楽園ビーチ探訪

海中のミステリーサークルと孤高の芸術家・田中一村 奄美大島

「東洋のガラパゴス」と呼ばれる奄美大島は、太古の昔に大陸から切り離され、生物は独自の進化を歩んできました。この島を含む奄美群島の面積は日本全体の約0.3%なのに、なんと日本全体の生物種の約16%が暮らしている、動植物の楽園です。「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として、世界自然遺産への登録を目指しています。

連載「楽園ビーチ探訪」は、リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信するビーチライターの古関千恵子さんが訪れた、世界各地の美しいビーチや、海のある街や島を紹介いたします。

海底の「アーティスト」、一躍世界的に

そんな奄美大島に2015年、世界から注目が集まりました。米国のニューヨーク州立大の国際生物種探査研究所が選ぶ、「新種トップ10」にアマミホシゾラフグが選ばれたのです。その理由は、オスがミステリーサークルのような産卵床を作る行動にありました。(トップ写真は産卵床とアマミホシゾラフグ)

海中のミステリーサークルと孤高の芸術家・田中一村 奄美大島

干潮時、岩場にハート形の潮だまりができる「ハートロック」のあるビーチ。森を抜けてアプローチします

アマミホシゾラフグの産卵床は、ウネと溝のある同心円の中央に波模様が描かれています。それが、真っ白な砂地に突如として現れるのです。

海中のミステリーサークルと孤高の芸術家・田中一村 奄美大島

島のあちこちで見かけるサトウキビ畑

このサークルをアマミホシゾラフグが作る様子をはじめて発見したのは、水中写真家の大方洋二さん。ダイバーの間では「誰が? なぜ?」と20年近く謎のままでしたが、それがアマミホシゾラフグという新種のフグの産卵床であることがわかったのは、2011年のことでした。

オスが産卵床を作り始めるのは干満の差が小さい小潮の終わりあたりから。10センチあまりの小さな身体ながら、巧みにヒレを動かして、直径2メートルもの砂の模様を描きあげます。完成後、メスの訪れをオスは少し離れて待つのです。

やってきたメスは、円の中心で産卵を行います。それは数秒のできごと。その後、オスは卵を守る行動に集中するため、産卵床はあっという間に崩れていくそうです。また、メスが来てくれなくても、オスはやる気を喪失するのか、産卵床の管理をやめてしまうとか。美しい幾何学模様のミステリーサークルは、3月終わりから7月にかけて、干満の差が大きい大潮近くの月に2度、2~3日間しか、見られないのです。

海中のミステリーサークルと孤高の芸術家・田中一村 奄美大島

トイレやシャワー施設が整った、崎原ビーチ

暗雲立ち込める中、ダイビングへ

6月の終わり、奄美大島のダイビングサービス「ブルーゲイト」に問い合わせをしたところ、「今年は7月2~4日のどこかで見られると思いますよ。来週、探しに行ってきます」。おおまかな場所は決まっていても、どこに作るかは、フグの気分次第。半径100メートルほど砂地の海底を探すのは、かなりの至難でしょう。

慌てて訪れた7月2日、奄美大島は土砂降り。空には暗雲が立ち込める中、ダイビングへ。島北部にある龍郷町(たつごうちょう)の港を出てから約10分、その場所はありました。

海中のミステリーサークルと孤高の芸術家・田中一村 奄美大島

ダイビングポイントに到着すると、豪雨がぴたりとやみました。水中のコースの説明を受け、さぁエントリーです

透明度も悪く、日光が差し込まない砂地の水中をもくもくと泳ぎます。ガイドの岩田浩志さんがコンパスを何度も確認しながら60メートルくらい泳いだ頃でしょうか。海底に刺した目印の棒を発見。

砂を巻き上げないように近づくと、ありました! 

海中のミステリーサークルと孤高の芸術家・田中一村 奄美大島

ミステリーサークルのような産卵床とフグが同時に見られるのは、かなりラッキー ©Dive Service BLUE GATE

直径2メートルほどの産卵床はきれいに築き上げられていて、まるでサンドアートのよう。設計図もなく、誰に教えられるでもなく、こんな巨大な模様を描くとは不思議です。海底に寝そべって、産卵床の模様を眺めていたら、あどけない顔をしたアマミホシゾラフグのオスが果敢にも威嚇してきました。本能ってすごいです。

孤高の日本画家・田中一村

アマミホシゾラフグの産卵床は、実にアーティスティック。そして奄美大島ゆかりのアーティストといえば、孤高の日本画家・田中一村(いっそん)でしょう。中央画壇に失望し、50歳で奄美大島へ単身移住後、切り詰めた苦しい生活を送りながら、島の風景や自然を描き続けました。彼の作品が世に出たのは、没後しばらくたってからです。

海中のミステリーサークルと孤高の芸術家・田中一村 奄美大島

奄美大島の美しい風景を描き続けた日本画家・田中一村の記念美術館。このポスターの絵が「不喰芋(くわずいも)と蘇鉄(そてつ)」

タヒチやハワイなど南の島で現地在住の画家の作品をよく見るのですが、気候がそうさせるのか、筆さばきはおおらか。それはそれで魅力的ですが、田中一村の研ぎ澄まされた観察眼から生まれる繊細な色使い、ち密な筆運びの花鳥画からは、生真面目さが伝わってきます。代表作「アダンの海辺」や「不喰芋と蘇鉄」の空の色、やわらかな光は、「亜熱帯」のビーチで日々繰り返されている光景そのもの。

海中のミステリーサークルと孤高の芸術家・田中一村 奄美大島

「田中一村終焉(しゅうえん)の家」。亡くなる10日前に引っ越してきたそうです

彼は、絵がどう批評されてもかまわず、「見せるために描いたのではなく私の良心を納得させる為にやったのですから……」と考えていたそうです。

一村のまなざしとシンクロする宿

今回、滞在したのは「伝泊 The Beachfront MIJORA」というヴィラ。奄美大島出身の建築家・山下保博さんによる、「伝統的・伝説的な建築と集落と文化」を次の時代に伝えるための宿泊施設「伝泊」シリーズのひとつです。

海中のミステリーサークルと孤高の芸術家・田中一村 奄美大島

海辺に建つ「伝泊 The Beachfront MIJORA」。大潮近くの時期は、潮の満ち引きが目に見えてわかります

このヴィラを選んだのは、「田中一村の世界」を体験できる部屋があるから。壁いっぱいの大きな窓には、元気いっぱいのアダンと穏やかな海が広がっています。夕暮れ時の斜陽が部屋に差し込むと、まるで絵の中に取り込まれたよう。田中一村が島へ注いだまなざしと、シンクロした気分になれるのです。

奄美大島は、海と陸に、偉大なアーティストを育てる島でもあるようです。

【取材協力】

ダイブサービス ブルーゲイト
https://www.ds-bluegate.jp/

伝泊 The Beachfront MIJORA
https://den-paku.com/thebeachfront
 
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PROFILE

古関千恵子

ビーチライター。リゾートやカルチャー、エコなどを切り口に、国内外の海にフォーカスした読み物や情報を発信する。ダイビング雑誌の編集者を経てフリーとなり、“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”を繰り返すこと四半世紀以上。『世界のビーチ BEST100』(ダイヤモンド・ビッグ社)の企画・執筆、『奇跡のリゾート 星のや 竹富島』(河出書房新社)の共著のほか、ファッション誌(『Safari』『ELLE Japon』など)やウェブサイトに寄稿。ブログも配信中。

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