カメラと静岡さとがえり

裸足で座って寝転んで楽しむ美術館と、静岡野菜のイタリアン

スリランカと日本を拠点に活躍する写真家の石野明子さんが故郷を撮り歩く連載、「カメラと静岡さとがえり」。2019年10月からスタートし、17回目を迎える今回が最終回となります。最後に紹介してもらうのは、静岡が誇る日本画家・秋野不矩(あきの・ふく)の作品を収蔵する「浜松市秋野不矩美術館」。なんとこの美術館、土足で入ることが禁止されています。その理由とは? 今回は美術館近くのイタリアンレストランもあわせてご紹介。静岡の自然のめぐみたっぷりな野菜が味わえるそうです。末尾には、筆者の石野明子さんから読者の皆様へメッセージがあります。ぜひ最後までお楽しみください。
(トップ写真は、大理石が敷き詰められた秋野不矩美術館第二展示室)

※情報は取材した2019年当時のものです。現在、浜松市秋野不矩美術館は更新工事のため休館中です。営業再開は7月4日(土)を予定しています。

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静岡が誇る日本画家

秋野不矩、1908年に浜松市磐田郡二俣町(現、浜松市天竜区二俣町)に生まれた日本画家。12歳で絵画の魅力に目覚め、19歳から本格的に日本画を学んだ。そして50歳を超えてから訪れたインドに感銘を受け、インドの地や人々の営みを描いた作品が多くなっていく。それまでも様々な賞を受賞してきたが91歳になった1999年には文化勲章を受賞した――。

挿絵

秋野は絵本の挿絵も書いていた

静岡が誇る日本画家、秋野不矩の美術館は、故郷、浜松市にある。設計は建築家の藤森照信によるもの。この美術館では秋野の貴重な作品と、静岡の自然と一体化した建築が楽しめるぜいたくな美術館となっている。

外観

美術館の外観、藤森らしいたたずまい

美術館は二俣町を見下ろす丘にあり、駐車場から美術館の入り口まではうねった坂道を登っていく。まるで聖地を訪れるための参道のよう。鳥のさえずりや木漏れ日を楽しみながら、歩みを進める。そうすると見えてくるのは地元の天竜杉が用いられた美術館の姿だ。壁には藁(わら)と土を混ぜたモルタルが塗られている。力強くも優しい印象を受けるのはそういった自然の素材が使われているためだろう。

光

天竜杉の梁(はり)、モルタルの壁に光が降りそそぐ

最大の特徴は靴を脱いで鑑賞すること。私は裸足で上がってみた。第二展示室の床は大理石でひんやりと気持ちがいい。藤森は、「秋野の作品の持つ汚れのなさに土足は似合わない」と考えこの形となったそうだ。

展示

展示の高さが低く、座って眺められる

作品は床に座り込んで見てもいいし、寝っ転がって見てもいい。そのため通常よりも低めに展示されている。そして絵までの距離が近い。

境界

絵との境界線はこれだけ

何時間も絵に向かい合う人も多いそうだ。秋野はインドを描く際にも日本画で用いられる岩絵具を用いている。ざらざらとしたその質感とマットな発色からインドのたち昇る熱気、力強さ、そしてインドのなんでも受け入れてしまうような懐の深さを感じる。

地図

秋野が手書きしたインドの地図

秋野は生涯で14回もインドを訪れ、インドは彼女の創作意欲の源となっていた。訪れた場所では写真を撮ったりすることはせず、素描(デッサン)をするのみ。日本のアトリエでその時に感じた感動を心の中で熟成し昇華させ描いていたという。作品からは静かに、だけれど大きなエネルギーがほとばしっていてひきつけられる。秋野は「スケッチしてすぐ描いたような絵は浅いですね。思いが深く長い方がいい絵が出来る」と語っていたそうだ。

素描

企画展で展示されていた、秋野がインドで書いた素描

秋野の名前の「矩」は定規や掟を意味する。杓子定規(しゃくしじょうぎ)でない秋野の魅力を全身で感じられる場所がここだ。開館は1998年の4月。なのに常に新しさと刺激がもらえるこの美術館。絶対のおすすめである。

近くには静岡の野菜が楽しめるレストランも

さて、心が満たされたら次はおなかを満たしたい。秋野不矩美術館から車で10分ほどの場所に「農+/NOTICE」というイタリアンレストランがある。

野菜

元気に育つ野菜たち、レストランの窓からも見える

ここのシェフは実は野菜農家が本業だ。野菜の本当の美味しさを知ってほしいと試食会を始めたところ、好評となり現在に至る。シェフの今津亮さんは埼玉県出身。だが浜松の大地に野菜づくりの可能性を感じてこの地で農家として独立した。

夫婦

時に友人たちの手を借りながらもご夫婦で畑とレストランを切り盛りしている

この地域には冬でも雪はほとんど降らないが、「遠州のからっ風」というとても冷たい風が吹く。私は毎冬の通学時、痛いほど冷たいこの風が大っ嫌いだった。だけれどこの風が、霜がおりないギリギリの寒さを運び、それによって野菜自ら糖度をあげ、おいしくなるのだそうだ。

ランチ

ランチコースAは2140円(税抜き)パスタは3種類から選べ、私はゴロゴロ夏野菜と自家製生ハムのラグーソースを

そんな今津さんが差し出す野菜は甘く、味は力強い。色味も鮮やかで見ただけでおいしい野菜だとわかる。そして野菜の味を直球で楽しめるようなイタリアンで、ボリュームも文句なしなのだから行かない手はない! でも本業は農家なので、畑の繁忙期にはレストランはお休みになるのでご注意を。

筆者兼カメラマン・石野明子さんからのメッセージ

最後まで「カメラと静岡さとがえり」におつきあいくださりありがとうございました。旅で出会える特産品や自然、歴史遺産など旅で得られる刺激はたくさんあります。

ですが今回この連載で意識していたのはそこに携わる人々でした。どんな方たちがどんな思いで、そしてどんな表情で働いているのか、その魅力を最優先で取材先を決めてきました。

この連載を始めた頃はまさかコロナ禍でこんな状況になっているとは思ってもみませんでした。ですが、状況が落ち着き、行きたいところへ安心して行けるようになった際には、ぜひ記事でご紹介した方々を訪ねて欲しいです。

実際に触れ合うことで新しい出会いやきっかけを皆さんにお届けできたらとてもうれしく思います。本当にありがとうございました。

浜松市秋野不矩美術館
観覧料 大人310円 高校生150円 中学生以下・70歳以上および障がい者手帳等所持者(介助者は1人まで) 無料(特別展は別料金)
静岡県天竜区二俣町二俣130
電話:053-922-0315
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/akinofuku/
注:現在、更新工事のため休館中。営業再開は2020年7月4日(土)を予定している。

農+(NOTICE)
静岡県浜松市浜北区四大地9-1178
電話:053-548-4227
https://notice-vegetable.storeinfo.jp/
夜は予約のみ

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PROFILE

石野明子

2003年、大学卒業後、新聞社の契約フォトグラファーを経て06年からフリーに。13年~文化服装学院にて非常勤講師。17年2月、スリランカ、コロンボに移住して、写真館STUDIO FORTをオープン。大好きなスリランカの発展に貢献したいと、その魅力を伝える活動を続けている。2019年4月にイカロス出版よりガイドブック「五感でたのしむ! 輝きの島スリランカへ」(税込み1760円)が出版された。
http://akikoishino.com/
http://studio-fort.com/

浜松に集う個性との出会いを楽しんで 古くて新しい、昭和レトロな「カギヤビル」

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