永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(78) 任務完遂したカッコいい背中 永瀬正敏が撮った台湾

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、台湾・嘉義市で居合わせた年越しのカウントダウンイベントです。永瀬さんが心ひかれたのは、イベントよりも、終了後の出来事でした。

(78) 任務完遂したカッコいい背中 永瀬正敏が撮った台湾

©Masatoshi Nagase

セリフがなく、ただ背中が映っているだけで心情やシーンの何かが表現できるようになれば、
それは素晴らしい役者だろう。
ずっと目指しているが、今の自分はその理想にまだまだはるかに遠く、実力不足を痛感している。

ある年越しを、僕は台湾・嘉義市で迎えた。
その日はカウントダウンイベントがあるというので、カメラを持ち出かけてみた。
市内中心部のロータリーにある噴水を囲む道路をすべて歩行者天国にして、
イベントは華やかに行われた。
こんなに人がいたのか!と思うぐらい、ごった返していた。
花吹雪や大量の紙テープの発射とともに、新しい年が幕を開けた。

イベントが終わり、人々が家路につき始めると、地面に大量のゴミが残されていた。
それはもう驚くほどの量だった。
清掃には明日いっぱいぐらいかかるんじゃないか? そう思えた。
しかしそれを、嘉義市の数十人の環境保護局員さんがあっという間に片付けていく。
圧巻の速さだった。
信じられないぐらいあったゴミの山をどんどん処理していく。
そのさまを僕はずっと見続けた。

会場にイベントを見にきた人々はもう誰も残っていない。
最後に1人の局員さんがあたりを最終チェックした。
そして動き出したトラックにひらりと飛び乗りその場を後にした。
僕は必死に追いかけながら、その後ろ姿をカメラに収めた。

最後のカットを撮り終えると、ちょうど歩行者天国が解除された。
僕は歩道に戻り、去っていくその男性の後ろ姿を見送った。

局員さんたちはきらびやかなカウントダウンを、新しい年を、制服である清掃着で迎えた。
その姿はその場にいた誰よりもカッコよく見えた。

仕事をやり遂げたその背中も。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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