海の見える駅 徒歩0分の絶景

美しい海水浴場まで徒歩0分 徳島県・田井ノ浜駅

海水浴場まで徒歩0分。そんな駅が徳島県にある。JR牟岐(むぎ)線の田井ノ浜駅だ。駅を一歩出れば、見渡す限りの白い砂浜。そして、透き通るような青い海が迎えてくれる。

■連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

田井ノ浜駅は、例年7月中旬〜8月上旬のみに営業する臨時駅。隣接する田井ノ浜海水浴場の海開きに合わせて開かれ、「海水浴客のための駅」といっても過言ではない。営業期間中もすべての列車が停まるわけではなく、2019年の場合、昼間の1日3往復に限られていた。

しかし、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で、田井ノ浜駅、田井ノ浜海水浴場とも営業中止が決定 。本記事を通して、少しでも現地の情景を楽しんでいただけたらうれしい。

夏のホームに降り立てば、そこはにぎわいのビーチ

2018年8月。田井ノ浜駅で列車の扉が開くとすぐに、むわっとした生暖かい風と、にぎやかなセミの声に包まれた。気温は34℃、空は快晴。まさに絶好の海水浴日和だ。同時に5、6人が下車し、入れ替わりで列車に乗り込む人もいた。一つだけの小さなホームは、そこそこにぎわっている。出口のほうに目をやると、一歩外はもう、真っ白な砂浜だった。

美しい海水浴場まで徒歩0分 徳島県・田井ノ浜駅

夏の田井ノ浜駅の「駅前風景」

そこは田井ノ浜海水浴場。小高い山の緑に囲まれる形で、約1kmにもおよぶ白い砂浜が広がる。見渡せば、あちらこちらでくつろぐ人の姿。ざっと100人以上はいそうだ。色とりどりのテントが並び、どこからか陽気なBGMが流れる。降りたそばから、楽しげな雰囲気が肌に伝わってきた。

何より目についたのが、鮮やかな海の色。田井ノ浜海水浴場は「西日本屈指の水質を誇る」ともいわれ、環境省「水浴場水質調査」の結果は毎年最高の「AA」ランク。遠くから見ると、その色は実にすがすがしく、濁りのない青だ。波打ち際に近づいてみると、青は、手前からだんだんと透明に変わる。

美しい海水浴場まで徒歩0分 徳島県・田井ノ浜駅

田井ノ浜海水浴場の海水は、透明度が高い(2017年5月撮影)

振り返ると、田井ノ浜駅が、砂浜の奥にこぢんまりと鎮座している。臨時駅らしく駅舎はないが、入口にあるピンク色の監視塔と、営業期間中に掲げられる横断幕と万国旗が、トレードマークとなって青空に映えていた。

美しい海水浴場まで徒歩0分 徳島県・田井ノ浜駅

万国旗が鮮やかな、田井ノ浜駅の入口。駅前を見る限り、田井ノ浜駅の存在を示す常設の看板は見当たらなかった

列車を降りたそばから、ここまで「夏」を感じられる駅はなかなかない。まぶしい景色、海水浴場のにぎわい、そして暑さ。五感がすっかり圧倒されている。ふと時計を見ると、30分しか経っていない。ひと夏を一瞬で満喫したかのようだった。

歩いて行っても後悔しない、「オフ」の田井ノ浜

ただ、田井ノ浜駅がにぎわうのは、夏だからこそ。「オフ」の時期に訪れてみると、また違った魅力がある。

さらに1年前の、まだ新緑がまぶしい2017年5月。田井ノ浜駅のひとつ隣にある、由岐(ゆき)駅で列車を降りた。夏まで待ちきれず、ひと駅歩いてでも田井ノ浜駅を訪れたいと思い、やってきたのだ。

美しい海水浴場まで徒歩0分 徳島県・田井ノ浜駅

由岐駅から田井ノ浜駅に抜ける徒歩ルートは主に二つあるが、この日は「由岐の街並を抜けて」へ向かうことにした

由岐は小さな港町。地形が険しく、わずかに残った海沿いの平らな土地に、漁師町らしい木造の家々や商店が密集している。集落の細い道を抜け、小さな峠を超えると、田井ノ浜海水浴場に到着する。道のりは1kmほど。

美しい海水浴場まで徒歩0分 徳島県・田井ノ浜駅

由岐駅からの道中。木々の間から見た5月の田井ノ浜海水浴場に、人の姿はほとんどなかった

オフシーズンだけあって、ビーチにいた先客は2組の親子のみ。人は少なく、穏やかな時間が流れている。営業期間外の田井ノ浜駅には、もちろん誰もいない。視界いっぱいの透き通るような海を、暑さに苦しむこともなく、いつまでも自分のペースで眺めていられる。

美しい海水浴場まで徒歩0分 徳島県・田井ノ浜駅

「ぜいたくな時間だなあ……」。心地よさのあまりぼうっとしていると、普通列車が背後を勢いよく通過した。「オフ」の難点は列車で行けないことだが、ひと駅歩いて訪れただけのご褒美が、いま目の前に広がっている。

美しい海水浴場まで徒歩0分 徳島県・田井ノ浜駅

その後もしばらく、列車がカタコトと遠ざかる音、そして子どもたちの楽しそうな声が、美しい浜に響き渡っていた。

夏が過ぎ去っても、田井ノ浜には穏やかで美しい情景が待っている。またいつか田井ノ浜に足を運べる日を、そして田井ノ浜駅がまた無事に営業する日を、心から願ってやまない。

※JR牟岐線・徳島駅から普通列車で約80分の臨時駅。

BOOK

美しい海水浴場まで徒歩0分 徳島県・田井ノ浜駅
海の見える駅
海の見える駅を巡る村松拓さんの旅をまとめたガイドブックです。これまでに訪問した約300駅の中から70カ所を選び、駅の写真、簡単な説明とともに紹介しています。
雷鳥社 
定価:1500円(税別)

PROFILE

村松拓

アマチュア写真家
1991年1月生まれ。川崎市出身。
2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れられず、2005年に末続駅(福島県いわき市)を訪問。それから海の見える駅の旅を始め、これまでに約300駅を取材。2006年にWebサイト「海の見える駅」を開設。現在は東京・新橋で会社員として働く傍ら、余暇で旅を続ける。著書に『海の見える駅』(雷鳥社・2017年)。

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