海の見える駅 徒歩0分の絶景

真っ白な「プライベートビーチ」がある駅 鹿児島県・薩摩高城駅

透き通った海と、大きな岩を間近に望む白い砂浜。実はここ、薩摩高城(さつまたき)駅からしかたどり着けない、いわば「駅のプライベートビーチ」だ。日本でも珍しい、砂浜のある駅を訪れた。

■連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

駅を出ないでそのままビーチへ

2017年4月。例にもれず、小さな無人駅でひとり、列車を降り立った。ここは鹿児島県薩摩川内市にある、肥薩おれんじ鉄道の薩摩高城駅。跨線橋(こせんきょう)からは、ゆるやかにカーブしたホームと、新緑の森、青い東シナ海が見えた。遠くから届く潮風が心地よい。たいていの海の見える駅であれば、この景色を楽しんでおしまいだが、薩摩高城駅のお楽しみはむしろここから始まる。駅のホームからそのまま眼下の森を抜け、波打ち際まで歩いていけるのだ。

真っ白な「プライベートビーチ」がある駅 鹿児島県・薩摩高城駅

薩摩高城駅の跨線橋から見た東シナ海。300mほど離れているが、駅の中を通って海岸まで出られる

さっそく海側のホームにある遊歩道から、ビーチへ向かうことにした。改札や門扉があるわけでもなく、遊歩道は脇道のようにただ伸びている。きれいに整えられた、真っ白な砂利の一本道。道端にはところどころ花も植えられていて、「こちらへおいで」と言わんばかりだ。

真っ白な「プライベートビーチ」がある駅 鹿児島県・薩摩高城駅

いざなわれるがままに道を進むと、まもなく背の低い木々に四方を囲まれた。振り返っても、もう駅は見えない。ちょっとした不安とワクワクを抱きながら、くねくねと砂利道を歩くこと3分。最後に木製の階段をゆっくり上ると、一気に視界が開けた。海だ。

真っ白な「プライベートビーチ」がある駅 鹿児島県・薩摩高城駅

先客の方がランチタイムを楽しんでいた。これ以降、誰ともすれ違うことはなかった

さっき跨線橋から見た遠くの海が、いきなり目の前に現れた。しかも足元はいつの間にか砂利から白い砂に変わり、その砂はひたすらに眼下の浜へと続いている。先の見えない道を歩いた果ての、最上の開放感。大げさかもしれないが、小さな冒険を終えたような気分になった。

真っ白な「プライベートビーチ」がある駅 鹿児島県・薩摩高城駅

ホームのほうを振り返る。写真中央上、遠くに跨線橋が見えた

駅からの遊歩道以外にアプローチがないことから、ここは「薩摩高城駅のプライベートビーチ」と言っても過言ではない。浜に人の気配はほとんどなく、波も穏やか。国道を通る車の音だけが遠くで聞こえる。海水浴場ではないため、小屋などの目立った施設もない。

しかし、浜にはハート型の敷石やメッセージボードなど、手作り感あふれるモニュメントが並んでおり、思わずほっこりする。またメッセージボードのそばには、地元に残る菅原道真伝説にちなんだ「放ちの鐘」も立つ。これらは地元、湯田地区の住民によって設置されたようだ。

真っ白な「プライベートビーチ」がある駅 鹿児島県・薩摩高城駅

「SATSUMATAKI St」という立て札を見て、ここが駅であることを思いだす。手前の立て札と、「ハートロック」と書かれたメッセージボード、それぞれのハートの穴が重なるようにのぞくと、奥にあるハート型をした岩のくぼみ(写真右)が見える仕組みのよう


真っ白な「プライベートビーチ」がある駅 鹿児島県・薩摩高城駅

地元の菅原道真伝説にちなんだ「放ちの鐘」。さらに北には、起伏に富んだ地形の西方海岸が続き、「人形岩」といった奇岩も並ぶ

砂浜までのプロムナードも社員の手作り

手作りされたのは、実はビーチのモニュメントだけではない。駅からビーチへと続く遊歩道や森そのものが、肥薩おれんじ鉄道の社員の手によって整備されたものだ。そのひとつひとつの工程が、海側のホームに「薩摩高城駅 開発ものがたり」と題して掲げられている。

真っ白な「プライベートビーチ」がある駅 鹿児島県・薩摩高城駅

60枚以上の写真が並ぶ「薩摩高城駅 開発ものがたり」。ビーチを訪れてから見ると、胸がいっぱいになる

最初の写真は2013年1月。当初は見るからに足を踏み入れがたい雑木林だった。しかし、暑さ寒さの中、地道な「開発」を重ねるごとに、木々は剪定(せんてい)され、雑草は取り除かれ、手作りのベンチが設けられ、海まで歩ける遊歩道が整備された。最後の写真は2015年1月。およそ2年の歳月をかけた大開発ということになる。

薩摩高城駅の乗降客数は、1日あたりわずか5人(2017年)。それにもかかわらず、2014年には観光列車「おれんじ食堂」が停車するようになり、2016年には豪華寝台列車「ななつ星in九州」の停車も実現。通り過ぎるだけの無人駅から、旅の一目的地へと変わった。

いま私が目にしてきた、薩摩高城駅の非日常的で心温まる景色。それは、地域住民、鉄道会社の社員、それぞれの想いと地道な活動があったからこそ、出会えたものだった。

九州新幹線川内(せんだい)駅から肥薩おれんじ鉄道で約16分。

肥薩おれんじ鉄道
https://www.hs-orange.com/

BOOK

真っ白な「プライベートビーチ」がある駅 鹿児島県・薩摩高城駅
海の見える駅
海の見える駅を巡る村松拓さんの旅をまとめたガイドブックです。これまでに訪問した約300駅の中から70カ所を選び、駅の写真、簡単な説明とともに紹介しています。
雷鳥社 
定価:1500円(税別)

PROFILE

村松拓

アマチュア写真家
1991年1月生まれ。川崎市出身。
2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れられず、2005年に末続駅(福島県いわき市)を訪問。それから海の見える駅の旅を始め、これまでに約300駅を取材。2006年にWebサイト「海の見える駅」を開設。現在は東京・新橋で会社員として働く傍ら、余暇で旅を続ける。著書に『海の見える駅』(雷鳥社・2017年)。

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