旅空子の日本列島「味」な旅

海と山と湯に恵まれた伊豆有数の温泉町 静岡県・伊東温泉

コロナ禍で自粛ムードの中、やむなき所用で特急「踊り子号」で伊東に行ってきた。いつもの夏なら海を前にする伊東温泉は海水浴客でも大にぎわいだが、今年は飲食店、土産物店がどこも人影がまばら。

用事を済ませてゆっくり街を歩いてみた。最初に立ち寄ったのは、建築技術を駆使して1928(昭和3)年に建てられた名旅館の東海館。今は観光のシンボルとして保存、公開。銘木を使った趣の異なる客室や廊下、大広間、浴室に目を見張った。

東海館

望楼のある木造3階建ての町のシンボル東海館

対岸の川べりは桜や花木が植えられ、竹あかりが並ぶ散策路の松川遊歩道。上流へ歩けば、領主・伊東祐親の娘・八重姫と源頼朝がひそかに逢瀬(おうせ)を重ねたという古社の音無神社が近かった。縁結びと安産の神様として信仰が厚いという。

松川遊歩道

桜並木と竹あかりに誘われる松川遊歩道

音無神社

伊東の長い歴史を秘めた古社の音無神社

街中をぶらつくと、和田寿老人の湯や松原大黒天神の湯など観光客も入れる“七福神の湯“が点在。

駅前いちょう通りに出て、普段の昼時は行列人気の海鮮料理の味の店・五味屋で6種盛り刺し身定食で腹ごしらえ。「こんな時に来てくださったからおまけよ」と笑顔。

刺し身定食

新鮮美味な五味屋の刺し身定食

美味に満ち足りてなまこ壁・白壁土蔵造りの杢太郎記念館に立ち寄る。伊東に生まれた木下杢太郎は本名・太田正雄。優れた医学者ながら白秋や啄木、漱石らとも交友した明治・大正の文学者である。

木下杢太郎の記念館

郷土の誇りの文人・木下杢太郎の記念館

彼の画集をモチーフにした石舟庵の銘菓「百花譜」を土産に買った。バター風味の洋風の白あん入りの焼き菓子である。

百花譜

バター風味になごむ伊東銘菓「百花譜」

東海館から川沿いを海に向かうと、河口近くの渚(なぎさ)橋のたもとに三浦按針の胸像と帆船サン・ブエナ・ヴェンツーラ号のモニュメントが目についた。

解説によると按針ことウィリアム・アダムスは、大分に漂着した英国人。徳川家康の外交顧問として活躍。彼が日本初の洋式帆船を建造したのがこの地と記してある。

胸像とモニュメント

三浦按針胸像と日本初の洋式帆船のモニュメント

400年余前の歴史に思いを寄せて、対岸の彫像と芝生のなぎさ公園で潮風に吹かれながらひととき過ごす。北側のオレンジビーチでは幼児連れの家族が3組ほど。

目の前の駿河湾には初島が浮かぶ。青い海を隔てて三浦半島や房総半島も見える。

海も山も広く高く青いのに、今年の夏ばかりは空気はどんより。しみじみと過ごすにはいい時なのかもしれない。

〈交通〉
・JR伊東線伊東駅下車
〈問い合わせ〉
・伊東市観光課 0557-36-0111
・伊東観光協会 0557-37-6105

※都道府県アンテナショップサイト「風土47」より転載。

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PROFILE

中尾隆之

中尾隆之(なかお・たかゆき)ライター
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。「風土47」でコラムを連載中。

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