あの街の素顔

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

南半球ならではのユニークな生態系を持ち、雄大な自然が美しいニュージーランド。アウトドアのイメージが強い旅先ですが、実は歩いて楽しめる都市カルチャーも発達しています。環境先進国のイメージ通り、サステイナブル(持続可能)やオーガニックであることを大切にする一方で、お酒が大好きでジャンクフードも楽しんじゃう。2019年11月に出かけた、そんなおちゃめなニュージーランド人が暮らす街歩きの旅を、みなさまにご紹介します。

「世界でもっともクールで小さな首都」ウェリントン

「東京と比べると、地方都市みたいにちっちゃいでしょう」。ニュージーランド人の友人がそう語る首都ウェリントン。ニュージーランド北島の南端にあるこの小さな町は、世界に対して大きな存在感を発揮しています。

たとえば、イギリスのBBCによる「世界で最もホットな都市」の一つに選ばれたり、旅行ガイドブック「ロンリープラネット」では「世界で最もクールで小さな首都の一つ」と呼ばれたり。映画ファンなら、大ヒットした「ロード・オブ・ザ・リング」などが製作された、ハリウッドならぬ通称「ウェリウッド」としてご存じかもしれません。

食のキーワードは「エシカル」

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

ピーナッツバター専門店「FIX&FOGG」。一見ジャンクフードですが、オーガニックのピーナツバターにご近所の安全で安心なパンを使っています。このギャップもニュージーランドらしさとか

前出の友人とわたしは、おいしいモノ情報を交換し合う食いしんぼつながり。ウェリントンの街を「食べること」を通じて体感するなら、「エシカル」がキーワードと彼女は言います。

「エシカル」とはオーガニックやエコロジカルからさらに踏み込んだ考え方で、日本語では「倫理的」と訳されることが多いようです。未来に向けて自然環境を守る「サステイナブル」な行動を、社会や自然について考えながら「エシカル」に選ぶといった感じ。食いしんぼなら、いま食べようとしているものは、誰が、どこでどうやって作ったもので、適正な取引にもとづくものか、そして大量生産・大量廃棄につながらないものであるか、食べる前にちょっと考えてみようといったところでしょうか。

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

エシカルな志を持った若手起業家が集まるユニークな小路「ハンナズ・レーンウェー」


「世界一かわいい小路」と言われる「ハンナズ・レーンウェー」は、「エシカル」が実感できる場所です。工場だった古い建物を、カフェやパン屋、デザインショップといった小さな起業家たちが改装した一角で、治安もよく、住人や働いている人たちがゆったりした雰囲気だから、おやつやコーヒーを片手にぶらぶらお散歩するのが、なんとも楽しいのです。

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

ブルワリー「GARAGE PROJECT」のファクトリー。ニュージーランドはワインのイメージが強いですが、街に根ざしたクラフトビールの充実ぶりもすごいのです

売っている商品は、エシカルを基本としながらも、地域のコミュニティーで融通しあっているような、肩の凝らないものばかり。たとえばロフトの隠れ家のようなスイーツショップでは、すぐそばにある、フェアトレード(環境に配慮してつくられた農産物などを、生産者と直接取引して適正な価格で買うこと)で買い付けたオーガニックのカカオ豆だけを使うチョコレート工房から仕入れていたり。オーガニックのピーナツバターのショップでは、ご近所のパン屋さんの焼き立てパンで、すぐに食べられるメニューを提供したり。

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

チョコレート専門店「Wellington Chocolate Factory」のペルー、フィジー、ソロモン諸島それぞれの土地の味を感じられるオーガニックのチョコレート。フィジーのカカオ豆の栽培には、日本人も貢献しています


ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

地元の人に人気のカフェ「Flight Coffee Hanger」。じつはニュージーランドは、カフェ文化が盛ん。ブレンドしたコーヒー豆やシングルオリジン(単一の生産地)、水出しコーヒーなどの飲み比べ体験も

コーヒーショップやチョコレートショップでは、コーヒーやチョコレートについて、基礎知識を簡単に学べるミニセミナーも開催。これも商品を売るためのプロモーションというよりは、知識をみんなでシェアするのが目的といった印象で、参加していてなんとも楽しい。

若い人たちが自分なりに考えて街をつくっているこのオーラは、「全米でもっとも住みたい街」に選ばれた、アメリカのオレゴン州ポートランドにも共通するものがあるような。

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

カフェ「Flight Coffee Hanger」の朝食。毎朝決まったお気に入りのカフェでヘルシーな朝食を楽しむ。そんなサードプレース(自宅と職場に続く第3の居場所)を持っている人も多いそう


ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

ヘルシーメニューがそろうカフェ「Loretta」。全粒粉のオーガニックのパン、オーガニックのスムージー、放し飼いした鶏の卵、オーガニックの野菜にベーコン。こんな朝食が定番です

日本からの玄関口オークランドで楽しむ地元の味

エシカルなカルチャーは、オークランドでも体験することができました。オークランドは、ニュージーランド最大の都市で、日本も含めて大半の国際線が離着陸する世界への玄関口。そのためさまざまな国の人たちを受け入れる土壌ができあがっていて、多様な文化を体験することができます。

たとえばフードシーンを見てみると、ニュージーランドを代表するファインダイニングを手がけるスターシェフのひとりはインドからの移民ですし、「予約の取れない人気店」として有名な「カズヤ レストラン」は、名前から想像がつくように、オーナーシェフが日本人(東京の名イタリア料理店「アクアパッツァ」におられた方です!)。

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

イタリアンや中東、アルゼンチン、エスニックなど、世界各国の味覚とアートなどが集結した、オークランドの多様性を楽しめる複合施設「ポンソンビー・セントラル」


ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

スイーツが楽しめるカフェ「foxtrot parlour」。ヘルシー一辺倒ではなく、時には高カロリーなスイーツも。注射器型の注入器にはソースが入っていて、好きなだけドーナツに注入して、ホイップクリームをつけて食べます

オークランドでは、世界各国の料理を楽しむのはもちろん、人々はときにジャンクフードで自分を甘やかしたりしながらも、エシカルという自分なりのライフスタイルの揺らがない基盤を持っているみたい。

たとえば、環境に配慮してプラスチックフリー(プラスチック製品を使わない)食料品店があったり、気軽に立ち寄れるフードコートのシーフードでさえ、どこで水揚げしたどんな魚なのか、トレーサビリティー(商品の生産や流通の行程を追跡できること)がしっかりしていたり。それらはすっかり人々の生活に溶け込んでいるように見えました。

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

エシカルなショッピングを提案する「GoodFor Wholefoods Refillery」。キヌアやアマランサスといった雑穀やオーガニックのシリアル、ナッツやドライフルーツを量り売り。プラスチックフリーで、容器は持参するかリサイクル可能なものを購入します


ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

「Little Bird Organics」。ベジタリアンやハラールへの対応もマルチカルチュラルな都市ならでは。こちらは完全ベジタリアンで、オーガニック野菜だけで作ったベトナム料理のバインセオ

エシカルな小さな起業家を自分の地元で見つけよう

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

フィッシュマーケット「Sanford」のフードコート。地元の人たちがふらりと立ち寄るリーズナブルなお店です。使い捨ての器はリサイクル可能なもの。こんなお店が近所にもあったらいいですよね

かの地の人々のライフスタイルにあこがれて帰国したわたしは、みなさまと同様に自宅にこもることになりました。東京のど真ん中なのに、どこのお店も固く扉を閉ざして、街全体が異様に静まり返っていた約2カ月。いま、だんだんと目覚め始めた街を歩いてみると、これまで通り過ぎていた小さな路地や街のすみっこに、いくつもの素敵なお店があることに気がついたのです。

地域のお店とコラボして、フードロスを出さないように工夫していたり、引き取り手のいなくなってしまった農家さんや漁師さんの商品を加工したり。日常と非日常が入れ替わること。思いがけない発見があること。それはまさに「旅の醍醐(だいご)味」と言える出合いでした。

みなさんもぜひ、自分の街を旅して、小さな宝物を発見してください。

そしていつかはニュージーランドへ

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

オーガニックショップ「FOOD FOREST ORGANICS」。主要都市だけでなく、小さな街にもエシカルなカルチャーが定着しています。こちらはウェリントンから車で約1時間のグレイタウンにあり、映画界の巨匠ジェームズ・キャメロン監督が手がけています

新型コロナウイルス感染症の封じ込めに成功したニュージーランドは、世界への扉を開く準備を着々と進めているようです。6月8日には、ついに国内の感染者がゼロに(発表したアーダーン首相、すごくうれしそうでしたね!)。その後再び感染者が確認されましたが、入国制限を除きほぼすべての規制は解除されています。

同じ月、ニュージーランド政府観光局は、「PURE(ピュア)」をテーマに、日本を含む世界の人たちに向けたメッセージ動画を発信しました。

ニュージーランドで知った「エシカル」  自分の街見つめる契機に

グレイタウンからほど近い有名なワインの産地マーティンボロ。家族経営の小さなワイナリーが多く、ワイナリーツアーを楽しめるほか、年に1度ワインと地元の名物料理、音楽を楽しめるお祭りが開かれます

明るいニュースも聞こえてきて、世界が前を向き始めたと感じられる中、ニュージーランド流のエシカルな考え方を、あなたの毎日にもちょっと採り入れてみませんか。

【取材協力】
ニュージーランド政府観光局
https://www.newzealand.com/jp/

ニュージーランド航空
https://www.airnewzealand.jp

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 江藤詩文

    トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」シリーズ3巻。

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