永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(70) 地上に生まれた奇跡の瞬間 永瀬正敏が撮った台湾

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、台湾の台中市郊外で見かけた、奇跡のような風景。撮りながら永瀬さんは、特別な感覚に包まれていました。

(70) 地上に生まれた奇跡の瞬間 永瀬正敏が撮った台湾

©Masatoshi Nagase

天と地が交わった世界が目の前に広がっていた。

台湾・台中市の郊外。
あてもなく歩いていると、小さな池があった。
何も特別なところはないその小さな池の中では
光と雲が水面に映りこみ、蓮(はす)の花が太陽の光に包まれていた。
その光景がとても美しく、思わずレンズを向けた。

自然が織りなす幻想的な世界は決して人の手で創(つく)り出すことができない。
だからこそ貴重で、心に深く記憶される。
そしてその奇跡は、一瞬で姿を変える。
その“一瞬”をフィルムに収めようと無心でシャッターを切った。

心地よい風が体を包み、時間の感覚を失っていた。
撮影を終えてからもしばらくその場に留まった。
そういう時間がとても愛(いと)おしくも思えた。

奇跡の瞬間はそう多くは訪れない。
たとえ手元にカメラが無くとも、心の中にできるだけ多くの奇跡を刻みつけていきたい。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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