京都ゆるり休日さんぽ

本屋と八百屋のハイブリッド。「食」と「知」の力で未来をつくる「本と野菜 OyOy」

本と野菜。全く異なるもののように感じる二つをつなぐショップが、今回の散歩の行き先です。京都にオーガニックの農産物を広めた立役者でもある八百屋「坂ノ途中」と、校正・校閲と書店経営を手がける東京の「鷗来堂」がタッグを組んだ、「本と野菜 OyOy(おいおい)」。ハイブリッドで新鮮なコンセプトながら、ここで出会えるのは「食」と「知」という、生きる力に直結するエネルギーでした。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

自然の変化も心の変化も、しなやかに受け止める

契約農家から仕入れる「坂ノ途中」の野菜

京都と近郊を中心に、約250軒の契約農家から仕入れる「坂ノ途中」の野菜が並ぶ

旬のはしりの野菜は柔らかでみずみずしく、盛りを過ぎた名残のそれは味の深みを増していく。同じ野菜でも、味わう時期や気候によって印象はガラリと変わります。「本と野菜 OyOy」の店頭に届く有機野菜は、種類も大きさも味わいも日によってバラバラ。けれどそのブレこそ、自然に寄り添い作られる有機の農作物の証しです。

発想豊かなディスプレー

作家やジャンルで分類せず、自由で発想豊かなディスプレーが好奇心をくすぐる

季節を映す色とりどりの野菜の向こうには、約3千冊を有する書棚。料理本から文学、エッセー、絵本や児童書など、食を中心にさまざまなタイトルが並びます。在庫を持たず、有名無名を問わず、全ての本につき1冊ずつしか入れない書棚は常に変化するため、出会いは一期一会。その日その時の直感や心境によって目に入る背表紙が変わり、いつ訪れても新鮮な発見があります。

おすすめの選書

選書を担当するスタッフ・佐藤由香子さんのおすすめ。右から、写真集のように美しい『季節の仕込みもの』(李映林)、「OyOy」の在り方にも通じる『本の読める場所を求めて』(阿久津隆)、懐かしい献立の知恵がかえって新鮮な『味つけご飯とおみおつけ』(重信初江)、ナウシカやもののけ姫の世界観の原点になったとも言われる『シュナの旅』(宮崎駿)

「OyOy」のディレクター・谷田あや子さんはこう話します。

「本と野菜というと、一見共通点がないように思えますが、食は健やかな体を作り、本は考える力を養うもの。そして、食べる前・読む前と後で、自分に変化をもたらしてくれるものです。野菜が表す自然のうつろいや、気になる本が示すご自身の心の変化を感じてもらえたら」

本と野菜がつくる、少し先の未来を信じて

「スープランチ」

「スープランチ」(1300円・税別)。写真の鶏手羽元入りのほか、ビーガン対応のスープも。ごはんも選べる

併設のカフェで味わえるのは、「坂ノ途中」の契約農家から届く、季節の野菜をふんだんに使ったスープランチ。丹波しめじの出汁(だし)をベースにしたスープに、野菜ごとの香りや食感を生かすべく、一つひとつに適した火入れを行った具材がごろりと入っています。季節の野菜を無駄なくおいしくいただく料理として、スープを選んだのは現場で働くスタッフの声から。農業に挑戦する人を支えようと、新規就農者や小規模な生産者と連携する「坂ノ途中」の取り組みにも、ぴったりでした。

食をテーマにした本が半数

訪れた人が自然と手に取りやすいよう、食をテーマにした本が半数ほど。特定の食材や料理にスポットを当てた本も楽しい

「来ていただくお客様とのコミュニケーションのなかで、押し付けることなく私たちの取り組みをお伝えしていくのはもちろん、ここで食や本に携わるスタッフが、アイデアや価値観を反映しながら働ける。そんな持続可能な環境を作りたいと思っています。店名には、ほんの少し先の未来を作っていこうという願いが込められているんです」

そう話す谷田さんは、今年6月に歩みはじめたこの店を「完成させてしまわない、有機的な生き物のよう」と表現します。

「efish」から受け継いだソファやテーブル

店内には、惜しまれつつ閉店した木屋町五条のカフェ「efish」から受け継いだソファやテーブルが

野菜を買うこと、食べることが生産者の応援に

小規模で無農薬農法に取り組む生産者の支援には、継続的に一定数を買い付けることが不可欠。野菜を買うこと、食べることが応援につながる

農業も出版も、時代の流れとともに、存続に知恵を絞らなければならない分野。けれど、食が命を作り、知が生きる糧となることはこれからもきっと変わりません。未来はいつも、「いま、ここ」からつながっていくもの。環境を思い、季節の歩みに寄り添って作られる有機野菜と、多様な主題や作家に光を当て好奇心の扉をたたく選書、そしてそれらに出会う場所が街の真ん中にあること。それこそが、本と野菜の半歩先の未来を、そっと照らしているように思えます。

調味料なども販売

えりすぐりの調味料やうつわなども販売。野菜や料理本と合わせて選ぶのも楽しい

本と野菜 OyOy
https://oyoy.kyoto/

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BOOK

本屋と八百屋のハイブリッド。「食」と「知」の力で未来をつくる「本と野菜 OyOy」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

八坂の塔を眺めながらいただく、大人のパフェ「DORUMIRU.yasakanotou(ドルミールやさかのとう)」

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