大原・鞍馬・貴船、修行者気分で峠越え 「京都一周トレイル」で冒険旅#4
文: 山田静

近場でも冒険気分を味わいたい……というわけで、京都在住の旅行ライタ−・山田静さんが選んだ冒険先は地元・京都。京の都をぐるりと囲むトレイルルート「京都一周トレイル」完歩に挑戦。前回終えた東山コースの次は、北山コースにチャレンジだ。
(トップ写真は叡山ケーブル鉄道)
京都一周トレイル 北山コース(1)ケーブル比叡駅〜大原戸寺町 9.8キロ
東山に比べるとちょっとなじみが薄いが、北山コースは比叡山から大原、鞍馬、貴船、賀茂川上流地帯を経て紅葉の名所・高雄へと至るルートで、山深く水は清らか、名産・北山杉の美観も楽しめる歩きがいのあるコースだ。
前回、標高差600mあまりを一気に登って到着したケーブル比叡駅(標高690m)。ここが北山コースのスタート地点で、初回は大原戸寺町(標高215m)を目指す。
静寂の比叡山から大原へ。キツい下りのあと、のどかな里に癒やされる
この日のルート前半は、比叡山延暦寺に沿うように続く参道や山道を北上し、大原と仰木(おおぎ・大津市)をつなぐ山越えの道・仰木峠を目指す山歩き。トレイルルートは延暦寺の有料拝観エリアは通らないが、道中、浄土院や釈迦堂をはじめ、荘厳なお堂やこけむした仏塔が次々と現れ、自然と厳粛な気持ちになる。

見晴らしのいい場所や分かれ道にはお堂や仏塔が置かれている。若干のアップダウンはあるが、歩きやすい尾根道や参道が続く

延暦寺エリアの道はずっとこんな感じ。この日歩いている間は人にひとりも会わず、厳粛な気持ちを通りこして実はちょっと怖かった

大木に囲まれた椿(つばき)堂。聖徳太子が比叡山で使った杖をこの地にさしたところ、そのツバキが大木となったとされることからお堂の名がとられたとか

不思議な枝ぶりの巨木・玉体杉。千日回峰行を行う修行僧が唯一座れる場所で、ここから御所に向かって祈るのだそう。私もここで昼休憩
延暦寺エリアを抜け北に向かうにつれ、道が狭くなり森が深くなる。最後の登りは、木の根っこを足がかりにチャレンジした。

木の根っこを足がかりに登る
たどり着いたのは、仰木峠のちょっと手前にある水井山山頂。標高794m。京都一周トレイルの最高地点だ。眺望がほとんどないので「最高地点に来た!」という盛り上がりはあまりない。

京都一周トレイルの最高地点、水井山山頂(標高794m)
ルート後半は、仰木峠から大原への長い長い下り道。古来、交易などのために多くの人々が行き交った道だ。

仰木峠(標高573m)から進路を西にとり、大原を目指す。標高差358mを一気に下る、またひざがガクガクになる道だ

大原へと続く道は旧若狭街道(鯖<さば>街道)。日本海の海の幸を京都へと運んだ輸送路だ

大原に到着すると民家が見えた
1時間半ほど下り続け、ふもとにある害獣よけのフェンスを抜けると、突然空が開けまろやかな山並みを背景に畑や民家が出現。薄暗い山道を歩き続けたあと大原に到着すると、「人里に来た!」という気持ちになる。若狭街道や比叡山を行き交った昔の人々も、大原の風景を見たらさぞほっとしただろう。
<今回のデータ>
歩行時間 約5.5時間
歩行距離 約9.8キロ
最高地点標高 794m(水井山山頂)
最低地点標高 215m(大原戸寺町)
<アクセス>
出発点:叡山ケーブル比叡駅
到達点:京都市バス・戸寺バス停
京都一周トレイル 北山コース(2)大原戸寺町〜山幸橋 約12キロ
北山コース2回目は、大原の里から西に進み、鞍馬、そして貴船を経て賀茂川(鴨川)の上流にかかる山幸橋まで。北山コースの難点は観光スポット以外はバスの本数が少ないことで、歩ける距離とバス停への近さから考え、いつもより少し長距離・12キロを歩くことにした。
修験者気分に浸れる! 鞍馬・貴船への道
またこの周辺は、2018年の台風被害で今も倒木が多く、加えて20年7月の大雨が土砂崩れを引き起こし、現在も叡山電車の市原から先(二ノ瀬・貴船口・鞍馬駅)は運行されておらず、バスが代行運転している。状況から見て道が悪いことが予想される上、熊の目撃情報もある。足元をしっかり固めて、熊よけの鈴を装備して出かけた。

トレイルルートは、大原三千院などがあるエリアから南に500メートルほどの戸寺からスタートする。地域の人々によって道は整備され、美しい里の景色に目を奪われる

道のあちこちに小さなほこらと神様が

天武天皇が襲われた際、ここで心を静めたとされるのが地名の由来ともいわれる「静原」を通過。静原神社には杉の大木が何本もそびえ立っていた

歩いたのは8月7日。都会ではあまり見なくなったツユクサがひっそり咲いていた
静原の集落を越え、再び山のなかへ。100mあまりの標高差を登り詰め、薬王坂を目指す。伝教大師最澄が鞍馬で薬師如来の像をつくり、比叡山に戻るときにこの坂で薬王が姿を現したとされるのが名前の由来。延暦寺と鞍馬寺、そして大原を結ぶこの峠道はさまざまな人が行き交った歴史の道だ。

延暦寺と鞍馬寺、そして大原を結ぶ峠道

薬王坂を越えて100mあまり下ると、鞍馬到着! 大原から鞍馬まで私の足で3時間くらいで歩けた。地図を見てイメージしていたよりずっと近い

いつもはたくさんの観光客や参拝者でにぎわう鞍馬寺の門前町は、人の姿もあまりなく寂しい雰囲気だった。コロナ禍による自粛と、大雨の被害によるものだ。早く人でいっぱいの風景が戻りますように

叡山電車鞍馬駅。大きな天狗(てんぐ)のお面は写真スポットとして人気
鞍馬から貴船、二ノ瀬を通過し、本日二つめの峠越えに向かおうと登山口に立つと、注意事項がいくつも貼り出されていた。伐採工事による迂回(うかい)路と、熊出没注意。熊よけの鈴を装着、さらにiPadで威勢のいい曲を流しながら山に入った。

登山口に立つと、注意事項がいくつも貼り出されていた

200mほど登り、標高375mの夜泣峠に到着! 平安時代、皇位継承争いに敗れた文徳天皇の皇子・惟喬(これたか)親王が幼いころここで夜泣きをしたが、峠のお地蔵様に願をかけたら泣きやんだという伝説からその名がある

山幸橋から見た賀茂川
無事、熊にも遭遇せず山道を下り、山幸橋(標高130m)に到着。ここは賀茂川の上流地帯。さらに上流まで続くハイキングコースもあり、いずれ歩いてみたい。

この日のトレイルコースは山幸橋まで。しかしバスの本数が少ないため、そのまま賀茂川沿いを南下して上賀茂神社まで歩いた。途中で見かけた柊野堰堤(ひいらぎのえんてい)。時代劇のロケ地にも使われるとか。賀茂川にもいろいろな顔がある
<今回のデータ>
歩行時間 約6時間
歩行距離 12キロ
最高地点標高 420m(向山)
最低地点標高 130m(山幸橋)
<アクセス>
出発点:京都市バス・戸寺バス停
到達点:京都バス山幸橋バス停
※<今回のデータ><アクセス>とも山幸橋までのものです。
京都一周トレイルWebサイト
https://ja.kyoto.travel/tourism/article/trail/
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