大級の陶器市「読谷やちむん市」。残念ながら今年は新型コロナウイルスの感染拡大防止のために開催数日前に中止が決定してしまいました。しかし、既に航空券や宿を押さえてしまっていた私と友人のような人たちのために、読谷村に点在する各工房では独自で販売を行ってくださったのです。SNSでは地元の有志の方々が作った工房マップがシェアされるなど、違う形で楽しめました。

野外販売所

横田屋窯(ゆくたやがま)の野外販売所。テーブルの上には「ご自由にどうぞ」とお茶菓子も

図らずもレンタカーで“読谷やちむん工房巡り”となったその旅で立ち寄ったのが、「やちむんの里」と呼ばれる地域にある横田屋窯(ゆくたやがま)です。「この先にとってもいい窯があるんです!」と、以前にも訪れたことがあるという友人の案内で到着すると、その言葉通り「うわ~、素敵な場所!」と思わず声をあげてしまったほど。緑に囲まれた工房の庭先が販売所になっていて、ブロックと板棚で作られたテーブルの上に、沖縄の焼き物「やちむん」がずらりと並んでいました。

横田屋窯

おおらかで温かみのある絵付けが魅力。横田屋窯では年中こうして販売所がオープンしているそう

器

「このピッチャーもいいなぁ」と、どれもこれも手に取るたびに悩む私

ゴーヤチャンプルー

5寸サイズの浅鉢は1人分の煮物やサラダを取り分けるお皿として、うちでは重宝しています。もちろんゴーヤチャンプルーにもぴったり

「この小鉢はヨーグルトを入れるのにもいいよね」「これはうどん食べる時のどんぶりには少し小さいかなぁ?」……。友人とあれこれと悩みながら小一時間。2月とはいえ少し汗ばむほどの陽気のなか、鳥のさえずりを聞きながらのやちむん選びは至福の時でした。聞くと、横田屋窯はもともと「読谷やちむん市」には出店予定はなかったそうなのです。今回工房を訪れた縁で出会い、連れて帰ってきたこの浅鉢は、食卓に上がるたびに大好きな沖縄への思いを強くさせてくれます。

ネコ

横田屋窯には店番(?)のネコも。うまく器をよけて歩く姿が見られました

     ◇

毎日使う物こそ、自分が一番好きなものやお気に入りのものを使うべきだとあらためて感じている今日このごろ。ご紹介したそれぞれの器には、今までの旅を思い出させる自分だけのストーリーがあります。そんなアイテムが、これからも少しずつでいいので増えていけばいいなと思います。

PROFILE

こだまゆき

知らない土地での朝食がなによりも楽しみなフォト派のライター。iPhoneで撮るのも一眼レフで撮るのもどちらも好き。自由で気ままな女性ならではの目線で旅のレポートをお伝えしています。執筆業は旅関連の他、デジカメ、雑誌コラム、インタビューなど。趣味は顔ハメパネル。

裸足で座って寝転んで楽しむ美術館と、静岡野菜のイタリアン

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