永瀬正敏フォトグラフィック・ワークス 記憶

(79) ギター1本で勝負した少女に喝采 永瀬正敏が撮った台湾

国際的俳優で、写真家としても活躍する永瀬正敏さんが、世界各地でカメラに収めた写真の数々を、エピソードとともに紹介する連載です。つづる思いに光る感性は、二つの顔を持ったアーティストならでは。今回は、台湾の台北市で出会った、ギターを弾く少女です。こんな街中で彼女が演奏している、その理由とは?

(79) ギター1本で勝負した少女に喝采 永瀬正敏が撮った台湾

©Masatoshi Nagase

ある少女に出会った。
台北駅の真ん前で、自分より大きいんじゃないか?というぐらいのギターを抱えていた。

彼女は一生懸命何かの曲を練習していた。
その姿をおそらく友人であろう少女が、寄り添って見つめている。
都会と彼女たちのコントラストに惹(ひ)かれ、シャッターを切った。

数枚撮影して彼女たちに声をかけた。
突然片言の英語を話すカメラを手にした日本人の男に声をかけられ、
彼女たちの目には戸惑いと、少し恐怖が現れていた。
一緒にいた通訳さんに事情を説明してもらったが、やはりまだ不信感は拭えないようだった。

しばらくして彼女はポツリポツリと、ここで練習しているわけを話してくれた。
学校の軽音楽部的なサークルに入っていて、今日は駅前の仮設ステージでコンテストがあること、
将来ギタリストになりたいこと、
歌はあまり得意ではなく今日は歌わなきゃならないので緊張していること……。

「そうなんだ、じゃあ頑張ってね!」

邪魔しては悪いので、そう言ってすぐに彼女たちと別れた。
その後、せっかく出会ったんだし、彼女のライブを見ていこうとコンテストの場所へ移った。

本格的な機材を有するアマチュアロックバンドが次々に演奏する中、彼女は1人で登場した。
小柄な彼女は、あのアコースティックギターを抱えて一生懸命演奏した。
バンドの激しい音圧が観客席を包んでいた会場で、彼女だけは大好きなギター1本でやりきったのだ。
僕は思いっきり拍手を送った。

会場を後にしようとした時、先ほどと全く違う表情で彼女が僕の元へ駆け寄ってくれた。

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PROFILE

永瀬正敏

1966年宮崎県生まれ。1983年、映画「ションベン・ライダー」(相米慎二監督)でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督「ミステリー・トレイン」(89年)、山田洋次監督「息子」(91年)など国内外の約100本の作品に出演し、数々の賞を受賞。カンヌ映画祭では、河瀬直美監督「あん」(2015年)、ジム・ジャームッシュ監督「パターソン」(16年)、河瀬直美監督「光」(17年)と、出演作が3年連続で出品された。近年の出演作に常盤司郎監督「最初の晩餐」、オダギリジョー監督「ある船頭の話」、周防正行監督「カツベン!」、甲斐さやか監督「赤い雪」など。写真家としても多くの個展を開き、20年以上のキャリアを持つ。2018年、芸術選奨・文部科学大臣賞を受賞。

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