あの街の素顔

有珠山でへとへと、洞爺湖でのんびり 北海道を訪ねて

夏の北海道。涼しそうですよね。一方、私の住む福岡市は8月末に最高気温38度を記録しました。じっとしていても汗だくだく。「もうイヤッ、こんな生活!」。福岡の誇る喜劇人、小松政夫の名セリフを口にした私は、ついに憧れの地、北海道への旅を決意しました。行き先は洞爺湖と有珠山です。リゾート地として有名な洞爺湖ではのんびり避暑ができそう。しかもその一帯は世界ジオパーク。有珠山に行けばダイナミックな火山の景観も楽しめるはずです。福岡空港から航空機に乗り込みました。
(文・写真、宮﨑健二)

新千歳空港に到着した後、JRとバスを乗り継いで夕方にようやく洞爺湖温泉にたどりつきました。福岡を出発してから約6時間。はるばる来たぜ、北海道。北島三郎的心境です。

「有珠山は生きている」を実感

翌日、まず有珠山を目ざしました。周期的に活発な噴火活動をすることで知られており、「有珠山ロープウェイ」で山頂近くまで行くことができます。

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往復運賃は大人が税込み1800円。9月末までは「こくみん割」で1500円です

ふもとの昭和新山駅から午前10時発の車両に乗り込みました。車両は密室。緊張しながらマスクを装着しましたが、あれま、乗客は私だけ。やはり新型コロナの影響で観光客は少ないようです。ロープウェイは斜面に沿って上り始めましたが、前方には濃い霧がかかっています。ひょっとして頂上は雨なのか……。しかし、約6分後、有珠山山頂駅に着いてみると、きれいな青空が広がっていました。ロープウェイを降りて見下ろしたところ、見事な雲海が。私は雲上人になったわけです。天に召される日が近づいているのかもしれません。

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この雲をロープウェイは通り抜けてきたわけです

そして振り返ると、そこには有珠山が。山頂を見上げました。

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荒々しい形と岩肌。まさに火山ですね

有珠山は2万年ほど前の火山活動で誕生しました。1663年の噴火の後は数十年おきに噴火しています。戦後は1977年から翌年にかけて大噴火を起こしました。そのときにできた銀沼大火口は、現地の説明板によると、直径約350メートル。山頂駅から少し歩いたところにある展望台から見ることができました。

ハンパじゃなかった遊歩道

しかし、私は思ったのです。もっと近くで見たい、と。そこで、さらに30分ほど歩いたところにあるとパンフレットに示されている有珠外輪山展望台をめざして遊歩道を歩き始めました。しかし、この遊歩道、なまやさしいものではなかったのです。いきなり、長くて急な階段を下りることに。

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階段が急すぎて下を見るのがこわいくらいです

最大傾斜45度だそうです。足を滑らせたら一気に下まで転げ落ちそう。今はなき大阪球場の、傾斜が急だったスタンドを思い出しました。

下り終えると、今度は上り坂。木陰があったので、少し涼しくなりました。

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遊歩道を歩いている間、木陰はここにしかありませんでした

その後は、有珠山の外輪山をひたすら歩きました。この日は晩夏の北海道にしては猛暑で、かなり体力を奪われました。しかし、おかしいなあ、北海道に避暑に来た旅のはずなのに。でも、こういう想定外のことは旅につきもの。そう自分に言い聞かせて歩き続けました。途中、すれ違う人は誰もいません。孤独の旅路、まるでニール・ヤングの曲のよう。そんな私の気持ちをなごませてくれたのが、道端の草花でした。

ハマナスです。

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ハマナスを見ると、森繁久彌の口調で「知床旅情」を歌いたくなります

アジサイも咲いていましたよ。北海道では8月末まで楽しめるようです。

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青色が鮮やかでした

秋の気配を漂わせるススキもありました。

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赤みを帯びてとてもきれいでした

そうこうするうちに、有珠外輪山展望台についに着きました。銀沼大火口がはっきりと見えます。

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右下に見えるのが銀沼大火口です

そして近くの山の斜面からは蒸気が立ちのぼっているのが見えました。有珠山は生きています。

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中央下の白い部分が蒸気です

雄大な景色です。ここまで汗をかきかき歩いてきたかいがありました。

気品ある高齢女性との出会い

帰り道、あの心臓破りの階段が前方に見えました。ひい、あれを今度は上るのか。

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階段がまるで、山の斜面にかけられたはしごみたいに見えますね

階段の下に着きました。ぜいぜい息をしながら上っていると、階段を下りてくる高齢の女性と出会いました。私が行ってきたばかりの有珠外輪山展望台に向かうのだそうです。

「あなたはどこからいらしたの?」

丁寧で上品な言葉遣いです。私は往年の名歌手、東海林太郎のように背筋を伸ばし、直立不動になって答えました。

「博多から来たとです」
「あら、そうなの。私は神奈川からですのよ」

もしかして、あなたは鎌倉夫人? 高貴さをまとった雰囲気に圧倒された私は、東海林太郎から「家政夫のナギサさん」に早変わりしました。腰を低くし、へりくだって申し上げたのです。

「1人で歩いてこられたのでございますか。ずいぶんお元気でいらっしゃいますね」

すると、女性は「山登りはお好きかしら? 私、76歳ですけど、今も山登りをしていますのよ」。
ほほほ、と気品ある笑みを残して女性は階段を下っていきました。ぼうぜんと見送る私。こんな出会いも旅ならではです。

昭和新山を遠望

ナギサさん状態からなんとか脱してふだんの旅ライターに戻った私は、ロープウェイの駅に着きました。すでに正午近く。雲海はもう姿を消しています。朝は見えなかった昭和新山が下りのロープウェイからはっきり見えましたよ。

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岩肌があらわな昭和新山。木々に包まれた周囲の景色との違いが際立っています

1943年から45年にかけての有珠山の噴火活動で畑がみるみる隆起してできたのが昭和新山です。短期間でこれだけの山ができたのですから、びっくりですね。

直近噴火被害を実感 西山山麓火口散策路

ところで、有珠山周辺のもっとも最近の大規模噴火は2000年でした。連日報道されたのでご記憶の方も多いのではないかと思います。ロープウェイから下りた私は、その時の火山遺構の一つ、西山山麓(さんろく)火口散策路に行きました。ここには噴火被害の大きさを物語る建物などが残されています。

歩き始めると、散策路のすぐ隣の舗装道路がめちゃくちゃに壊れていました。

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道は階段みたいになっています。左は散策路

火山活動による隆起によって道が寸断されてしまったのです。
大きく傾いた工場跡もありました。すごい壊れ方ですね。

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製菓工場だったそうです

そして、幼稚園跡。屋根や壁が大きく破損しています。約600メートル離れた場所に突然できた火口から噴石が飛んできたのだとか。みなさんが早めに避難したので、幸い死傷者はいなかったそうです。

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幼稚園跡には遊具やバスも残されていました

生活圏で突然、噴火が起きたのですからその恐ろしさはいかばかりか。火山の近くでの生活には温泉などの恵みもありますが、危険とも隣り合わせです。阿蘇山や桜島のある九州に住む私も他人事ではないと感じました。

洞爺湖と有珠山の一帯は2009年に長崎県の島原半島などとともに国内初の世界ジオパークに認定されました。科学的に価値の高い地質遺産があることが認められたのです。ここでは観光をしながら火山について学ぶことができます。それは防災、減災の意識を高めることにもつながります。

遊覧船で洞爺湖めぐり

宿泊しているホテルのある洞爺湖温泉に戻りました。洞爺湖温泉の中心部は湖畔(こはん)に散歩道があって、とても心地よく歩くことができます。

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ずらりと立ち並ぶホテルと湖の間に散歩道があります

洞爺湖は約11万年前の火山活動によって生まれました。日本で3番目に大きなカルデラ湖です。遊覧船に乗りました。船の名は「エスポアール」。

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料金は大人が税込み1420円。ホームページに掲載されている割引クーポンを使うと1割引きになります

乗り込むと、ユニークな同乗者がいました。カモメです。

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遊覧船で羽を休めたり、遊覧船と並行して飛んだりしていました

洞爺湖は海が近いので、ここまで飛んできたのでしょうか。乗客にエサをねだってしきりに甲高い鳴き声を発しています。人の近くにいるのですが、こちらから1メートルくらいまで近づくと、飛び立ってしまいます。これぞ、ソーシャルディスタンス。見習わなければいけません。

湖の中央に浮かぶ島々が見えてきましたよ。

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この後、船は島と島の間を通り抜けました

約50分間、心地よい風に吹かれながら、洞爺湖遊覧を楽しみました。

ホテルに戻って夕食をとり、温泉でゆったり。そして、夜は再び湖へ。洞爺湖では夏季に毎晩15分間ほど花火が打ち上げられるのです。

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花火の光が湖面に映ってとても幻想的です

炎天下、有珠山周辺を歩き続けてヘトヘトになってしまった一日が終わりました。でも、遊覧船から洞爺湖の景色に見入り、温泉につかり、夜空と湖面を彩る花火を見てクールダウンができました。最後にようやく味わうことができたリゾート気分。北海道、やはりよかところです。

■有珠山ロープウェイ
http://usuzan.hokkaido.jp/ja/

■洞爺湖有珠山ジオパーク推進協議会
http://www.toya-usu-geopark.org/

■洞爺湖温泉観光協会
https://www.laketoya.com/

■洞爺湖汽船
http://www.toyakokisen.com/

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、江澤香織、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 宮﨑健二

    旅ライター。1958年、福岡市生まれ。朝日新聞社入社後、主に学芸部、文化部で記者として働き、2016年に退社。その後はアウェイでのサッカー観戦と温泉の旅に明け暮れる。

どこもかしこもイカづくし イカした佐賀県唐津市呼子町

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ついにあこがれの地・小樽に立つ 北海道の旅

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