美しきインドの日常

<2>手でこねて、牛糞燃料作り。色鮮やかなサリーをまとった女性たち(ウッタルプラデシュ州)

インドに魅せられ、バイクで8周してきた写真家の三井昌志さんが、文と写真でつづる連載コラム「美しきインドの日常」。隔週木曜更新です。

牛の国、インド

ウッタルプラデシュ州は、インドでもっとも多くの人口を抱える州だ。その数なんと2億人。もし国別の世界人口ランキングに登場すれば、世界第7位のナイジェリアと同じくらいにランキングされるという膨大な人口を養うために、ガンジス川に沿った平野部には一面の小麦畑が広がっている。

小麦畑では、とてもカラフルなサリーを着た女性たちが働いていた。デザインも色もさまざまで、見ているだけでも飽きない。年配の人は落ち着いた色あいを好むのかと思いきや、そんなこともなくて、60歳を過ぎても真っ赤なサリーを着ている人もいる。インドの女性たちは、老いも若きもビビッドな色を好む傾向があるようだ。

<2>手でこねて、牛糞燃料作り。色鮮やかなサリーをまとった女性たち(ウッタルプラデシュ州)

牛糞燃料を作る女性。牛の糞に藁を混ぜたものを素手でこねている(撮影:三井昌志)

カラフルなサリーを着た女性たちがよく行っているのが、牛糞燃料を作る仕事だ。これは牛の糞(ふん)に藁(わら)を混ぜて乾燥させたもので、インドの農家では昔から家庭用の燃料としてよく用いられている。薪(まき)に比べると煙が少なく、ゆっくりと燃え続けるので、かまどで煮炊きするのに適しているという。

インドは牛の国だ。たいていの農家は複数の牛を飼っていて、水牛と牛を合わせた飼育数はインド全体で3億頭にも達するという。当然のことながら、その3億頭が出す排泄物もすさまじい量になるはずだから、これを有効活用する技術が発達したのだろう。

牛糞燃料を作るのは女性たちの仕事だ。牛糞に藁を混ぜ、円盤状に形を整えてから、天日の下で数日間乾かし、それを山のように積み重ねていく。

<2>手でこねて、牛糞燃料作り。色鮮やかなサリーをまとった女性たち(ウッタルプラデシュ州)

天日干しして完成した牛糞燃料を運ぶ女性(撮影:三井昌志)

こうした作業はすべて素手で行われている。手袋を着けている人は見たことがない。インドの人々にとって牛糞は汚いものではなく、素手で触れることへの抵抗感はまったくないようだ。そもそも草食動物である牛の糞は、人間や肉食動物の糞のような臭いはほとんどない。

女性たちが着ている色鮮やかなサリーも牛糞で汚れることになるが、それを気にする人は誰もいなかった。もし汚れたら洗濯すればいい、と考えているようだった。実際のところ、サリーというのは長さ5mほどの薄い木綿の布なので、洗うのも簡単だし、日向に干しておけばすぐに乾いてしまうのである。

<2>手でこねて、牛糞燃料作り。色鮮やかなサリーをまとった女性たち(ウッタルプラデシュ州)

草原で牛を放牧する女性。その辺の草を食べさせていれば餌代はかからないから経済的だ(撮影:三井昌志)

インドの農村の暮らしは牛とともにある。ヒンドゥー教徒は牛を「神様の乗り物」だと考えているので、牛を殺して牛肉を食べることは決してないのだが、その代わりに雌牛からはミルクという貴重なたんぱく源がとれるし、雄牛からは畑を耕したりものを運んだりする労働力を得ている。さらには毎日の煮炊きに使う牛糞燃料まで生み出してくれるのだ。

牛のいない生活なんて考えられない。それが今も昔も変わらないインドの農村の姿なのである。

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PROFILE

三井昌志

1974年生まれ。京都府出身。神戸大学工学部卒業後、機械メーカーに就職。エンジニアとして2年働き、退職。2000年12月から10カ月にわたってユーラシア大陸を一周したことをきっかけに、写真家としての道を歩むことに。「日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2018年グランプリ」を受賞。おもな著作に『アジアの瞳』(スリーエーネットワーク)、『子供たちの笑顔』(グラフィック社)、『スマイルプラネット』(パロル舎)、『写真を撮るって、誰かに小さく恋することだと思う。』『渋イケメンの国』『渋イケメンの旅』(雷鳥社)などがある。公式サイト「たびそら」:https://tabisora.com/

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