宇賀なつみ わたしには旅をさせよ

マルタの海で刻み込まれた思い出 宇賀なつみがつづる旅(12)

フリーアナウンサーの宇賀なつみさんは、じつは旅が大好き。見知らぬ街に身を置いて、移ろう心をありのままにつづる連載「わたしには旅をさせよ」をお届けします。2015年のマルタで、夢のような時間を過ごしていた宇賀さんが、思いがけず学んだこととは。

(文・写真:宇賀なつみ)

「旅の教訓 マルタ」

次の休みはどこに行こうか……。
そんなことを考えている時間が、一番楽しいかもしれない。

そういえばあの日も、
そんな気持ちでネットサーフィンをしていて、
たまたま見つけた写真があまりに美しくて、
忘れられなくなってしまったんだっけ。

「マルタって、どこ?」

聞きなじみのない名前だったので、急いで調べてみた。
マルタ共和国は、地中海に浮かぶ島国。
イタリアの南に位置するが、マルタ語と英語が話されていて、
ヨーロッパにしては物価も安いそうだ。

なんだか面白そう。
今度の夏休みは、マルタに行ってみよう。

こんな勢いで、旅の目的地は決まる。
2015年8月、私はマルタの海で泳いだ。

首都バレッタは、街全体が世界遺産に登録されている。
中世の趣が残っていて、
どこを切り取っても良い写真が撮れるのがうれしい。

カフェや土産物屋が並んでいるが、
どこも落ち着いた雰囲気で、静かな誇りを感じる。

もしも私がこの街に生まれて、
あのバルコニーから、毎朝顔をのぞかせる少女だったら……。
そんな意味のないことを考える時間が好きだ。

街なか

ヨーロッパの国々から、短期留学にくる学生も多いそうだ。
夜になると、若者たちがわかりやすく浮かれていた。
今考えてみれば、その頃の私もそこそこ若かったはずなのに、
街中にあふれる落ち着きのない笑い声を、懐かしく、切なく感じてしまった。

ホテルの近くに、2階にひとつだけテラス席がある、
海沿いのおしゃれなレストランがあった。
店内に入って、あそこに座りたいと言ったら、
その日の夜に予約することができた。

夜景

シーフードやパスタを楽しみながら、
夜の光に包まれていく港をぼんやり眺めていると、
どこからか、ブラスバンドの生演奏が聞こえてくる。

夢のような時間だった。
後ろめたくなるくらい、平和で、自由だった。

もちろん、海で泳いだり、船に乗って沖へ出たりもした。
あまりにきれいで気持ちが良くて、
日焼けも気にせず、長い時間、浮いたり潜ったりを繰り返した。

海

途中で、崖から海に飛び込んでいる人たちを見つけて、
私もそこに行こうと岩場に上がった瞬間、
思いっきり転んで、ひざを切ってしまった。

おそらく、とても痛かったはずだが、
恥ずかしさの方が勝ってしまったので、よく覚えていない。
急いでホテルに戻って傷口を洗い、ばんそうこうを貼っておいたが、
翌日も、その翌日も、痛みは引かなかった。

帰国後、病院で診てもらうと、
「あらら。これはもう縫えないですよ」と言われ、
そこからテープで傷口を固定し、
3週間ひざを曲げずに生活しなければならなくなった。

天国から地獄へ……とまでは言わないが、
この時期、ひざをかばいながら仕事をするのが大変で、
かなり落ち込んでいたことを覚えている。

旅にはアクシデントが付き物。
ちょっとした油断で、楽しくなくなってしまうから、
気をつけなくてはいけないが、
失敗を恐れていては、どこへも行けない。

傷痕はまだうっすらと残っているけど、
これは旅の教訓。

私は今でも、海があれば飛び込むし、崖があれば上るが、
あれ以来、足元にはかなり注意するようになったので、
よしとしている。

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PROFILE

宇賀なつみ

東京都出身。テレビ朝日「報道ステーション」の気象キャスターとしてデビュー。同番組スポーツキャスターとして、トップアスリートへのインタビューやスポーツ中継等を務めた後、「グッド!モーニング」「羽鳥慎一モーニングショー」など、情報・バラエティー番組を幅広く担当。2019年にフリーランスとなり、現在はテレビ朝日「池上彰のニュースそうだったのか!!」や、自身初の冠番組「川柳居酒屋なつみ」を担当。TBSラジオ「テンカイズ」やTOKYO FM「SUNDAYʼS POST」など、ラジオパーソナリティーにも挑戦している。2020年4月からは、MCを務める、関西テレビ・フジテレビ系「土曜はナニする!?」がスタートした。

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