美しきインドの日常

<1>過酷な労働にも着る、インド「ガラシア族」の誇り高き民族衣装

コロナウイルスの感染拡大で、今、思うがままに出かけられない日々。日常から少し遠くへと目線を向け、異国へと思いをはせてみませんか? インドに魅せられ、バイクで8周してきた写真家の三井昌志さんが、文と写真でつづる連載コラム「美しきインドの日常」が始まります。まずは、女性の民族衣装のお話から――。

日常にあふれる鮮やかな色彩

インドはとてもカラフルな国だ。絵の具のチューブから直接ひねり出したようなビビッドな原色が、日常生活の中にあふれている。特に女性たちの服装は南国の野鳥のように色鮮やかだ。どちらかといえばシックで淡いトーンを好む日本人とは違って、インド人女性は派手で目立つ色を選ぶ人が多いようだ。

<1>過酷な労働にも着る、インド「ガラシア族」の誇り高き民族衣装

レンガ工場で働くのは、10代後半から20代の若い女性が多かった(撮影:三井昌志)

インド北西部ラジャスタン州の辺境に住むガラシア族は、とりわけカラフルな部族として知られている。ガラシア族の女性たちが身につけている「ジュルキ」と呼ばれる民族衣装は、刺しゅうや造花で飾られた実に色鮮やかなものだが、女たちはそれをお祭りなどの「ハレの日」だけでなく、たとえばれんが工場で働くときの作業着としても着ているのである。

れんが工場で働く女性たちは、一度に10個以上のれんがを頭の上に積み上げて、窯まで早足で運んでいた。小柄だが、体幹が強いのだろう。バランスを崩してれんがを落とすような人は誰一人いなかった。

れんが工場はほこりっぽく、直射日光と高温にさらされるタフな職場だから、過剰なほど装飾的な民族衣装を着なければいけない合理的な理由はないように思う。上着もスカートも動きやすそうには見えない。それでも彼女たちは人目を引く派手な衣装を身につけて、この過酷な肉体労働をこなしていた。そこには部族の誇りや独自の美意識が反映されているに違いなかった。

<1>過酷な労働にも着る、インド「ガラシア族」の誇り高き民族衣装

日干しレンガを頭に積み上げて、焼成窯まで運ぶのが女たちの仕事だ(撮影:三井昌志)

「この村はとても貧しいんです。女性が働けるような職場はほとんどありません。だからレンガ工場は現金収入を得られる場所として重要なんですよ」

そう教えてくれたのは、村で仕立屋を営むルクマニさんという女性だった。彼女はもともとラジャスタン州から遠く離れたカルナータカ州で生まれたのだが、結婚を機にこの村に移り住んできたという。そして独学でミシンの使い方を覚え、自宅でガラシア族の民族衣装を作るビジネスを始めた。

「ガラシアの民族衣装ジュルキはすべてオーダーメードです。それぞれの体形に合わせて作ります。ジュルキのデザインは何百年も前から受け継がれていると聞いています。ベーシックなデザインのものは1着500ルピー(800円)。特別な刺しゅうを施したものだと、1着700ルピー(1120円)ぐらいですね」

農業と放牧以外これといった産業のない辺境の村にあって、700ルピーというのは決して安くはないはずだが、それでもルクマニさんの店には常に新しい服のオーダーが舞い込んでくるという。ガラシア族の女性たちがいかに「美しく着飾ること」を重視しているのかを物語るエピソードだ。

<1>過酷な労働にも着る、インド「ガラシア族」の誇り高き民族衣装

ガラシア族の女性たちはこのカラフルな民族衣装で畑仕事も行っている(撮影:三井昌志)

ルクマニさんは五つの言語を話せるマルチリンガルだった。彼女の母語であるマルワリ語と共通語であるヒンディー語、出身地の言葉であるテルグ語、ガラシア族の村人が話しているガラシア語、そして学校で教わった英語である。

「慣れてしまえばどうってことないんですよ」と彼女は早口の英語で言った。「私たちは生まれたときから、話す相手によって言葉を変えるのが当たり前だから。日本人は日本語だけしか話さないんですか? それはうらやましいです」

インドは主要なものだけでも22もの異なる言語を持つ多言語国家だ。最も話者が多いヒンディー語にしても、国民の40%(約5億人)が話せるにすぎない。つまりインド人の半分以上はヒンディー語以外の言葉で日常会話を行っているのだ。

地域が変われば、話す言葉も変わるし、食べ物も人々の顔つきも変わるし、服装だって変化する。広大なインドを旅するというのは、この国の多様性を味わうことに他ならないのだ。

>>連載一覧へ

PROFILE

三井昌志

1974年生まれ。京都府出身。神戸大学工学部卒業後、機械メーカーに就職。エンジニアとして2年働き、退職。2000年12月から10カ月にわたってユーラシア大陸を一周したことをきっかけに、写真家としての道を歩むことに。「日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2018年グランプリ」を受賞。おもな著作に『アジアの瞳』(スリーエーネットワーク)、『子供たちの笑顔』(グラフィック社)、『スマイルプラネット』(パロル舎)、『写真を撮るって、誰かに小さく恋することだと思う。』『渋イケメンの国』『渋イケメンの旅』(雷鳥社)などがある。公式サイト「たびそら」:https://tabisora.com/

一覧へ戻る

<2>手でこねて、牛糞燃料作り。色鮮やかなサリーをまとった女性たち(ウッタルプラデシュ州)

RECOMMENDおすすめの記事