京都ゆるり休日さんぽ

パリの屋根裏部屋のような空間で、忘れられない朝食を。「ル・カフェ・ド・ブノワ」

いつまでも記憶に残る、旅先での朝食。街がいっせいに動き出す朝独特の空気とともに味わった食事が、旅の一番の思い出となって、再びその地に足を向かわせることがあります。今回訪ねたのは、きっとそんな朝食の記憶となるであろう「ル・カフェ・ド・ブノワ」。路地1本分の幅にわずか4席しかないカフェで味わえるのは、一度食べたら忘れられなくなる、パリスタイルの朝食でした。

■暮らすように、小さな旅にでかけるように、自然体の京都を楽しむ。連載「京都ゆるり休日さんぽ」はそんな気持ちで、毎週金曜日に京都の素敵なスポットをご案内しています。
(文:大橋知沙/写真:津久井珠美)

旅するように食す。フランス人好みの朝食のかたち

泡立てたミルクにドリップしたてのコーヒー

「食べ終わるころまで冷めないように」と泡立てたミルクにドリップしたてのコーヒーを注いでくれる。コーヒーは浅煎り、深煎りから選べる

虹色に並ぶフルーツ、端正な銀のカトラリー、エッグスタンドで姿勢を正すゆで卵……。テーブルに運ばれてくる一つひとつを眺めるたびに、静かな映画の一幕を見るような気分に満たされます。カフェオレボウルいっぱいに泡立つミルクにコーヒーが注がれると、待ちわびた朝食シーンのスタート。「その前に……」と誰もが写真を撮らずにいられないのは、この美しい食卓が、映画ではなく食べたら消えてしまうのだから必然です。

「Parisのカフェセット」

1日10食限定の「Parisのカフェセット」(2700円、カフェ・オ・レは+100円、税別)

季節に合わせて数種類を盛り合わせるフルーツは、「ブノワ」のトレードマーク。旬を取り入れつつ、栄養や食感、風味のバランスを熟慮し組み合わせています。

「フランス人って、朝に生野菜を食べないんです。内臓を冷やすからって。栄養価の高いフルーツとカフェオレ、そこにバターたっぷりのパンが定番。そんなパリの朝食のスタイルを体験していただきたくて」

そう話すのは、店主の都木里江子さん。仏系外資企業に勤めながら、自身のフランス好きも高じて何度もパリに足を運ぶうち、そこで出会った食文化やライフスタイルを日本でも伝えたいと、この店をオープンしました。

ゆで卵にひびを入れる道具

バーとボールが付いたキャップをゆで卵にかぶせ、ボールを落とすとパリンとヒビが入る。一連の動作も食事を楽しくする

フランス産岩塩でいただくゆで卵は、専用の殻割り器のボールを上からコツン!と落として殻をむきます。パリのカフェではしばしば見られる道具だとか。ただゆで卵を割るだけなのに、ちょっと優雅な気分になれるから楽しいもの。

カトラリー

カトラリーはフランスの名門「クリストフル」のアンティーク。添えられたソシソンセック(ソーセージ)、エメンタールチーズ、くるみはどれもトーストと相性抜群

日本の飲食店ではここでしか使われていないという珍しい乾燥ソーセージ「ソシソンセック」、絶妙な塩気がクセになるエメンタールチーズなどとともに、「次はどれを食べよう」とテーブルの上を巡る朝食は、食事という枠を超えて、まるで小さな旅のようです。

パリの屋根裏部屋から、心ゆさぶる味を探し求めて

鴨川東岸の川端通沿いにオープン

鴨川東岸の川端通沿いに、路地幅1.05メートルの敷地を使いオープンした

渡仏した際はいつも小さな屋根裏部屋のようなホテルに泊まり、窓からパリの街並みを眺めていたという都木さん。納得のいく素材を求めてくたくたになるまで歩き、予算が底をついてもなお探し続けた末にやっと、今店で出しているジャムやチーズ、ソーセージなどの食材に出会いました。

メニューに使われている食材

メニューに使われている食材は一部販売されている。カマルグの塩(520円)、コント・ド・プロヴァンスのジャム(440円〜)など

「普通においしいくらいでは、駄目だと思ったんです。5年先、10年先に『あの時食べたあれ、おいしかったな』って、一生思い出せるくらい記憶に残るものじゃないとって。そうして過ごしたパリの日々には、あの屋根裏部屋のようなホテルの、不思議な居心地の良さが思い出されるんです」

屋根裏部屋をイメージした店内

屋根裏部屋をイメージした店内は、低めの天井と白熱灯の明かりが不思議と心落ち着く

洗練を追い求めたパリの日々、灯台のように帰る場所だった屋根裏部屋。そのイメージが「ブノワ」の雰囲気そのものになりました。わずか1.05メートルの幅にあえて天井高を30cm低くした内装は、屋根裏部屋のようにひっそりと親密で、心落ち着く空間を作りたかったから。訪れた人はここで自分のためだけに時間を費やし、一つひとつの味や香りに満たされて、美しい食卓の風景を心に留めて店を出るのです。

13時からの「カフェ・グルマン」

13時からの「カフェ・グルマン」(1500円・税別)は、日本、フランス、ヨーロッパ各地のお菓子を旅するように味わうセット。フランスではどこのカフェにもある、その店独自のスイーツのセットのことを「カフェ・グルマン」と呼ぶとか。お茶のセット「テ・グルマン・オトンヌ」も

繊細なカトラリーでフルーツを口に運ぶ瞬間も、カフェオレボウルに残った泡を小さなティースプーンですくうことも、昼下がりに宝石のような焼き菓子を順につまむことも。普段の食事と比べれば、優雅すぎる所作だけれど、自分を慈しむために時々そんな時間を持てたなら……。その記憶は日常を生きる力になります。

小さな屋根裏部屋が、いつでも花の都へとつながっていたように。「京都のパリ」で食べた忘れえぬ朝食が、今日という1日を後押ししてくれることでしょう。

ガラス張りの壁に手書きのメニュー

ガラス張りの壁に手書きのメニューも、パリで「今」洗練されたカフェが取り入れるスタイルの一つ

ル・カフェ・ド・ブノワ
https://www.instagram.com/le_cafe_de_benoit/

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BOOK

パリの屋根裏部屋のような空間で、忘れられない朝食を。「ル・カフェ・ド・ブノワ」

京都のいいとこ。

大橋知沙さんの著書「京都のいいとこ。」(朝日新聞出版)が2019年6月7日に出版されました。&TRAVELの人気連載「京都ゆるり休日さんぽ」で2016年11月~2019年4月まで掲載した記事の中から厳選、加筆修正、新たに取材した京都のスポット90軒を紹介しています。エリア別に記事を再編して、わかりやすい地図も付いています。この本が京都への旅の一助になれば幸いです。税別1200円。


PROFILE

  • 大橋知沙

    編集者・ライター。東京でインテリア・ライフスタイル系の編集者を経て、2010年京都に移住。京都のガイドブックやWEB、ライフスタイル誌などを中心に取材・執筆を手がける。本WEBの連載「京都ゆるり休日さんぽ」をまとめた著書に『京都のいいとこ。』(朝日新聞出版)。編集・執筆に参加した本に『京都手みやげと贈り物カタログ』(朝日新聞出版)、『活版印刷の本』(グラフィック社)、『LETTERS』(手紙社)など。自身も築約80年の古い家で、職人や作家のつくるモノとの暮らしを実践中。

  • 津久井珠美

    1976年京都府生まれ。立命館大学(西洋史学科)卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。

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