美しきインドの日常

<5>インドの「渋イケメン」たちが搾る、ラクダのミルク

インドに魅せられ、バイクで8周してきた写真家の三井昌志さんが、文と写真でつづる連載コラム「美しきインドの日常」。隔週木曜更新です。

放牧を生業(なりわい)とする民、ラバリ族

インドは「渋イケメン」の国だと思う。日本でもてはやされている清潔感のある美男子とは違って、外見に無頓着でありながら際立った存在感を放つ、目力のとても強い男たち。それが僕が勝手に定義する「渋イケメン」なのだが、インドという国を旅していると、そういう男に出会うことが多い。

インド北西部ラジャスタン州に住むラバリ族は、特に「渋イケメン率」が高い民族だ。放牧を生業とする民、ラバリ族の男たちは、赤か白のターバンを頭に巻き、真っ白い服を着て、家畜を追うための長い杖を持っている。遠くからでも一目でそれとわかるユニークなスタイルを持つ民族なのだ。

<5>インドの「渋イケメン」たちが搾る、ラクダのミルク

赤いターバンに白い服を着て、山羊を放牧に行くラバリ族の男(撮影:三井昌志)

ラバリ族は羊や牛などの家畜を飼育して生計を立てているのだが、その中でもっとも重要なのは山羊(やぎ)である。山羊はどんなに硬い草でもバリバリと食べてしまうので、食料の乏しい乾燥地域が大半を占めるラジャスタン州に適しているのだ。

ラバリ族の人々にとって山羊のミルクは大切なタンパク源であり、山羊の毛は貴重な現金収入源になっている。毛織物の原料になる山羊の毛は、4カ月に1度大きなハサミを使って刈り取って、市場に売りに行く。1キロあたり100ルピー(150円)ほどで売れるのだそうだ。山羊の毛で織った毛布は暖かく、朝晩の冷え込みが厳しいラジャスタンの冬を乗り切るのに欠かせない防寒着になる。

<5>インドの「渋イケメン」たちが搾る、ラクダのミルク

柄の長さが3mもある鎌は、山羊のエサとなる高い木の枝や葉を切るためのもの(撮影:三井昌志)

ラクダもラバリ族が昔から飼育してきた家畜だ。

「ラクダのミルクは栄養価が高くて、健康にいいんだよ」と教えてくれたのは、ラクダのミルクを商っているデバリさんだった。

「特に中東で人気が高いんだ。私がこの村で買い取ったミルクは、ムンバイにある輸出業者からUAE(アラブ首長国連邦)のドバイに運ばれる。アラブのお金持ちはキャメルミルクが一番健康にいい飲み物だと信じているんだよ」

デバリさんは近くの村を回って搾りたてのラクダのミルクを集め、その日のうちに自宅の冷凍庫で凍らせて輸出業者に渡す。

「あんたラクダのミルクを飲むのは初めてかい? だったらぜひ飲んで行きなさい」

デバリさんが搾りたてのミルクをごちそうしてくれた。ラクダのミルクを飲むのはこれが初めてだったが、意外なほど飲みやすくて味もよかった。独特な風味やクセがなく、乳脂肪分も少なめなので、むしろ牛乳より飲みやすいぐらいだった。

「キャメルミルクは良い商売だよ」とデバリさんは言う。「1頭のラクダからは毎日6リットルのミルクが搾れるし、牛乳の何倍もの高値が付くからね。牛や山羊よりもラクダを飼う方が良いと思うね」

<5>インドの「渋イケメン」たちが搾る、ラクダのミルク

ラバリ族の若者がラクダの皮膚に薬を塗る。ラクダにとって皮膚病は命に関わる場合もあるので、丁寧なケアが欠かせない(撮影:三井昌志)

しかし実際には、ラジャスタン州で飼育されているラクダは、年々その数を減らしているという。以前は荷物を運ぶ使役用として多くのラクダが飼われていたのだが、トラックやトラクターが普及したことによって、その需要が激減したのだ。1950年代にはラジャスタン州だけでも約100万頭のラクダがいたのだが、2010年代には約20万頭にまで減ってしまった。

ラジャスタンの砂漠には、茶色いラクダの姿がよく似合う。おいしくてヘルシーなキャメルミルクが世界的なブームになれば、再びラクダの数が増える日がやってくるのかもしれない。

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>>「会社を辞めて10カ月旅に出てみたら、人生が変わった」——三井昌志さんインタビュー

PROFILE

三井昌志

1974年生まれ。京都府出身。神戸大学工学部卒業後、機械メーカーに就職。エンジニアとして2年働き、退職。2000年12月から10カ月にわたってユーラシア大陸を一周したことをきっかけに、写真家としての道を歩むことに。「日経ナショナル ジオグラフィック写真賞2018年グランプリ」を受賞。おもな著作に『アジアの瞳』(スリーエーネットワーク)、『子供たちの笑顔』(グラフィック社)、『スマイルプラネット』(パロル舎)、『写真を撮るって、誰かに小さく恋することだと思う。』『渋イケメンの国』『渋イケメンの旅』(雷鳥社)などがある。公式サイト「たびそら」:https://tabisora.com/

<4>あごひげにターバン、失われゆくインドの伝統

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たくましく生き残る、インド・コルカタの人力車<6>

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