「川のワイン」を訪ねて

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

川はどのようにワインに恩恵をもたらすのか? その答えを求めてイタリア、スペイン、フランスのワイン産地を訪ねる旅。第4回は、スペインのリオハ・アラベサでワイナリーを訪ねる。
(文・写真:ワインジャーナリスト・浮田泰幸、トップ写真はなだらかな丘陵に広がるブドウ畑)

歴史ある建物でモダンな製法 ボデガス・カサ・プリミチア

「ボデガス・カサ・プリミチア」は、ラグアルディア郊外に拠点を持つ家族経営のワイナリー。案内してくれたのは創業者の孫で、マネジメントと輸出を担当するイケール・マドリード氏だ。「祖父のフリアンと祖母のテレサがラグアルディアの防壁を出て、外に居を構えると言ったとき、町の人たちは『彼らはオオカミに会いに行くのか』と言ったそうです。当時町の外には水道も電気も通っていませんでしたからね」

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

15世紀の貯蔵庫に立つイケール・マドリード氏


モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

ラグアルディアから一面のブドウ畑を見晴らす

我々はラグアルディアの町を遠望するなだらかな丘カラバルセカに立っていた。「ボデガス・カサ・プリミチア」の主要な自社畑と醸造施設はここにある。

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

「ボデガス・カサ・プリミチア」のゲート

辺りは一面のブドウ畑だ。リオハはスペインの中でも特にワイン産業に特化した土地であると聞いていたが、そのことを目の前の風景が如実に語っていた。「年中北風が吹くので、ブドウ畑がカビ系の病気に侵されるリスクが低く、ヘルシーなのです」とマドリード氏。このあたりで標高は600メートルを超えるという。畑に囲まれるようにして、大きめの池のような湿地があった。マドリード氏によると、付近には合計三つの湿地が点在、マイクロクリマ(微気候)に影響を与えているという。少し引いた地図を見ると、湿地群は周囲に幾筋か流れるエブロ川の支流の置き土産のような位置関係だった。

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

エブロ川の流れ

場所を移動し、町内の石造りの建物に招じ入れられた。町で最も古い11世紀の建物で、当時この建物で「十分の一税」が地域で最初に納められたことから「カサ・プリミチア(最初の家)」と呼ばれた。地下にはスペイン最古の商業ボデガ(醸造所)が残る。1976年にマドリード氏の祖父が創業した時、この歴史ある建物の名を借り、後に建物自体も(600年前のボデガごと)買い取ったのだそうだ。

歴史と深く結びついた生産者だが、ワインの造りはモダンスタイルを追求している。赤ワインの醸造にはこの地方では珍しかったカルボニック・マセレーション(炭酸ガス浸漬<しんし>。収穫したブドウを房ごと二酸化炭素を充填<じゅうてん>したタンクに入れて発酵させる方法で、ボジョレー・ヌーヴォーの製法として知られる。色素を良く抽出し、渋みを抑えたフルーティなワインを醸すことができる)を導入。リオハの主要品種テンプラニーリョの赤ワインに新たな魅力を与えた。

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

収穫期を過ぎて枝に残ったテンプラニーリョの果実

ピュアな甘みとボリューム感が共存する赤

創業者へのオマージュとして造られた「フリアン・マドリード・レセルバ2015」は、カラバルセカの畑で有機栽培された樹齢50年のテンプラニーリョの果実を主に使い、20カ月の樽(たる)熟成をかけてリリースするスペシャル・キュヴェ。生き生きとしたカシスの香りが立ち、ハーブのトーンとミネラル感が複雑味を与える。口の中ではピュアな甘みとボリューム感が共存。

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

右端が「ジュリアン・マドリード・レセルバ2015」


モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

テンプラニーリョ100%のロゼ(左)は白桃の香り。珍しいテンプラニーリョ・ブランコを主体とした白(右)はレモンピール、ドライフラワーの香りが立ち、野趣を感じる


モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

バスク地方特産のピメント・デル・ピキージョ(赤ピーマン)


モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

豪快に料理された羊のロースト

Bodegas Casa Primicia S.A.
Camino de la Hoya, 1 01300 Laguardia (Álava) SPAIN
https://www.bodegascasaprimicia.com/

 聖地巡礼の途中リオハにほれ込んで ボデガ202

「ボデガ202」を案内してくれたのはワインメーカーのルイス・ギュメス氏。2014年設立の新しいワイナリーだ。「本当はラグアルディアの古い建物を狙っていたのですが、なかなか出物がなくて。それで今日のような工業地区の味気ない建物でスタートしました。でも、かえってそのほうが良かったかもしれません。現代のワイン造りに清潔さは欠かせませんからね」

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

発酵槽の前に立つルイス・ギュメス氏

ギュメス氏によると、オーナーのルーニー夫妻はアメリカ人。スペイン北部の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す巡礼路「フランスの道」を歩いた夫妻が途中、リオハの土地とワイン、人々のホスピタリティにほれ込み、資本を投下してブドウ畑を買い、ワイナリーを建てることにしたという、アメリカン・ドリーム的なストーリーである。

ボデガの名前に使われた「202」はオーナー夫妻の暮らすアメリカ・ワシントンDCの市外局番だ。現場を任されたギュメス氏はマドリードの出身。大学でブドウ栽培と醸造を修め、先進のワイン造りを研修した。パートナーのマルタ・オルティーズ=アルセ氏は、天然資源工学を学んだ人。今や「名門ワイナリーの必須条件」と言える、サステイナブルなワイン造り構築の任に当たる。

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

マルタ・オルティーズ=アルセ氏(左)とルイス・ギュメス氏(右)

「我々が目指しているのはテーラーメイド・ワイナリーです」とギュメス氏。造っているのは2銘柄の赤ワイン──フラッグシップの「アンサ」と弟分の「アイステアル」──のみ。使用品種はいずれもテンプラニーリョ100%。所有する畑は標高600m〜750mの高地に広がり、ブドウ木は樹齢70年以上のものが多く、一部は樹齢100年に達する。

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

「アンサ2016」(左)と「アイステアル2016」(右)

「テンプラニーリョは早熟でデリケートなブドウです。若い木の果実だと果皮が薄く、また低地の畑だとハンギングタイム(果実が成熟する期間)が短くて、いずれも良い成果は得られません」とギュメス氏。その点、高い標高の土地に植えられた老木は理想的だと言うのだ。収穫したブドウは発酵前に長めの低温浸漬を行う、発酵の途中で種子を取り除くなど、極めて丁寧なプロセスで醸される。この辺りがテーラーメイドたるゆえんらしい。手間は当然価格にも反映し、同産地のワインと比べて3~4倍の値になる。が、この辺りはアメリカ人投資家にとってはすでに算盤(そろばん)勘定のうちなのだろう。

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

抽出は強めで濃縮感があるが、重さは感じられない

「アンサ2017」を試飲してみよう。この年は二つの畑のキュヴェ(ブレンド前のワイン)がいずれも完成度が高かったため、畑ごとに二つのワインを造ることにしたという。まずは植樹の年号が畑名になった「1945」から。赤い果実のフレッシュなトーンに包み込むような花の香りが交じる。酒質はなめらかで呑(の)み下した後に清涼感が残る。もう一つの「クリパン」という畑のブドウを使ったものは、黒い果実の香りが優勢で、スモーキー。味わいはドライでタイト、前者よりも陰影の濃い印象。ギュメス氏によると、後者の方が畑の標高が高く、収穫は10月半ば以降まで続いたという。いずれも風格とチャーミングさが同居する素晴らしいワインである。

モダンな製法とテーラーメードと (4)スペイン、エブロ川とリオハ・アラベサのワイン

サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼ルート上であることを思わせるロマネスク建築の教会

Bodega 202
CARRETERA ELVILLAR, S/N POLÍGONO 7, PABELLONES 11-12 LAGUARDIA 01300 (ÁLAVA) SPAIN
https://www.bodega202.com/

(つづく)

【取材協力】
ABRA (Asociación de Bodegas de Rioja Alavesa)

PROFILE

浮田泰幸

ライター、ワイン・ジャーナリスト、編集者。青山学院大学文学部卒。月刊誌編集者を経てフリーに。広く海外・国内を旅し、取材・執筆・編集を行う。主な取材テーマは、ワイン、食文化、コーヒー、旅行、歴史、人物ルポ、アウトドアアクティビティ。独自の観点からひとつのディスティネーションを深く掘り下げる。
 ワイン・ジャーナリストとして、これまで取材したワイン産地は12カ国40地域以上、訪問したワイナリーは600軒を超える。産地・生産者紹介と「ワイン・ツーリズム」の紹介に重点を置き、世界各地のワイン産地から取材の招聘を受けている。
 主な寄稿媒体は、「スカイワード」(JAL機内誌)、「日経新聞 日曜版」「ハナコFOR MEN」「ダンチュウ」「マダム・フィガロ」「ワイン王国」など。

北岸の畑は南向き、寒暖差大きく (3)スペインのエブロ川とリオハ・アラベサのワイン

一覧へ戻る

左岸はフィネス、右岸はエレガンス (5) ジロンド川とボルドーのワイン

RECOMMENDおすすめの記事