京都ゆるり休日さんぽ

蕎麦で旅する、季節を味わう「蕎麦と料理 五(いつつ)」

夏本番。つるりといただく冷たい蕎麦(そば)がおいしい季節です。今回訪ねたのは、大徳寺の門前にたたずむ「蕎麦と料理 五(いつつ)」。大徳寺塔頭の真珠庵からくみ上げた井戸水で作る手打ち蕎麦と、料亭仕込みの一品料理が自慢の一軒です。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

香りや風味、産地の違いをじっくり味わう

つくばい

大徳寺門前の東。表のつくばいが目を涼ませる

「蕎麦屋って、昼間から飲んでもおおらかに受け入れてもらえる場所だと思うんです。季節の料理をさかなにお酒を楽しんで、蕎麦で締めて……。そんなふうに立ち寄ってもらいたいですね」

蕎麦湯

締めの蕎麦湯は、蕎麦を湯がく湯とは別に、濃厚に仕立てたもの。仲原さんに入れてもらうことも

そう語るのは、大将の仲原紀幸さん。東京の蕎麦屋を経て、高台寺和久傳で料理人として10年ほど経験を積んだ後、同じく和久傳が手がける「蕎麦と料理 五」を任されています。関東の蕎麦文化の粋と、繊細で季節に寄り添う京料理、その両方を知る仲原さんならではのもてなしが「五」の魅力。料亭ほど肩ひじ張らず、街の蕎麦屋よりはちょっと特別な気分で、丁寧に作られた蕎麦と料理を味わうことができます。

手打ち蕎麦

「手打ち蕎麦(冷)」(1千円・税別)。塩、わさび、蕎麦つゆと味の変化を楽しんで

自慢の蕎麦は、日本各地から厳選した蕎麦を石臼でひき、つなぎを4%しか入れずに職人が手打ちしたもの。蕎麦の味を決める水は、大徳寺塔頭・真珠庵の井戸水を使っています。北は北海道から東北や北陸、九州まで、日本各地で伝えられる在来種の蕎麦を10種類以上扱い、その時々で産地ごとに違った味わいを楽しむことができます。

店内

ケヤキのカウンターや褐色のタイル張りが美しい空間。花や短冊のしつらえも味わいたい

蕎麦の風味をシンプルに感じてもらうため、まずは能登の天日塩で食すのがお約束。続いて、和久傳仕込みのだしが香り立つ蕎麦つゆで味わい、食べ終わったら、このためだけに別仕立てで作るという濃厚な蕎麦湯でつゆを割って、余すことなく蕎麦の風味を楽しみます。

季節ごと、料理人ごとに表情を変える京の味

季節の野菜天

「季節の野菜天」(900円・税別)。衣はからりと軽く、野菜の香りや食感が生きる

蕎麦と同じくらい楽しみなのが、季節の恵みをいただく天ぷら。野菜は仲原さん自ら鷹ケ峰や上賀茂の農家に出向き、朝収穫されたばかりのものを持ち帰って調理しています。

「盛夏になると皮が厚くなってしまうので、賀茂ナスはそろそろ終了です。賀茂ナスのあとは、万願寺とうがらしやとうもろこしなど。魚介はアユや白子が登場します。その時期に一番いい食材を使うので、一皿で季節を感じてもらえると思います」

鯖寿司

「鯖寿司(さばずし)」(950円・税別)はごはんは控えめに、肉厚のサバを存分に味わう。歯切れのよい昆布も上品にサバのうまみを引き立てる

京都の食文化を物語る一品、鯖寿司も蕎麦と合わせて注文する人が多い料理。「五」ではおつまみやおかずとして満足してもらえるよう、ごはんは少なめに、どっしりと肉厚な焼津産のサバをのせて作られます。海から遠く、鮮魚が手に入りにくかった京都の土地柄、育まれた鯖寿司は、料理屋ごとの個性が際立つと仲原さん。ひと口頰張れば、穏やかな酸味と上品なうまみが心地よい余韻を残します。

七宝

ランチの「五セット」やコースの最後に付くお菓子「七宝」。くるみ、松の実、大徳寺納豆など7種の穀物や豆をぎゅっと凝縮。ここだけのオリジナルで、手土産として持ち帰りも可能

手土産

1階では、和久傳の手土産を販売。人気のお菓子「西湖(せいこ)」やごはんのおともも

香りも、風味も、食感も、その土地の気候や風土を映し出すように、産地によって味わいを変える蕎麦。そこに、京都の自然と食文化、料理人の感性が融合して生まれる和食が加わります。その出会いは、訪れた季節だけの一期一会。千利休ゆかりの名刹(めいさつ)、大徳寺のおひざ元で、日本を旅するような蕎麦と料理を味わってみてください。明るいうちからお酒を片手に、というのもいいものです。

外観

モダンながらも趣のある空間は、数寄屋建築の名手・中村外二氏が手がけた

蕎麦と料理 五(いつつ)
https://www.wakuden.jp/ryotei/itsutsu/

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BOOK

蕎麦で旅する、季節を味わう「蕎麦と料理 五(いつつ)」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

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