海の見える駅 徒歩0分の絶景

ガラス張りの駅舎から望む、太平洋の朝焼け 茨城県・日立駅

朝5時、果てしなく広がる太平洋の水平線から、太陽が顔を出した。ここはJR常磐線の日立駅。「日立」の地名は、水戸黄門こと徳川光圀公が「日の立ち昇るところ領内一」と言ったことが由来ともいわれる。唯一無二のガラス張りの駅舎で、朝焼けに見ほれた。

■連載「海の見える駅 徒歩0分の絶景」は、アマチュア写真家の村松拓さんが、海のそばにある駅で撮った写真を紹介しながら、そこで出会ったこと、感じたことをつづります。

東京からでは始発でも間に合わない日の出

2014年9月のある日、時刻は午前5時前。私は茨城県日立市内のネットカフェを急いで飛び出した。日立駅で日の出を迎えるためだ。

東京駅から高速バスに乗ったのが前夜23時前。日立市内に降り立ったのが、午前1時過ぎ。それからうとうと仮眠を取ったのだが、気づけば日の出が20分後に迫っていた。

人影のない日立製作所の工場を脇目に、早足で緩やかな坂道をひとり下る。歩を進めるごとに、空はだんだん明るさを増す。歩くことおよそ15分。ようやく日立駅前の広場に着くと、広い空が秋の雲とともに、視界いっぱいのグラデーションを描いていた。

正面では、2011年4月に完成した新しい駅舎が、口を開けている。

ガラス張りの駅舎から望む、太平洋の朝焼け 茨城県・日立駅

日立駅の中央口。特急「ひたち」もとまる日立市の代表駅とはいえ、この時間帯はさすがにほとんど人影がない

さっそく中に入ると、そこはおよそ150m続くガラスの回廊。外に海が見えたと同時に、朝日が差し込んだ。午前5時19分。なんとか間に合った、日の出の瞬間。つるつるとしたコンクリートの床が太陽光を淡く反射し、回廊はまたたく間にオレンジ色の世界になった。

日立駅へは、特急「ひたち」を使えば上野駅からおよそ1時間半。しかし、始発の特急でも日の出には到底間に合わない。前夜から6時間かけて訪れ、ようやく出会えた朝焼けは、まさに格別だった。

ガラス張りの駅舎から望む、太平洋の朝焼け 茨城県・日立駅

太陽に導かれるまま、改札を通り過ぎ、突き当たりの広いスペースへと向かう。

いよいよ窓の外には海と空、そして海上を通る国道6号の日立バイパスしか見えない。床と連なるように、太平洋がどこまでも続く。内湾とは異なり、対岸も、島もない。ここまで潔い眺望は、かえって珍しい。

ガラス張りの駅舎から望む、太平洋の朝焼け 茨城県・日立駅

建物の中にいるのに、この大パノラマ


ガラス張りの駅舎から望む、太平洋の朝焼け 茨城県・日立駅

手前の道路が国道6号の日立バイパス。日立駅周辺の一部区間は海上を通る

ガラスと金属とコンクリートでできた、無機質でありながらも、外界とつながった幻想的な空間。こんなに美しい駅が、日本にあったなんて。四方をガラスが囲むあまりの開放感に、駅に対する既成概念を覆されたかのような、驚きと興奮を覚えずにはいられなかった。

地元の思いが実った「海を見せる駅」

この近未来的な建物は、日立市出身の建築家・妹島和世氏が手掛けたものだ。

ガラス張りの駅舎から望む、太平洋の朝焼け 茨城県・日立駅

日立駅海岸口から見た外観。駅舎はどこから見てもガラス張りだ

日立駅は海岸からおよそ150mの距離にあり、標高も30m近くの高い崖の上にありながら、かつては海を望むことはできなかった。駅舎内の掲示板によると、妹島氏も「せっかく、海が近くにあるのに見えないのはもったいないなあと思い続けていました」と振り返っている。2005年に駅周辺の整備構想が策定されたときも、基本方針のひとつに「海への眺望を活(い)かした魅力ある景観づくり」が盛り込まれていた。

海に近い立地と、それを眺望に活かしたいという人々の思い。これらが重なって、唯一無二の「海を見せる駅」を作り出したといえよう。

駅の中や外で写真を撮っているうちに、刻一刻と空の色は移り変わり、気づけば日の出から1時間以上が経っていた。まだ体が眠いのか、さっき見た美しい朝焼けが現実ではなく、夢だったようにすら思える。

ガラス張りの駅舎から望む、太平洋の朝焼け 茨城県・日立駅

改札口からも海が見えた。ガラス越しに見える、奥の突き出た部分は「シーバーズカフェ」。朝から夜まで営業しているが、この日は残念ながら、開店前に駅を出ることに

時刻は午前6時半。今日はまだまだこれから。次の駅を目指し、夢心地で日立駅を発った。

ガラス張りの駅舎から望む、太平洋の朝焼け 茨城県・日立駅

後日、昼間の日立駅から見た青い太平洋。朝焼けに劣らない美しさだった(2016年12月撮影)

東北新幹線上野駅から特急ひたちで約90分。

JR東日本
https://www.jreast-timetable.jp/timetable/list1315.html

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BOOK

ガラス張りの駅舎から望む、太平洋の朝焼け 茨城県・日立駅
海の見える駅
海の見える駅を巡る村松拓さんの旅をまとめたガイドブックです。これまでに訪問した約300駅の中から70カ所を選び、駅の写真、簡単な説明とともに紹介しています。
雷鳥社 
定価:1500円(税別)

PROFILE

村松拓

アマチュア写真家
1991年1月生まれ。川崎市出身。
2004年の夏休み、初めての一人旅で見た常磐線の車窓が忘れられず、2005年に末続駅(福島県いわき市)を訪問。それから海の見える駅の旅を始め、これまでに約300駅を取材。2006年にWebサイト「海の見える駅」を開設。現在は東京・新橋で会社員として働く傍ら、余暇で旅を続ける。著書に『海の見える駅』(雷鳥社・2017年)。

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