永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(67) 廃虚に壮大なゴミの山 永瀬正敏が撮った台湾

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、台湾で撮った廃虚とごみの山。永瀬さんが現地で出会ったある人とのコラボともいえる作品ですが、それは……。

(67) 廃虚に壮大なゴミの山 永瀬正敏が撮った台湾

©Masatoshi Nagase

映画の撮影でトータル5カ月間滞在した台湾。
いつも僕の移動車を運転してくれていた張さんとは、
長い移動時間を何度も共にすることで、ある一体感を持っていた。
いや、張さんがこちらの思いをくみ取ってくれていたのだ。

各都市から3時間、4時間と様々な場所へ移動がある時には、
必ず移動中カメラをひざに抱え、
気になるシチュエーションに出会った時は、車を止めてもらい撮影した。

他の国や国内でも同じように撮影する機会があるのだが、
シチュエーションに出会ってすぐドライバーさんに声をかけても、
動いている車を安全に止めてもらうには必然的にタイムラグが生じる。
車から降り、200~300メートル撮影ポイントまで戻るのが常だ。

でもなぜか張さんは、僕が「うん?」と思った瞬間に徐行を開始し、
すぐに車を止めてくれるという技を身につけてくれた。以心伝心とでもいうか。
なぜ僕の気持ちがわかるのか? 不思議だった。
そのうち張さんは自分の空き時間を見つけて、
僕が撮影したいであろう場所のロケハンや撮影交渉をしてくれるようになった。
金銭的にも何もメリットはないのに。

この場所も張さんが見つけてきてくれたのだと思う。
廃虚になった建物の前と中に大量のゴミがうずたかく積まれていた。
撮影をしているとどこからともなく市の職員の方が現れた。
たまたまこのあたりの実地調査で巡回していたのだという。
彼らの姿を見つけると、張さんはすぐに駆け寄り、
ここで撮影していることについて説明をしてくれた。
「何とかしたいのですがねぇ……。今はどうにもできなくて」
職員の方は苦笑いを浮かべながら、気をつけて撮影してくださいね、と言い残しその場を去っていった。
これも張さんが僕がなぜ撮影したいのか、ちゃんと理解してくれていて、
その思いを伝えてくれたおかげだろう。

この壮大なゴミの山を撮影し終えて、再び移動しようとしていたその時、僕に思わぬ出会いが待ち構えていた。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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