あの街の素顔

もう、うっとりするおいしさ! 佐賀の美食を訪ねて(下)

知られざる美食の国・佐賀県を訪ねた2020年3月の旅。後編は、お菓子やパン、紅茶の店を紹介します。朝食やティータイムに、とっておきのものを求めて、佐賀県内をぐるぐる。ほかにはない、ユニークな店を厳選しました。通販できる店も多くありますので、旅気分を味わいながら、おうちでの食卓の充実にもお役立てください。
(文・写真:江澤香織)

もう、うっとりするおいしさ 佐賀の美食を訪ねて(上)から続く

日本中の個性的な和紅茶が集まる専門店

もう、うっとりするおいしさ! 佐賀の美食を訪ねて(下)

全国から集まった和紅茶がずらりと並びます。どれも無農薬や有機栽培のお茶

江戸時代にできた「長崎街道」は、長崎から小倉(現在の北九州市)までを結ぶ道。鎖国の時代に海外との唯一の玄関口だった長崎から、たくさんの外国製品がこの道を通って小倉まで運ばれ、船で江戸へ。とりわけ砂糖が大量に運ばれたため、別名「シュガーロード」とも呼ばれています。佐賀県は長崎街道が県内を大きく横切っていくため、菓子文化が発達し、当時の南蛮菓子が今も多く残っています。日本の大手菓子メーカーである森永製菓や江崎グリコの創業者も佐賀出身。歴史のつながりを感じます。

さてさて、お菓子にはお茶が欠かせません。佐賀市でその長崎街道沿いに紅茶専門店「紅葉(くれは )」を見つけました。ここで扱っているのは「和紅茶」。日本で栽培・製造している紅茶です。店長の岡本啓さんが全国から厳選してセレクト。特に九州産が多く、佐賀県では嬉野(うれしの)や有田、伊万里などで作られているそうです。岡本さんは必ず現地へ行き、生産者に会い、農園を見てから仕入れているとのこと。

「現地へ行ったら、まずそこの水を飲みます。水の性質を知ることで、お茶の特徴を理解します。その土地のお茶は、その土地の水で淹(い)れた時に一番おいしいように作っているはずですから」

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長崎街道沿いに建つ、築100年の古民家。まわりには古い建物や水路、小さな恵比寿さんの像など、散策するのに楽しい史跡が点在しています

店をオープンした頃は、ダージリンやアッサムなど外国産の紅茶を置いていたそうですが、嬉野紅茶に出会ってから日本の紅茶に興味を持ち、全国の産地を回るようになったそうです。

「和紅茶という言葉が使われるようになったのは2010年くらいからでしょうか。今はクオリティーが上がり生産者も増えました。特徴は渋みが少なくてまろやか、という答え方もあるけれど、生産者の個性がそのまま出るのが一番大きな特徴で、それが魅力でもあります。作る人の人生みたいなものが出るんですよ」

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店の奥にはカウンター席があり、紅茶とお菓子を楽しめます。嬉野紅茶には重めの和菓子がいいとのことで、合わせたのは羊羹(ようかん)。和紅茶に合うよう工夫を凝らした岡本さんのお手製です

和紅茶は、緑茶と比べるとまだ日本で確立されていない分野であり、海外のように地域全体で市場を見て作るわけでもないため、生産者それぞれが独自のこだわりで作っているそうです。味の良さはもちろん、作り手らしさが出ていることが、買い付けるかどうかの決め手だといいます。

無農薬のものを選んでいる理由は、おいしいものを選んでいたら必然的に、とのこと。たくさんの種類の和紅茶が並んでいるので、どれにしようか悩んでしまいますが、分からないことは岡本さんに聞くと、丁寧に説明してもらえます。

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岡本さんは福岡の茶どころ、八女出身。子供の頃からお茶が好きで、引っ越す時も急須は肌身離さず持っていたとか。店を始める前はトラックの運転手だったというユニークな経歴の持ち主

岡本さんは和紅茶の世界では全国的に知られており、和紅茶を楽しむための本を出版したり、和菓子の老舗「虎屋」向けに羊羹に合う和紅茶のブレンドを作ったり、幅広く活動しています。

和紅茶専門店 紅葉
※通販あり
佐賀市柳町4-7
https://creha.net

山奥にポツリ 陶芸家が作る石窯天然酵母パン

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天然酵母でふっくら焼けた、抱えるほどに大きなパン。一つ1kg前後あるそうです。(参考までにみかんを置きました)

どうしても行ってみたかったパン屋さんは、JR佐賀駅と唐津駅を結ぶ線のちょうど中間地点くらいの山深い地域にありました。佐賀市からも唐津市からも車で約40〜50分。細い山道をくねくねと走り、最後は急坂を一気にガーッと上がります(冬は雪が降ると上がれないそうです)。

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森の中に隠れるようにひっそりと建つ小屋。「誰にも何もされないため」に周りの山一帯を所有したそうで、ここでは自然のビオトープが形成されています

森と一体化したような建物の中に入ってみると、たくさんの陶芸作品が並んでいました。オーナーの藤田幹敏さんは陶芸家でもあり、世界を旅し、自然に関わる様々な活動をしている「何でも屋」だそうです。パンを売るようになったきっかけは、陶芸の窯で器を焼いた後の余熱で、家族や友人のために焼いていたパンが好評だったことから。岩石を積み上げてパン専用の石窯を作り薪をたき、輻射(ふくしゃ)熱を利用して焼いているそうです。小麦は昔から国産小麦で、パンに使う水にもこだわっています。森の中の洞窟から湧き出る天然水を使っているとのこと。

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店内には、藤田さんの陶芸作品も並んでいます

店名の「我楽房(がらくぼう)」とは、まさに名の通り、楽しく生きる人生を表しているそうです。自給自足で自然と共に暮らし、自分たちが本当に食べたいと思う、体に良くておいしいパンを作る。シンプルな暮らしの中から生まれたパンは、かみしめるほどに優しさに包まれるような、滋味深い味でした。ほんのり自然な甘みがありますが、砂糖は一切使っていないといいます。

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店内は広々とした空間で、3年かけて巨大な木を彫って作ったという、天然のスピーカーから流れる音楽に癒やされます(現在は喫茶はやっていません)

我楽房
※通販あり
佐賀県唐津市相知町楠175
http://www.garakubo.com

ショーケースにケーキがない 完全予約制パティスリー

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お菓子は全て無添加で、素材は無農薬のもの中心。佐賀の食材も多く使っているそう。(テムデサック提供)

シュガーロードが県内を横断する佐賀県は、現在も甘いもの天国。小城(おぎ)羊羹で有名な小城市に、素敵なパティスリーがあるよと、(上)で紹介した「Restaurant 5」の橘さんや「アキンボ」の川岸さんから聞き、それならとウキウキ訪ねてみました。「Tem. de Suc.(テムデサック)」は、JR小城駅からすぐ。ただし、ケーキは予約制。HPを見て、事前に食べたいケーキを注文しておくことを忘れずに!

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築100年を超える古民家の一角がお店です。そういえば佐賀には味わい深い古民家が多い。そしてそこにはいい店が入っていることが多いようです

店主でパティシエの次富あすかさんは、医療系のお仕事から転身して京都の製菓学校へ通い、その後佐賀県内のパティスリーで働き始めましたが、せっかく朝早くから働いて、愛情込めて作ったケーキが、残ると捨てられてしまうことに悲しさを募らせていました。

「ケーキは生産者ともつながっています。彼らが大切に育てた野菜や果物をおいしいケーキにして、余らせることなくお客様に届けたい、という思いが、独立してこの店を作ったきっかけです」

先に紹介した和紅茶専門店「紅葉」で出す洋菓子も、次富さんが作っているそうです。次富さんも紅茶が大好き。週末にはティーアドバイザーのスタッフが加わって、カフェをオープンし、紅茶教室が開かれることも。この場の雰囲気を楽しみながらゆっくりお菓子を味わいたいなら、ぜひ週末に訪問してみてください。

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予約制なので基本的に生菓子はありません。でもたまに、ふらっと入ってくるお客様もいるため、チーズケーキだけなるべく常備しているそうです

Tem. de Suc.
完全予約制 金・土・日のみカフェ営業
佐賀県小城市三日月町久米2120-2
https://www.temdesuc.com

住宅街の一角に、突如現わるヨーロッパの片田舎

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果たしてここは一体どこなのか? 日本とは思えない風景ですが佐賀県です

最後に訪ねたのは想像を超えたおとぎ空間。まるで夢を見ているかのようなスイーツショップ「アンジェココ」は、敷地内に趣向を凝らした異国風の小さな田舎家が立ち並び、石畳の小道や古い看板、街灯など、細部までびっくりするほど精巧に再現されています。まるでフランスの田舎町にふらりと迷い込んでしまったような気分。敷地一帯は「スイーツビレッジ」と呼ばれ、お菓子好き、ヨーロッパ好き、アンティーク好きなどの多くの人々に親しまれています。

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スイーツビレッジの一角。雰囲気ある建物が、まるで古い映画のワンシーンのよう。中ではお茶を飲んだり、買い物したりできます


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カラフルなケーキが並ぶショーケース。焼き菓子、ワッフル、チョコレート、パフェなどお菓子の種類も豊富

建物の中に入ってみると、そこには所狭しとお菓子がぎっしり。どこか懐かしい雰囲気のアンティーク調インテリアですが、ケーキはモダンなビジュアルで、味の組み合わせにもちょっとしたひねりや遊び心があります。

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はちみつのムースとオレンジのブリュレが組み合わさったタルト「ミエル」。酸味がジューシーなオレンジと、コクのあるはちみつ、ムースとタルトの食感など、驚きのあるケーキ

この空間が醸し出す独特の世界観は、ここにしかない唯一無二のもの。雰囲気を存分に味わいつつ、お茶とケーキでのんびり過ごしたい場所です。

アンジェココ
※通販あり
佐賀県鳥栖市蔵上4-121
http://angecoco.net

個性的で志高く探究心ある食の担い手にたくさん出会えた佐賀の旅でした。食べてみたいなと思った店がありましたら、各店のHP等を確認してみてください。

PROFILE

  • 「あの街の素顔」ライター陣

    こだまゆき、江藤詩文、太田瑞穂、小川フミオ、塩谷陽子、鈴木博美、干川美奈子、山田静、カスプシュイック綾香、カルーシオン真梨亜、シュピッツナーゲル典子、コヤナギユウ、池田陽子、熊山准、藤原かすみ、矢口あやは、五月女菜穂、遠藤成、宮本さやか、小野アムスデン道子、石原有起、江澤香織、高松平藏、松田朝子、宮﨑健二、井川洋一、草深早希

  • 江澤香織

    ライター。旅、食、クラフトなどを中心に執筆。
    著書『青森・函館めぐり クラフト・建築・おいしいもの』(ダイヤモンド・ビッグ社)、『山陰旅行 クラフト+食めぐり』『酔い子の旅のしおり 酒+つまみ+うつわめぐり』(マイナビ)。全国各地の酒蔵(ワイナリーやブルワリー含む)・酒場・酒文化をめぐるツアー「だめにんげん祭り」主宰。旅先での町歩きとハシゴ酒、珍スポット探し、ものづくりの現場探訪がライフワーク。チョコレート、お茶、発酵食品にのめり込む傾向あり。

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