にっぽんの逸品を訪ねて

もう一度味わいたいグルメの逸品たち “風土が生んだ伝統のスイーツ編”

現代はさまざまなスイーツがあふれていますね。コンビニで手軽に買えるお菓子から極上デザートまで、多種多彩。新しいものも次々に登場します。けれど全国には、素朴な味わいながら長く愛され続けてきたご当地スイーツも数多くあります。土地の風土が生み、育てた銘菓は、「その土地に身を置いて味わいたい」と思わせるものばかり。今回は、過去の連載の中からそんな伝統のスイーツ3種をご紹介します。

連載「にっぽんの逸品を訪ねて」は、ライター・中元千恵子さんが日本各地の逸品を訪ね、それを育んだ町の歴史や風土を紹介します。

“水の都”で生まれた「かんざらし」。ふんわりやわらかい白玉の秘密はわき水

一つ目は、長崎県島原市の名物「かんざらし」です。白玉粉で作った小さな団子をゆでて冷やし、蜂蜜や砂糖などで作ったシロップをかけたもの。ひんやりとして、白玉はつるんとのど越しが良く、夏にぴったりの甘味です。

かんざらし

ひんやり冷たい「かんざらし」。「しまばら湧水(ゆうすい)館」にて

「かんざらし」作りで重要な役割を果たすのが、わき水です。島原市は“水の都”とよばれるほどわき水が豊富。1日約20万トンの地下水が市内約60カ所からわき、住民の生活にも使われています。

「かんざらし」の元祖といわれる「銀水(ぎんすい)」も、住民が活用するわき水「浜の川湧水(ゆうすい)」の脇に立っています。

「銀水」

「銀水」

「銀水」の創業は1915(大正4)年。やさしい味わいの「かんざらし」と歴代の店主の人柄もあって、いつしか全国から観光客が訪れる人気店になっていましたが、1998(平成10年)に閉店。約20年の時を経て、2016年から市の観光施設として再開し、昔ながらの「かんざらし」の味を伝えています。

わき水の水槽

白玉はわき水で冷やします

カウンター前の大きな水槽は、あふれんばかりの澄んだわき水をたたえていました。蛇口から出るのもわき水です。

わき水は、一年を通じて水温が15度前後なので、白玉を練るのはもちろん、冷やすのにも使うそうです。冷蔵庫で冷やすと固くなる白玉が、なぜかわき水で冷やすとやわらかさが保てるのだとか。かんざらしはわき水あってこその名物なのですね。

「かんざらし」は、現在は市内の約20軒で食べられますが、レシピは各店の秘伝で、それぞれ少しずつ白玉の歯ごたえやシロップの味が異なるそうです。「銀水」のかんざらしは白玉がふんわりとやわらかく、シロップはまろやかな甘さでした。

店内

店内ではのんびりと時間が過ぎていきました

島原市には、わき水の豊富さを実感できる名所が多くあり、代表的なのが湧水庭園「四明荘(しめいそう)」です。建物の周囲には、三つの池から1日約3千トンのわき水が流れ出ていて、まるで水に浮いているかのようです。

湧水庭園「四明荘」

湧水庭園「四明荘」

建物は、明治時代後期に医師の別邸として建築され、カエデやアカマツを配したみごとな庭園は昭和初期に禅僧を招いて造られたといいます。水と緑に囲まれた邸内は静かで、竜宮城のような別世界に来た趣を感じます。

コイ

透明な池にコイも泳いでいます

四明荘の近くには、無料休憩所「しまばら湧水館」があり、「かんざらし」の手作り体験ができます(予約制)。こちらのかんざらしは、白玉がほどよい歯ごたえで、すっきりとした甘さでした。

「しまばら湧水館」

「しまばら湧水館」

手作り体験

かんざらしの手づくり体験。自分で作ると格別の味です

「しまばら湧水館」は、築100年以上の民家を公開した風雅な建物。水が流れる音を聞きながらかんざらしを味わっていると、のんびりとした気持ちになります。

余談ですが、そしてあくまで個人的な好みなのですが、旅行ライターになって約30年、全国の市町村を旅してきたなかで「いい町だったなあ」としみじみと思い出す一つが島原市です。澄んだ水と生き生きとした緑、穏やかで心やさしい町の人たち……。「しまばら湧水館」で一緒になった大阪からの男性旅行者も「九州をひと回りするつもりでしたが、島原が気に入ったので、残りの日程はすべて島原で過ごします」と話していたので、あながち私だけの意見でもないようです。おすすめの町の一つです。

■紹介記事はこちら
“水の都”でわき水の美観と隠れキリシタンの哀史に触れる/長崎県島原市・前編
地元で愛される“かんざらし”と“五三焼カステラ”/長崎県島原市・南島原市(後編)

朝ドラのロケ地にもなった山あいの城下町で受け継がれる伝統の「カステーラ」

二つ目は、岐阜県恵那市岩村町の城下町の名物である「カステーラ」です。

カステラといえば長崎が有名ですが、岩村でも、江戸時代から伝統的な製法の「カステーラ」が受け継がれてきました。江戸時代に長崎で蘭学(らんがく)を学んでいた岩村藩の医者・神谷雲澤が、長崎滞在中にカステラの製法を学び、町民に伝授したのがはじまりです。今も3軒の店が、銅器に入れて1本1本手焼きで作る製法を守っています。カステラの原型が伝承されているのは全国でもめずらしいそうです。

「カステーラ」

岩村には昔ながらの「カステーラ」が伝わっています

岩村にはみごとな歴史的町並みが残っています。本通り沿いの約1.3キロにわたって、格子戸や塗屋造りの商家が続き、城下町の面影を今に伝えています。岩村は、織田信長の叔母であるおつやの方が岩村城主として城下を治めた歴史があることから、「女城主の里」とも呼ばれています。2018年にはNHK朝の連続テレビ小説「半分、青い。」のロケ地として脚光を浴びました。

岩村の城下町

岩村の城下町。暮らしが息づき、温かな風情があります

本通りに面した一角に、白いのれんが目を引く「かめや菓子舗」があります。岩村名物の「カステーラ」を製造販売する3軒のうちの1軒です。この店では「かすていら」と表記しています。

「かめや菓子舗」

「かめや菓子舗」

店内ではガラス越しに製造のようすを見学できます。「かすていら」の材料には、岐阜県産と長野県産の小麦、地元の平飼い有精卵、伝統製法で作られた「和三盆」や「三温糖」を使用。これを石臼や銅製のボウルを使って丁寧に攪拌(かくはん)し、銅型の小釜に入れて1本ずつ手焼きをしています。

銅型

店頭で銅型も見られました

カフェ

古民家をリノベーションしたカフェでほっとくつろげます

店舗奥の「カステラCafeカメヤ」では、かすていらを味わうこともできます。メニューは、違った風味が楽しめる「かすていら3種食べ比べ」(200円)や、特製アイスクリームとセットになった「アイス焼きかすていらセット」(430円)など。通常のカステラより生地がしっかりして食べごたえがあります。甘さ控えめで卵の風味がして、どこか懐かしい味です。

かすていら

懐かしい味わいのかすていらでひと休み

■紹介記事はこちら
もう一つの“女城主の里”と“栗きんとん”を食べ比べ 岐阜県恵那市・前編

殿様にも献上され、約430年間愛され続ける徳島市の名物「滝の焼餅」

徳島市の「滝の焼餅」も長く愛されてきた名物です。

「滝の焼餅」

「滝の焼餅」

徳島市の市街に優美な姿でそびえる眉山(びざん)は、徳島市のシンボル的存在。その北側の大滝山も、藩政時代から住民の憩いの場として親しまれてきました。山麓(さんろく)には旧徳島城下町全体の総氏神である春日神社をはじめ、神社仏閣が集まり、サクラの名所でもありました。昭和初期のころまで、「滝へ」「滝の山へ」といえば、市民にはそれが大滝山であると通じたそうです。

その大滝山のふもとに「和田の屋 本店」が立っています。

「和田の屋 本店」

「和田の屋 本店」。風格ある建物です

店頭で焼かれているのが「滝の焼餅」です。その歴史は古く、1585(天正13)年に徳島藩祖となった蜂須賀家政が阿波へ入り、徳島城を築いた祝いに献上されたのが始まりです。眉山湧水群の一つであり、藩主愛用の「錦竜水(きんりょうすい)」の使用を許可され、藩主の御用菓子となりました。今も「錦竜水」であんを炊き、石臼でひいた米粉ともち米粉の皮で包んで、一つずつ手焼きしています。

焼く光景

店頭で焼く光景も見られます

1階には滝が見えるカフェがあり、2階はお座敷になっています。2階の窓からも滝や寺町かいわいが見晴らせます。2階の座敷は昔からお見合いに使用されてきたそうです。外の道を見ながらお相手を待っていたのでしょうか。

寺町

2階から望む寺町も風情があります

「滝の焼餅」はプレーンと抹茶とゴマの3種類の味があります。皮はぱりっと香ばしく、あんは上品な甘さです。お茶は徳島名産の乳酸発酵茶「阿波晩茶」。成長した茶葉を摘んで発酵させて作るので、カフェインの含有量が少なく、ほんのり甘いまろやかなお茶です。阿波の名物を堪能しました。

■紹介記事はこちら
徳島で御朱印が人気の天神社、絶対食べたい名物グルメを巡る

【問い合わせ】最新の状況は各所にお問い合わせください。
・島原観光ビューロー
http://shimabaraonsen.com/
・銀水
http://www.city.shimabara.lg.jp/page3470.html
・湧水庭園「四明荘」
http://www.city.shimabara.lg.jp/page943.html
・しまばら湧水館
https://www.shimabaraonsen.com/yuusuikan/
・かめや菓子舗
https://www.iwamura-kameya.com/
・和田の屋
https://wadanoya.com/

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PROFILE

中元千恵子

旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの温泉宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。
全国各地のアンテナショップを紹介するサイト 風土47でも連載中

もう一度味わいたいグルメの逸品たち “厳選レストラン3軒”

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