永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(64)撮ろうとしたら、以心伝心 永瀬正敏が切り取った台湾・嘉義市

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、台湾映画「KANO」の撮影の合間に撮った1枚。住宅の中に工房を見つけた永瀬さんが、カメラを構えようとすると……。

(64)撮ろうとしたら、以心伝心 永瀬正敏が切り取った台湾・嘉義市

©Masatoshi Nagase

映画の撮影期間中、休みの日があるとカメラを片手に街へ出かける(心に余裕がある日は)。
この写真もその時のものだ。
台湾映画「KANO」の撮影は合計5カ月に及び、台湾各地で撮影した。

台湾・嘉義市、「KANO」の舞台になった場所で出合った風景。

夜、小さな路地を歩いていると、突然ある家から暗闇を引き裂くようなとても強い光のスパークが見えた。
近寄ってみると、普通のお宅だと思っていた場所は、小さな工房になっていて、
1人の男性が溶接の作業をされていた。
その空間がなんだかとてもドラマチックに見えた。
写真を撮らせていただこうと声をかけようとした時、作業をされていた男性がこちらに気づいた。
彼はマスクを取り、僕の手の中にあるカメラに気づくと、ほほえんで作業を続けてくれた。
僕がどんな写真を撮りたいか、察知したようだった。
しばらく撮影して、最後にお礼と握手をして別れた。

僕は台湾で写真を撮影していて、嫌な顔をされた記憶があまりない。
逆にみなさん、撮影後に「謝謝!」とお礼をおっしゃったりする。
こちらの方こそ「撮らせていただいてありがとうございます」と言うべきなのに。

よくインタビューなどで「台湾の一番素晴らしいところはどこですか?」と質問される。
台湾は郷愁を誘う風景も、時代を超越した建物も、近未来を感じさせるビル群も、
食も、文化も、どれをとっても素晴らしい。
でも僕は、いつも迷わずこう答える。
「それは人です」

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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