永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(68) ひょっこり現れた小さな命 永瀬正敏が撮った台湾

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、台湾での思わぬ出会い。前回紹介した廃虚とごみの山で、予期せぬことが待ち受けていたのです。

(68) ひょっこり現れた小さな命 永瀬正敏が撮った台湾

©Masatoshi Nagase

前回紹介した、台湾のある田舎街で大量に積まれたゴミの山を撮影し終わった時、
思わぬ出会いがあった。
そのゴミの山からひょっこり姿を現してくれたのだ、この猫が。
よく見ていただくと、写真の中央部あたりに、
その場に同化しているような小さな猫の姿が写っている。

彼(ないしは彼女)は撮影が終わるタイミングを見計らったように姿を現し、
ジッとこちらを見つめた。
その場にずっといたのか? こっそり忍者のように近づいてきて姿を現してくれたのか?
彼の存在に僕は全く気がつかなかった。
無類の猫好き(小さい時は犬を飼っていたので、犬好きでもあるのだが)としては、
レンズを向けないわけにはいかない。
撮影を再開し終了するまで、彼はじっと同じポーズを取り続けてくれた。
まるで「いい写真撮れよ」と言わんばかりに。

一通り撮影しカメラをおろすと、彼は悠々と勝手知ったるその場所を後にした。
その凜(りん)とした去り姿は、小さいながらとても力強いオーラを発していた。
残念ながら僕は、彼を日本に連れて帰るわけにはいかなかったし(彼はそんなことを望んでいなかったかもしれないが)、
後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にした。

台湾で出会った1匹の猫。
あたり一面のゴミの山、その中に現れた小さな命。
そのギャップに生命力のたくましさを感じた。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

(67) 廃虚に壮大なゴミの山 永瀬正敏が撮った台湾

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(69) 俳優・葉星辰の目力受け止めた 永瀬正敏が撮った台湾

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